※謎現パロ


 恋人ができて、部屋に彼女の私物がふえた。お揃いのマグカップをみてえもいえぬ満足感を覚える。洗面所には歯ブラシやちょっとした基礎化粧品が置かれているのを眺めて「同棲しているみたいだ」と独り思いふける。自分で使うことはない無駄に高かったヘアドライヤーは彼女のお気に入りだ。実家暮らしの彼女、ナマエの家にあるものより高性能のためオレの家に泊まるときの細やかな楽しみらしい。そんな楽しみよりもっといいことをするんだぜ、なんて下心全開で考えていたらナマエが机の上に置かれていたあるものを手に取った。

「なにこれ。お面?」
「…それは」

 内心ダッセーと思っているであろうデザインについては特になにも言わず、ナマエはこの面がなんなのかを聞いてきた。B級映画であったら裏の顔をもつ恋人の手がかりや伏線としてほのめかすワンシーンになるかもしれない。しかし、うちはオビトにそんな秘めた要素はない。ナマエに隠していることは強いて言えば身内に髪の長い変人がいるぐらいだ。

 オビトの部屋は私物が少ない。家具や家電、日用品をぬいたら衣類と書類しか残らないかもしれない。アンティークなんてものはなく修学旅行で買ったゴム製のクナイが引き出しの奥の方にしまっているぐらいだ。アンティークですらない。だからこそ恋人の私物が増えることに喜びを感じているし、質素な家におかれたこの面が異様な存在感をかもしだしナマエは疑問に思った。
 なぜこのような頑丈な面があるのか。それに本人が使わない高性能なヘアドライヤー。そして身内にいる髪の長い変人が関わる、ある物語が存在する。
 それは、ナマエがこの家に初めて泊まりに来たときのことだった。



「オレの髪を見ろ…」
「大丈夫、禿げてないよ」
「禿げるか!うちはは代々髪に恵まれている」

 急に髪の心配をしだす、少しだけずれた感性をもつ恋人。そういうところが抜けてて可愛いなんて思う。しかしオビトは可愛いと感じるより焦っていた。ことの発端は「ドライヤーない?」とお風呂あがりの彼女の発言。何を隠そう恋人が家に来てシャワーを浴びるビッグイベントの真っ最中だった。ついにここまで来たことに祝福してほしい。「くる人は三十でくるらしよ…」と不吉な言葉を残しつつ、オレの発言を聞いてもうちょっとだけ考えた彼女は察した。オレの髪は短い、よってこの家にはヘアドライヤーはない。

「どうしようか…」

 これがカカシぐらいの色男であったらドライヤーごときで焦ったりもしないだろうが、オレはうちはオビトで相手がナマエ。相手はナマエなのだ。「髪の毛を乾かすからお家帰るね」と言って帰宅する可能性があった。というかこの流れからして絶対帰るだろう、彼女は困ったような帰りたそうな顔をしていた。
 祝福してもらっているのにこのビッグイベントを終わらせてなるものか。ライブ中にバンドが解散しては観客が呆気に取られる。ここで真っ先に思い付いたのがヘアドライヤーの購入だった。さきほど家にくる前にコンビニで簡単な化粧水や歯ブラシなどを買ったように買えばいい。

「買ってくる」
「ええ、わざわざいいよ。それに電気屋閉まってる時間だよ」
「……ホテル行くか?」
「髪濡れてるし化粧落としちゃったし街中歩きたくないなあ…」

 バスタオルでぽんぽん自分の頭を叩きながら髪の水分を拭き取るナマエ。彼女の
顔がお風呂上がりで頬が赤いのに対しオレの顔色は蒼白していた。じゃあ帰る。そんな流れになってきたぞ。髪は女の命という言葉があるが命をかけるほどてはないにしろ身なりに気をつかう女性なら好んで濡れたまま放置しない。コンビニでアメニティを急遽買ったからわかるだろうか、泊まる予定だったわけじゃなかった。ヘアドライヤーが売ってそうな近場の店が閉まっている時間で、付き合ってこそこその時期、この偶然が重なって誘ったらのってくれただけで彼女は帰ろうと思えば簡単には帰れる立場にある。
 このままではオレが車を出して家に送るながれになる。ライブ途中どころかライブ前にバンドが解散してしまう気分だ。解散理由は音楽性の違いではなくオレの家にヘアドライヤーが置いてなかったため。こんな不甲斐ないことがあってたまるか。

「借りてくる」
「こんな夜遅くに?」
「近いし心配ない」

 ヘアドライヤーを持ってそうな近所の知り合い。一番近いのは子供のときから班が一緒だったりしたリンだ。女性の彼女なら持っているだろうし、優しいから貸してくれる。しかし夜遅くに訪ねていい相手じゃない。他に、オレの家から近い知り合い。カカシなら寝ていても深夜に押しかけてやるが、ヘアドライヤーを持っているのかわからない。叩き起こして持っていなかったら時間の無駄だ。もちろんオレとナマエが一緒にいられる時間であり、あいつの睡眠時間ではない。あいつが起きていようが寝ていようがもうどうでもいい…。

「迷惑かからないかな…」
「身内だから気にするな」

 そこでうちはオビトは身内にいる髪の長い変人を訪ねることにした。あの男なら確実にヘアドライヤーを持っていると、共に暮らした時期もあるオビトは知っていた。そのために戻ってきた。



「久方ぶりだなオビト…『たぶんここへは二度と来ねェ』と言わなかったか?」

「ドライヤー借りにきた」

 あっけからんとしたオレの態度にマダラはため息をついた。夜遅くに急いだ様子で訪ねた内容がこれだった。気にくわない奴であるが彼のいいたいこともわかる。もし逆の立場だったら追い出してもおかしくない。たが砂利には余裕の態度で接するマダラは追い出さず「勝手にしろ」と言い残し奥へ戻った。洗面所にむかい、最新式であろうヘアドライヤーを拝借する。家は昔ながらの日本屋敷で鷹狩りなどと古くさいジジイのくせにこんなところだけこだわりやがって…。

 さて、こんなところを早々と去ってナマエのもとへ向かうか。髪の乾かしあいというじゃれあいに惹かれたりする純愛思想をうごかし家に帰ってからの出来事を想像していたら。てっきり自室にこもったと思っていたマダラが目の前にいた。
 ここへくる口実ではなく本当にドライヤーを借りにきただけのオレの行動に疑問を抱いているのだろう。

 マダラはオレが髪を乾かすのにヘアドライヤーを使わないのは知っている。しかしナマエが使うのは知らない。そもそもナマエの存在を知らないし、オレに恋人がいることも知らない。知らせるつもりもない。彼女が泊まりに来たんでヘアドライヤー借りるぞ。そう伝えれば、保護者面して「今度、会わせろ」と言ってくるに違いない。誰がお前のような陰湿なジジイに可愛い恋人を会わせるか。子供にすら合わせて会話ができない残念な大人に、か弱い女は醜いとかのたまう時代錯誤ジジイにナマエを犠牲にしたりしない。

「何に使うんだ?」

 だからと言って、理由を尋ねられたのに無言で借りる無礼者に成り下がればマダラからの印象が悪くなる。別にこんな奴に嫌われてもいいんだがヘアドライヤーを借りる今の立場としてそれは避けたい。ドライヤー…乾かす…。何かを乾かすのに使うことにしておこう。こんな夜分遅くに訪れドライヤーを借りてまで、急ぎで乾かす必要があるものだ。
 明日着ていく服…服ならドライヤーじゃなく乾燥機で乾かすし、コインランドリーなんてものもある。
 他に、彼女がいると悟られないもの。女が使わず男のオレが使うもの。プラモデルを乾かすのに使うとかはどうだろう。イヤ、オレにそのような趣味はないし幼少のときから興味すらなかった。マダラを言いくるめられる方法を必死に考えた。早く言わなくては怪しまれる。早く帰らなければ。家には恋人が濡らして待っているんだ、髪を。

「……面を作っている」

 焦った結果、自分でもよくわからない言葉が出た。きっとプラモデルから連想して小学校の図画工作の授業の鱗片があたまに浮かんでいたかもしれない。だとしても、誰が面なんて作るんだよ。小学校の図工で作った思い出もなければ、文化祭ではしゃぐ年齢は過ぎている。家で待っているナマエに早く会いたくて咄嗟にでた言いわけだった。

「そうか」

 特に疑いもしなかったマダラは「完成したら見せろ」とだけ言って部屋へ戻っていった。誰が面なんて作るんだよ。オレだよ。オレが、面を作って完成させることになってしまった。


 そうして手にいれたヘアドライヤーは、ほとんど乾いていたナマエのへアセットに使われ。初のお泊まりは、悲しくもやましいことなどなく清く正しいものであった。律儀に面を作って、肝心の借りたものを返さず私物化させるのはどうかと思うがマダラは家電の一つや二つで騒ぐ男ではない。あいつのことだ。どうせ、さらに高性能のヘアドライヤーを買ってあの手入れしているんだかしていないんだかわからぬ長い髪を乾かしているのだろう。…嫌な絵面想像してしまった。



「なにこれ。お面?」
「…それは」

 かくして、そんな苦労を強がりなオビトが原因となってしまったナマエに語ることはなく。面については明らかに手作りの一点もののため土産や買ったとも言えず、「作った」とだけ答えた。頼むから理由は聞かないでくれ。


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