「ごめんなさいごめんなさい、わたし一族で一番弱いから殺しても何の勲功になんないよ!」

 忍の生き様、死に様を語る者は居るだろう。まだ青年であるが忍とは何かを悟りかけていた千手扉間は、散々死にたくないと喚き散らすうちはの若い女に度肝を抜かれた。何だこいつは幻術か。

「殺すのだけは勘弁してください……なんでもするから殺さないで!」
「…わかったから、喚くな」

 戦は両一族撤退の指示が出ているためそれに従う。動揺を隠しながら色々と話しかけた結果、捕虜にすることにした。
 何故オレがこんな女を持ち帰らなければならないのか疑問に思った。己の役目は撤退する軍の最後尾、本来なら一人では戻れぬ負傷した同族達を連れて帰るはずだった。喚いていた女は大人しく縄に繋がれ「千手ってイケメンいる?」などとほざいていた。兄者であったら、オレのことぞガハハ!と調子良く返していただろう。あいにくそんな感性を持ち合わせてないオレは「黙れ」と一喝入れて無言で陣内へ戻ることにした。そもそも長たる柱間に次ぐ千手の実力者を知らぬとはこの女は本当にうちは一族の者なのか。

 ここ最近の戦において、千手一族はうちは一族に優勢である。最後尾から確認出来るだけでも損失が少なく安堵していたら、オレの存在に気づいた同胞が声をかけてきた。

「扉間様、この忍は?」
「……………うちは一族だ」

 何とも言えぬ言葉の間に、晦渋な顔をしていたが彼女がオレに「友達?」と聞いて察したのだろう。この女、何かがずれてる。道中暇だったのか敵であるオレ達に自己紹介までし始めた。名はナマエ、憧れの忍は族長マダラとその弟イズナ、得意な術は火遁、心底どうでもよい情報を聞き流していたらほどなくして集落に着いた。千手の家紋が描かれた旗が掲げられているのを目にし、ナマエも気づいたようだ。

「うわあ変な所」
「……貴様、自分の立場を理解しているのか?」

 きょろきょろ忙しなく辺りを見渡し、あれが変だのこれがダサいとオレ達に話しかけた。ある意味貴重な意見のため、怒りを抑え聞いていたら暫くして泣きそうな声で喋った。

「やっぱり帰りたい」
「無理だ、集落の場や見張りの配置を知られて帰らせることは出来ない。そもそも貴様は捕虜だ」
「じゃあ捕虜やめる」
「……死にたいのか?」
「えっ」

 血継限界を持つ忍は肉体が情報となる。敵に情報を渡すぐらいなら死を選ぶ。相手はうちは一族だろうと楽に死ねる薬をやる情けは残っているので、提案したが、泣かれた。立場も状況も理解してなかったのか。

「死にたくないけど死にたい…うう」
「なんだそれは」
「だって…千手に捕まったら目玉抉られるっめ…イズナ様が」

 イズナめ、根も葉も無いこと言いやがって。過去の千手の長が確執を持つうちは一族をどう扱っていたのか知らぬが、現長である兄者がそれを許すはずがない。

「写輪眼開眼の兆しもないただの目玉なんで勘弁してください!あああ!」
「騒がしい、喚くな!」
「うわああん」
「ったく、イズナの奴め適当な事を言って…兄者が勘違いしたらめんどうなことになる」
「本当ですね、長がこの場にいなくてよかった」
「まったくだ」

 千手の男二人がうちはの女を泣かせてる図なんて兄者がみたら色々と誤解をしそうだ。気の合った同胞と軽く笑っていたら、同じタイミングで青ざめていった。そういえば彼も感知に長けた忍だった。人よりかなり多いチャクラ量が此方に向かってくるのを感知したのだろう、あれは紛れもなく兄者のチャクラであった。

 千手一族の長として、戦帰りはやらねばならぬ仕事が多いはずだ。兵の損傷、武器や巻物の損失の確認だけでも毎度オレが手伝っていた。オレを捜して此方へ向かってきているのか、泣き声を聞いて向かっているのか知らないがこの状況は不味い。このままでは兄者が千手の男二人がうちはの女を泣かせてる図を目の当たりにしてしまう。
「クッ、兄者が来る前に泣き止ませなければ」
 また小言と聞きたくもないマダラとの美談を聞くはめになる。だいたい兄者はうちは一族に対して甘過ぎる。

「…ぐすん」
「それはイズナのついた嘘だ。停戦を望む千手は保護を求めたうちはに乱暴なことはしな…」
「イズナ様は嘘つかない」
「オレ達は目玉を抉ったりしない」
「もっと酷いことされるの!?」

 余計に酷くなった。同胞もナマエ肩を撫でたりするがさらに怯えて無駄に終わった。「やはりうちは、此方の幻術も効きません」彼はあやかすふりしてなかなか卑劣なことをしようとしていたようだ。
 しかしオレは泣く女を慰める術を持っていない。それに彼女は女と言うより子供のような言動をしている。泣いた子供をあやかす、のほうが正しい表記であろう。かつて父上が泣いた子をどうしていたか思いだし声をかける。

「忍が泣くな」
「うああああん!」

 効果は無かった。
 そもそも此奴は忍なのか、本当にあの誇り高き好敵手であるうちは一族なのか。そういえば父上の言葉で板間も泣き止まなかったが一桁の子供と同じで良いのか、貴様は。

 戦で削られた体力がさらに削ぎ落とされた。他の者に投げてしまいたいが連れてきてしまったのは他でもない千手扉間だ。心配そうに見守っていた千手の忍が「飴を与えてはどうでしょうか」と話しかけてきた。飴か…、鞭を打っても打つ予定も無いが泣いた子に与えるにはいいだろう。戦帰りに飴を所持する忍はいないが、提案した彼はどうぞとオレに飴を差し出した。何故持っている。彼が普段から飴を持ち歩いているのかその疑問を横に置き、ひとまず貰った飴を彼女に差し出す。これで泣き止まなかったら気絶させよう。

「怒鳴って悪かっな、飴をやろう」
「…………ぐすん」
「口を開けろ」
「あーん」

 縄で縛られているため両の手が使えない。仕方なく食べさせてやるが大きく口を開けて飴を待っていた、こいつは雛鳥か。親鳥になった気分だ。毒を盛られる可能性とか考えないのか。馬鹿だ。

「ぐずっ……おいしい」
「よかったな」

 まさか本当に飴で泣き止むとは思わなかった。
 飴に夢中の今、泣いてぐしゃぐしゃになっていた顔を拭いてやる。拭った時に「黒飴じゃなくていちごのが欲した」とか呟いていたが、出きる限り優しい力で拭いた。腹立つなこの女。
 しばらくして予想通りに兄者が現れる。

「扉間、子供の泣き声が聞こえたが何かあったのか?」
「……ここに子供は居ない、兄者の幻聴じゃないのか」
「そうかの。ところで彼女は?」
「うちはの捕虜だ」

 兄者は捕まっている女の泣き跡に気づき、優しく語りかけた。

「こんな若い女まで…主、名は何と言うかの?」
「うちはナマエ…」
「ナマエ、千手はうちはに停戦届けを出している。この戦争も時期に終わる」
「抉られない?殺されない?」
「ああ!無事のまま家に帰れるぞ!安心して千手の飯でも堪能しててくれ」

 さすが兄者、子供の世話は御手の物。戦場で会って数時間立つオレよりナマエと息も合っている。笑顔になったナマエに兄者も笑った。

「むっ、何か口に入れてるのか?」
「…飴」
「さっそく千手の飯を口にしていたかガハハ!」
「ただの黒飴だ」
「あのね、そこの青い甲冑のお兄さんに貰ったの」
「!そうか…扉間かの…!扉間が!」

 兄者から生暖かい目で見られた。


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