※現パロホラー



七不思議の七つ目は『それを知った者が死ぬ』、なんてよくある作り話だ。わたしの通っていた小学校もトイレの花子さんや誰も弾いていないのに音楽室のピアノが鳴るなどなど、ありきたりな不思議が六つあって、七つ目はそれだった。しかし、ある事件からもともと信じられていなかった七不思議は誰も信じなくなり、代わりに一つだけ語り継がれるようになった。
わたし達が卒業する二ヶ月前に死亡事故があった。
今はもうない旧校舎での転落死。閉ざされているはずの非常口の鍵が開いていて、扉にもたれかかった男の子が三階から落ちていったのだ。非常階段は錆びが酷く取り壊されていて、都合よく木がクッションになることもなくアスファルトに頭部を強打してほぼ即死だったらしい。噂ではその男の子が夜な夜な旧校舎の跡地をさ迷っている、とか。

「うちは君、こんなところにいたの」

その事件後の春休み期間に旧校舎は取り壊された。跡地となったこの場所には何もない。何もない場所に彼はいた。
勉強もスポーツも、他の子達より抜き秀でていた。うちはマダラは明るいムードメーカーじゃなかったけれど陰湿な暗いキャラでもなかった。その事件がおきる前は、よく笑う人だったと思う。

「………弟がいると聞いてな」

彼の弟、うちはイズナは転落死した。昼の休憩に友達と旧校舎で遊んでいたときに、鍵が空いていた非常口にもたれかかって、三階から。
あれ以来、うちは君は性格ががらりと変わったのを覚えている。それからすぐに卒業式があって皆と違う中学校へ彼は行ったため、うちはマダラがどうなったのか知る人物はわたしの周りにいなかった。あんなこともあってか、同窓会に来るなんて誰一人想像しなかった。連絡もなしに急に来て、というかいつの間にか居て、そして定番のタイムカプセルを開帳する頃に校庭から消えていた。まるで幽霊だ。

「タイムカプセル開けたって、手紙受け取らないの」

今、この小学校に通っている子供達はその男の子の霊を語っている。頭から血が出ている、全身血まみれ、頭はぐちゃぐちゃ、意外とイケメン、適当なことを言って勝手に語り継がれるのだろう。当人達の気も知らずに。

「ねえ、うちは君」
「どっちに言っているんだ」

うちはマダラにとって、此処に うちは は二人いるらしい。

「マダラ君の方だよ」
「オレはもう受け取った」
「手紙、書いていたんだね」
「ナマエはどうなんだ」

心臓がどきりと大きく響く。わたしの名前を知っていたんだ。未来の自分への手紙を作ろうと担任の先生が言い出したのは卒業間近だった。事件後だったはず。あのときのマダラがクラス行事で手紙を書いているはずない。教室が足りず校舎を増築した、何クラスもある大きい小学校で、わたしとうちはマダラは同じクラスになった記憶は無かった。わたしが一方的に彼を知っているだけだった。

「ナマエは、もう手紙は受け取ったのか」
「まだだよ」
「こんなところに居ないで取りに行ったらいいだろう」
「………見つからなかったの」

この日が来るのがずっと怖かった。昔のわたしを受けとることがとても恐ろしかった。封筒の中に隠したものは大人になったこの日まで一度も決して忘れられなかった。

「探さないのか」
「もういいの」
「…オレに何か言いたいのか」
「それは……」


一人の女子生徒が非常口の鍵を開けた。紛失していた鍵は彼女が職員室から盗んだ。悪意があったのか知らない、階段が取り壊されていて、扉を開けたら通路もなにもないのが面白かったのかもしれない。まさか人が死ぬとは思わなかった。悪いのは立ち入り禁止の旧校舎で遊んでいた人達、わたしは悪くない。でも、少しだけ関係があった。証拠を持ち続ける勇気はなくて、それを厚めの紙に包み何枚もの便箋で覆って封筒に入れた。タイムカプセルの中に眠っていた未来の自分への手紙。雲と空がかかれた薄い水色の便箋セット。

「わたしに、言いたいことがあるのはうちは君でしょう……」

鍵を隠した封筒は記憶のものより厚くなくて、マダラが手にしていると薄く刃物のようだ。

「だから、どっちの うちは なんだ」

射抜かんばかりの瞳で睨まれると考えていたが、マダラは笑っていた。どうしてこの男は笑っているのか。予想外のことに思考が追いつかずその場に立ち尽くして、何年も封じていた恐怖や罪悪感が込み上げてきた。わたしが泣き出すとマダラはいっそう愉快そうに肩を震わせた。





裏設定でマダラは霊感あって主人公の後ろにイズナがいることに笑ってる。


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