ナマエと刀を交わすときとは違った緊張感、本来戦とはこの事だ。幼き頃からうちはイズナとは何度も殺り合った。火遁と水遁がぶつかり合い急性の霧が発生する。写輪眼相手に視界の悪い戦いを避けるため、予め距離を置いてあったクナイの方へ飛ぶ。イズナかマダラを倒さなければ戦況は大きく変えられん、いっそのこと次からは突っ込んで飛雷神斬りで勝負を決めようかと考えていた。

 刹那、嫌な胸騒ぎがした。

「きゃあ!」

 またナマエか……どうして貴様がオレのクナイを持っている。
 ナマエは激戦地から少し離れた場に刺してあったオレのマーキング付きクナイを持っていた。そのためそのクナイに飛んだオレは顔面同士がぶつかってしまった。接吻ではない、顔面同士が接触しただけだ。

「ちょっと!わたし、ファーストっ初めてだったのに!」
「……落ち着け」

 こういう出来事は何度目だ。誰かオレ達に呪術をかけている可能性がでてきた。そう思えるほど偶然な事故が多発している。

「とりあえずオレのクナイを返してくれ」
「わかった……」

 涙声のナマエはあっさり承諾しクナイは返された。妙に素直だなと感心した受けとる寸前に違和感が襲う。クナイの持ち手に仕組まれた針…これがオレのクナイだと解って仕組んだようだ。接着部の不完全さから仕込み途中だと解る、だからナマエは持っていたのか。
 目に涙を浮かべたところで油断も隙もない女だ。仕組まれていた針はいつぞやナマエが言っていた毒針だ。

「……顔面がぶつかっただけだ、気にするな」
「なによっ!その言い方……うぅ」
「そうは言ってもここは戦場だ、泣くなナマエ」
「もうこういうの止めてよ!責任とってよね!」

 オレ自身、もう今後このような出来事は止めにしたい。戦場でナマエに構う暇があるなら一人でも多くの敵を倒していたいのだ。傍らでイズナが「うわっ…接吻したよあの二人……」と引いていた。二人、つまりナマエは仲間から引かれてしまったということだ。これは不慮の事故であってナマエには非がないというのに。

 オレは考え、ナマエも納得する責任の負い方をひとつ思い付いた。偶然の事故に終止符を打とう。

「解った。決闘するぞ」
「えっ……」
「誰にも邪魔されぬよう二人っきりで行う」
「……本気で言ってるの?」
「オレが冗談を言う性格だと思うか」

 一対一の勝負なら人目を気にせず戦える。傍らのイズナやこの時のみ煩わしい兄者も、何者にも邪魔立てされず戦う事ができる。
 ナマエも忍だ。戦場でオレに何度も一騎討ちを仕掛けるあたり、女でありながら覚悟が決まっているのだろう。悩む仕草の後、素直に応じた。

「わかったわ……」
「そうか!なら日程と場を決め――」
「そ…そこまで言うなら結婚してやっても、いいけど…?」

 ……結婚?

「待て、結婚だと?」
「だから…扉間がそんなにわたしのこと好きなら!結婚していいわよ…!」

 片手を頬に添え、顔を赤くしてナマエは言った。
 決闘と結婚を聞き間違えたらしい。雑音が混じる喧騒な戦場で言ったのがいけなかったのか…?訂正しようにも恥じらい目を背けるナマエになんと声をかけたらいいのか検討がつかない。こんな性格だったか。

「扉間!」

 速さには自信があるオレでさえ驚く速度で現れた兄者がオレの名を叫んだ。少し遅れてマダラも到着する。オレの部隊から離れて長同士闘っていたのに、二人とも武器は持っていなかった。一族の長が勝手に休戦するな。

「兄者…」

「扉間、結婚は皆で祝うものぞ!」
「観光地で二人だけの挙式ってのもあるぞ柱間よ…」
「しかしだの、二人っきりでは寂しいではないか」
「ナマエ達が納得しているならオレ達は部外者だ。しかし長として祝儀は包ませてもらうぞ」

 当人のオレ達を放って同盟でも結びそうな雰囲気の両長。待て…誤解だ。オレは決着をつけたいのであって別にうちはナマエと結婚をしたいわけではない、はずだ。マダラの祝儀はいらない。

 そう伝える前にいつもオレ達を傍観しているイズナがやって来た。「…ダメだ兄さん…奴らに騙されるな…」やはり徹底抗戦姿勢のイズナはこの異様な流れをおかしいと気づくか。

「ナマエ達は式挙げたら駆け落ちするつもりだよ!兄さん、皆で向かうべきだ…!」
「よし、式は一族で祝おう」
「では千手も一族総出で向かうぞ」

 だから当人放って決めるな。イズナも一体どうしたんだ…貴様は徹底抗戦じゃなかったのか。傍らで最もオレ達の出来事に引いていたイズナが仕切って式はウエディングがいいと言い出した。そういうのはナマエの意見を尊重しろ。
 袖を引っ張られる感触がしてそちらを向く。ナマエは困惑しているオレに上目遣いで言った。

「式はどうするの、扉間」

 勝ち誇った嬉々を浮かべる顔で問われた。オレに対しては怒りか無表情、泣きそうになるぐらいの顔しか見せていなかったせいか見慣れぬ表情に不意に胸が騒がしくなった。このまま流れに任せていいのだろうか。戦が終わり和平するのは喜ばしいがオレはこれでいいのか。そんな疑問を消し去る澄んだ声だった。

 周りの忍達は敵味方関係なく武器を収め、和気藹々と会話をしていた。
 「やっぱウエディングだよな」「ドレスより白無垢だろ子供だな」「大事なのはいかに相手が喜ぶかだ」戦場で挙式の会話を始める若い男達を離れた場で両一族のくの一達が微笑ましい視線を送っていた。いまだかつて無い戦況だ。この状況、既視感があるぞ……。

 予想外の展開に、渦中の中心であり原因であるナマエがオレに問う。

「で、白無垢かウエディングどっち派なのよ……?」
「……両方」

 直後、戦場が歓声に包み込まれたのであった。


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