※扉間小隊


 閉鎖的な環境に嫌気がしていた。この土地は年中霧に包まれ視界は晴れることなく、日の暖かさを生まれてこの方感じたことがなかった。日の暖かさと言えば砂隠れ、しかしその里は暖かさというより猛暑そして乾燥しているため水気が無い。水の無い所で水遁は使えない。では雲隠れは…雷遁使いが多いと聞く。岩隠れは論外、影同士の仲がたいそうよろしくないのでどう扱われるかわかったもんじゃない。

 そうだ、木ノ葉に行こう!

 聞いた話によると火の国の気候は過ごしやすく緑豊かな土地、木ノ葉隠れ長の現火影は水の無い所でも水遁使えるほど水遁が得意のお方らしい。文面だけで尊敬できるお方だ。本日より彼を敬い、新天地でじめじめしとしとライフとおさらばするのだ。

「それにしても、どうやって木ノ葉に侵入してきたお前」
「用水路的なところからスイーっと」
「霧隠れのナマエ…だったか?」

 簡単に侵入はできたものの、さっそく里名物の団子貪っていたら数分で取っ捕まってしまった。「さすが秋道一族の者…もしかして団子の食べ方で気づいたのかな」「トリフは額宛で気づいたそうだ」
 よかった、里流儀の食事マナー違反してたわけじゃないのね。さすがに食事のマナーでばれたら恥ずかしい。よかったよかった。よくないよ。元自里の額宛つけたままだったとかどんなけうっかりさんなんだ。なおのこと恥ずかしい。

「今、二代目様に連絡を取るから大人しくしていろ」
「水か火、どっちの二代目?」
「両方」
「やめろォ!お願い見逃して」
「残念だがお前は霧より各国に指名手配されている。指名手配者を庇うことはできない」
「そこをなんとか!……って、えっ指名手配」

 志村ダンゾウと名乗った目付きの悪い忍は、わたしのことを指名手配者と言った。里抜けは重罪であるが、とくにこれといって抜けるときに反撃したり等のことはおこしていない。しっかり置き手紙に"今まで育ててくれてありがとうございました"と残して抜けたってのに指名手配は酷くないかチョビ髭野郎。存外な扱いに怒りと悲しみで呆気に取られるわたしにもう一人の忍が言葉をかけた。

「指名手配といっても保護してほしいとの依頼だ」
「あっ、なんだ」

 目付きの悪い志村さんにヒルゼンと呼ばれた小柄な男性は安心させるように教えてくれた。言われてみれば、通常の指名手配と違って取っ捕まったけれど拘束されずわたしは応接室のような間で待たされている。机の上には茶菓子の入った器と温かいお茶、至れり尽くせりな客人へのおもてなしのようだ。「連絡が届いたら迎いがくるからなあ」ヒルゼンさんは迷子センターの係り委員のようにわたしに接してくれている。

 彼らの言葉で、手塩かけて育ててくれていたじめじめライフな日々を物思いに耽る。
 里はともかく、水影様はいいお方だった。なにかとわたしを気にかけてくださり子供の頃は頬擦りしてきたときなんて当たる髭が痛くて、あのチョビ髭いつか殺すと思っていた。水影様…あの大きいハマグリを蒸そうとしてごめんなさい、お気に入りの服を水鉄砲で穴開けてごめんなさい。

「うぅ…水影様……」

 あんな対応ばかりしていたわたしを保護してもらうため各国に呼びかけていただなんて。きっとわたしのためにプライドも捨てて仲の悪い土影にも呼びかけていたのかどうかはわからないけれど、未だ見ぬ二代目火影殿には呼びかけたのだ。

「水影様ー!」
「泣くなら里抜けなんてしなければよかっただろ」
「怒られるから帰りたくないよー!」
「そちらの意味で泣いてたのか…」

 冷静なつっこみを貰いながら今後を嘆いた。水影様は陽気な方だが怒らせると怖いのだ。「下手に霧と因縁持ちたくないから大人しく茶菓子でも食べて待っててくれ」なんて殺生な言葉をおっしゃる。だからといって大人しく霧隠れに戻るわけにはいかない。怒られたくない。

「クッ……茶菓子程度につられないわ」
「おい、逃げるな!ヒルゼン金剛牢壁を頼む!」
「わかってる」
「きゃあ!なにこれ……」

 何処からか出てきた牢屋に囚われてしまった。口寄せの術だろうか、なぜかお猿さんもいた。さすが木ノ葉、見たこと無い術を使用する。同じ口寄せなら貝類よりこちらのほうがいいと思った…ねえ大蜃さん。やっぱりわたしは生まれる里を間違えたようだ。
 囚われた牢は、わたしのよく知る水牢の術と違って隙間がある。

「これぐらいの隙間なら水化の術で抜けられそうかも」
「生まれる里は間違ってないだろう」

 しかし水化の術で牢脱けなんて試したことがない。もしかしたら服が脱げてしまう可能性がある。万事休す、大人しく茶菓子達を食べておけばよかった…と思っていたらヒルゼンさんが牢の中に差し出してくれた。

「服が脱げる…だと」
「やめとけヒルゼン、こんなアホ女に興奮するな」
「アホ女って…これでも霧じゃあ美人と呼ばれたいな」
「願望かよ」
「謙虚な女性と評してね」

 ちなみにヒルゼンさんが持ってきてくれた茶菓子は煎餅だった。器の中にはもなかや饅頭らしい包装の茶菓子が見えるのに、煎餅だった。ひどいチョイス。

「なにこのおせんべい」
「カガミが置いてった煎餅だ」
「これ、喉かわくからお茶ほしい」
「捕虜の分際で…お茶かけるぞ」
「濁った水遁ね。汚い、木ノ葉の水遁は汚ない」

「……ヒルゼン、二代目様が来る前にこの女を始末しよう」
「落ち着けダンゾウ」

 会話をしていたら怒られた。ヒルゼンさんが志村ダンゾウを押さえつけた。木ノ葉の忍は荒っぽい…保護してくれるってのに今にも殺しそうな勢いだ。捕らえる牢が逆にわたしを守るとかこれいかに。情けない立場に落ち込みかけてたら志村ダンゾウも落ち着いてきたようだ。

 安全を確保された牢壁内でヒルゼンさんがご親切にもってきてくれたお茶を楽しんでいると、誰かの気配が近づいた。チャクラ量からして影クラスの忍、つまり二代目火影殿。

「待たせたな……なんだこれは?」
「この人が二代目火影…」

 牢に捕らわれている忍が茶を啜るシュールな光景、状況が理解できぬ火影殿に彼らが丁寧に説明をした。また志村さんに悪口言われた気がするけれど、そんなことが気にならないほど二代目火影殿に目か釘付けだった。

「かっ…かっこいいかも」
「は?」

 里で聞いていた二代目火影の噂はいいものではなかった。霧にとって、人格やら外交、忍としての実力が先代の柱間殿と比べたとき評価が下がっていたからだろう。わたしは、さぞ残念で陰険な水遁使いなんだろうと想像していた。闇のオーラ纏ってる系かと思いきや刀のように輝く銀髪に鋭い眼光、精悍な顔立ち。水影様のように変な髭も生やしていない。おまけ筋肉質の長身。
 つまり容姿が好みのドストライクのお方だった。
 それでいて一流の水遁使い。さらに飛雷神や影分身など様々な高等忍術を開発しているとかなんとか……。

 こんなのって、惚れるしかないじゃない!

「火影殿…いいや扉間様!好きです!」

 ナマエ、本日より霧隠れのじめじめライフとおさらばして木ノ葉にて優雅な火影夫人ライフを送りたいです。

「一目惚れしました。あっ水影様には、わたしがこの里の子になるって伝えてください」
「木ノ葉は亡命を受け入れてない」
「冷静なつっこみも素敵!」



 後日、「ウチの里の忍誑かしやがって!」と水影様が乗り込んで友好関係どころか余計に拗れた因縁ができてしまい、わが故郷はさらに閉鎖的になったとかなってないとか。


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