イタチとの任務は地獄だった。
 鬼鮫先輩は大刀を携えあの容貌のため大変目立つ。自己主張の激しい暁の衣を着ておいて言うのもなんだけれど密偵は目立たない格好をするのが好ましい。それでわたしとイタチのツーマンセルを一時的に組まされたのだ。リーダーに任務の旨を言い渡された時は、久方の休日に鬼鮫先輩は喜んでいたし、わたしだって美形の彼と組めるとこを喜んでいた。

 しかし、この任務…先に伝えた通り地獄だった。忍の実力差は目に見えているからいい。うちは一族様と自身と比べることなんてないし、そもそも正規メンバーのうちはイタチとわたしじゃあ某芸術家のようなライバル心も湧くわけない。

 でもね…これだけは。乙女としては負けたくなかった。

「トビ……仮面貸して」
「ナマエちゃん、なんスか急に」
「わたしは一生仮面を着けて過ごすと決意したのよ」

 イタチはプライド高い某芸術家も認めるほど顔がイケてる。こっちは寝起きのすっぴんを晒し、方や美形のお兄さん。寝起きで機嫌が悪いのか目を細めるが憂いを帯びたイケメンになっただけである。
 それだけではない。わたしは入浴時の洗髪はもちろん、寝る直前にブラッシングにトリートメントをしても、朝起きると髪に寝癖がついている。それをアイロンで整えてからわたしの一日は始まるのに……うちはイタチは手櫛で!片手で軽くすくだけでわたし同様、いやそれ以上のサラッサラヘアになった。というか起きた直前からなっていた。
 さらにもう一発!こっちはダイエットのために間食を控えているのに彼は気にせず、休憩に道中の甘味処へ寄ったのだ。何気ない顔をして団子抹茶セット二人前を頼むイタチが憎い!なぜ彼は細いのか!先輩に奢ってもらったものなので美味しく頂きましたけれど。

 と、このように彼との任務によって我が乙女心は粉々に打ち砕かれたのであった。これからは恥を晒さず仮面を着けて過ごそう。

「完全に逆恨みじゃないっスか」
「でも傷ついたのよ」
「じゃあボクが慰めてあげますね。よしよしナマエちゃん」
「うわーんトビー!仮面よこせー!」

 トビに抱きつくどさくさに紛れて仮面を引っ張る。身長差のせいで少し顔から離れてもトビの素顔は見れない。トビより背が高ければ隙間から覗けたのになあ。
 イタチとの任務でこのような馴れ合いが出来なかったことも精神ダメージの一つである。ずっと緊張しぱなっしで神経をごりごり削られたのだ。鮫肌より削りやすい緊張感がわたしの中で漂っていた……イタチは澄ましたお顔でした。
 そんな考え事をしながらでは、もちろんトビの仮面は奪取できない。本気で奪うつもりは無いけれどトビはこう見えても結構な実力者なのだ。どれぐらいなのかは知らないけれど。

「これボクの一点モノだからあげれません」
「えっ…毎日それなの?……汚い」
「汚くないっスよ!毎日洗仮面してますし〜ほらほら」

 トビは顔を近づけて仮面の清潔度を主張してきた。洗顔みたいに言わないでよ。それにしても、イタチとの任務でこういうノリがなかったせいか近寄ってくるトビに癒される。普段ならうざいとしか思わないのに。
 やっぱり人間は顔だけじゃ駄目、重要なのは中身ってことなのか。イタチも食事を奢ってくれたり中身も出来ている男なんだけど…なんていうか親近感?親しみやすさってのが皆無だった。イタチの顔がイケてるからって喜んでいたわたしが浅はかだった。

「やっぱり男は中身だよ」
「なかみ?」
「顔はともかく、中身はイタチよりトビほうがいいなーってこと」
「中身はって、ボクは顔もイケてます!」

 いや仮面で素顔解らないし…。その自称イケてる顔を見せてくれるのか問うたら案の定はぐらかされた。そんなこと言ったって見せてくれないんじゃないか。まあトビの顔が美形だろうと男前だろうと、その反対だとしても関係ないんだけどね。「わたしはトビの性格が好きだから」その言葉にトビは笑いながら答えた。

「じゃあナマエちゃん、その中身が偽りだったらどうします?」


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