※メシマズ嫁の続きです(相手は扉間)。


 忍に年末年始は無くひっきりなしに里に任務依頼が届く。寧ろ、帰省の護衛依頼など忙しくなる。
 そんな任務を振り分ける上役の仕事、いかなるときも上を守るために下が盾になるのは世の条理。一族頭領たるうちはマダラは下に押し付け自分は年末年始をのんびり過ごすと決めた。もう既に同胞達からも疎まれてるから今更自分の評価なんざ気にしねえ、そう考えていた。

 せめて大晦日と元旦だけは家で過ごしたい忍達がいつもより速度をあげ仕事に取り組む最中、早々帰宅したマダラに鷹が襲いかかった。うちはナマエ、いいや扉間のもとへ嫁ぎ千手ナマエになった彼女の鷹だ。
 鷹に持たされた文には『南賀ノ神社石碑前集合』と書かれていた。

 適当に集落に居る者を声かけすれば結構な人数が集まる。

「いったい何の話なんだ…」
「まさか…ナマエさんが家庭内暴力を受けていてその相談とか」
「相手はあの千手扉間だ」
「ありえるな…」

 などと扉間は居ない所で散々扱いをうちは一族から受けていた。
 
 千手の二番手に嫁がせたナマエは同胞からの評価は高い。争い事を好むと疎まれがちな頭領と違って争い事を避けるために、一族を守るために千手へ嫁いだ者。同情は勿論、そもそも忍としても実力共々一族から信頼されていた女だ。

「御節が作れない」

 そんな彼女の相談がこれであった。

「年末は忙しいし…時間がないのに…御節が作れないのよ」

 買えばいいじゃねえか。誰もがアホらしいどうでもよい相談事にそう思った。そんなことで年末の忙しい時期に収集をかけたのか……怒りの矛先は無論、呼び掛けた頭領へ。とばっちりである。

「出来合い御節だなんて…嫁いだ妻として恥ずかしいわ」
「毎日夕食は手作りなんだろ。正月ぐらい料理をサボっていいさ」
「ええ!昨日はアサリの酒蒸しに挑戦しました」
「ほう……」
「ですが扉間の野郎ったら最近、食が細くて」

 心配そうな顔でナマエは語った。夕食を全然食べなかったことに悲しんでいる様子であった。その様子から千手うちは夫婦は結構仲良くやっていると伺えるが、出された飯を完食しないとは無礼な千手だ、と考える者もいた。
 くだらない相談事ではあるが、かつて無い姓の違った曰く付きの夫婦。野次馬根性で気になるのだろう。呼び掛けられた者は誰一人と帰らず親身に相談にのろうとした。これが人望の差か…一人別の事を考えていたうちはの頭領は一つナマエに問う。

「………砂抜きはしたのか?」

 そんな当たり前なことを何言ってんだ、やっぱり空気読めねえな頭領ってよ。一族はそう思い。

「ちゃんと洗ったわよ」

 そのナマエの返答に一族皆がしょっぱい顔をした。洗う…洗うってなんだ。砂抜きとは塩水につけることだが、厨房入らずの男ならともかく、嫁いだ女がまさかそんな間違いをするとは思わなかった。思いたくなかった。嫌な予感が駆け巡る。

 幼馴染みでありナマエの料理能力を唯一知る頭領のみ、それが言葉通りざるに入れて水洗いしたってことだと理解した。

「ナマエ、アサリは洗うだけでは砂は抜けんぞ」
「あらやだ」

 マダラとナマエのやりとりにざわめきが起きた。身の回りの事を水仕女に任せている頭領が砂抜きを知り、嫁いだ女が知らない。ナマエが千手姓になる前、マダラは料理の修行に付き合っていたため本で読みマダラは知っていた。そして肝心の本人は忘れていた。

「丁寧に洗ったから砂は完璧に抜けたと思ったけれど」
「そうか」
「砂抜きって…アサリ一個一個にチャクラを練り込み、貝の中の砂を操らないといけなかったのね。知らなかったわ」

 その発言に、千手に親兄弟を殺された奴でさえ扉間の心配をし出す。

「なんて高度な料理…そんな忍術は使えないわ。わたしにはまだ早かったみたい」

 一人で納得し、御節が作れないと話題を戻す。田作りや黒豆が飴のように固まった、伊達巻が焦げる、昆布巻きが巻けない、栗きんとんが茶色い……もう何処から訂正を入れればいいのか解らない爆弾発言を投下し続けるナマエに、一族皆顔面蒼白になっていた。

「買えばいいじゃねえか」

「ああそうです!頭領の仰る通り、御節料理は難しいので無理に作らなくても?」
「買った方が……!」
「ナマエさんも忙しい身ですし」

 このときばかりは一族皆が頭領の意見に合意した。

 千手扉間を守るためうちは一族が仲間の説得をする。本来、有り得ない出来事だ…憎むべき対象だった千手とうちはが、彼らの知らないところで互いを守るなど。これが同盟ってやつか、感動的だ。
 柱間がこの場に居たら泣くだろうな、色々な意味で。大切な弟が幸せな家庭を築いたと思っていたが、毎日胃の苦行に耐えていたと知ったらオレも泣く。オレにはもう兄弟は居ないが……それでも扉間には同情してしまうぐらいナマエの料理は酷い。

 必死に説得を続けるうちに絶対手作りと意気込んでいたナマエも買った方がいいかなと迷い始めた。頑張れ同胞共よ、もう一押しだ。

「予約とかしてないけど大丈夫かな…」
「今時、予約無しで買える店なんて沢山ありますよ!」
「品数多いし、作るより買ったほうが絶対にいいです」
「そうですよナマエさん!」

「……そうね、御節は買って済ませましょう」

 ここに居るナマエ以外の誰もが喜んだ。これで千手扉間の新年は守られたと確信した、しかし。

「その代わり、年越し蕎麦は豪華にしないと」

 天ぷら作るの初めて!火遁のチャクラ持つかな?……そう笑うナマエを止める余力がある者は居なかった。揚げ物で火遁、火事になっても水遁使いの扉間なら…水に引火した油は駄目じゃねえか。年末大火災にならぬことを願おう、もう願うことしかオレ達にはできない。ただでさえ年末で疲れが溜まってるというのに、他族に構っていられるか。やっぱりうちはと千手は水と油だ、会話が成立しなさすぎて疲れた。

 扉間よ、せめて年が明けたらいい初夢を見てくれと誰もが願った。要するにうちは一族は見捨てたのであった。


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