息を吐く一瞬の間もなかった。少しでも隙を見せれば斬られる。反対に相手が隙を見せたら斬らねばならない。男女の力量の差から、重い競り合いで柄を握る手に負荷がかかる。距離を置き、クナイを投げ、握り直すその一瞬を逃しはしない。

「きゃあ!……えっ嘘…」

 手応えがなかった。

 寸前で避けたらしい。時空間忍術による移動を見切るとは大した奴だ。兄者がマダラを引き受けてる今、オレがイズナと張り合わねばならぬと言うのにこの女は相も変わらず悪運が強い。実力では此方が上だ、それはナマエも解っているはずなのになぜオレに挑んだ。いつぞやの恨みか、侮辱を果すためか。
 刀先に引っかかった布切れを振り払い、次の手を考える。ナマエを倒さねば戦況は変えられん。

 向きを変え、写輪眼に気を付けながらナマエの体勢を確認した。

 手で胸元を、必死に隠していた。

「えっ、ちょっと何すんのよ!服斬らないでよ変態!」
「…誤解だ」

 首を狙ったはずなのに、何をどう避け、どう斬りつけたらこうなるのか。襟の長いうちは装束は、掛け襟のごとく縦に切り裂かれていた。肌は傷つかずサラシだけ見事に破れた。

「どうすんよの…手で押さえないと捲れるじゃない」

 露になる胸元を隠すため、裂かれた服を引っ張り片手で押さえる。女の片手刀なら速さ関係なしに力押しで倒せる…だが、こんな格好になってしまったナマエに攻撃できるほど冷酷にはなれない。以前のように兄者の元へ逃げるべきか。いや、戦場でこんな格好になってしまった女を見捨てていいのか。変な噂を立てられそうだ。

 意外と近いところで手練れを率いていたイズナが「今度は戦場で露出プレイか…」と冷めた眼でオレを見る。違う、故意はないのだ。もう変な噂は立っていた。

「甲冑はどうした」
「だから写輪眼で見切るってば」
「見切れてないから避けきれなかったんだろ。いい加減甲冑着けろ」
「こっちだってこんな風に服を斬られるとは思わんわ!スケベ!」
「違う!」

 何故うちはの忍は甲冑を好まないのか。オレが子供の頃は皆着けていたはずだ。マダラが長になり、機動力を優先させるよう指示でも出したのか。千手も怖れる写輪眼を過信するのは解る。しかし避けきれてないだろう。せめて鎖帷子ぐらい着込ませるようにしたらどうだ。いっそのことオレの甲冑をこの女に着させてやりたい。

 胸元に意識がいってないのか、片手で適当に隠し、刀を振りオレをなじる。本当に着せてやったほうがいいのではないか。千手の忍からも「意外と大きい…」なんて感嘆が漏れる。見えてるぞ、しっかり押さえろ。

「おい、着替えは」
「持ってるわけ…ないでしょ…」

 散々なじって脱力し、消え入りそうな声色でナマエは踞った。どうしたらいいのか解らないのだろう。敵だとしてもオレに責はある。助言ぐらいは許されるはずだ。

「針と糸は無いのか」
「……毒針なら」
「貴様、それでも女か」
「裁縫道具なんて戦場で持たないわよ!」
「医療具のほうだ!」

 やはり応急医療道具の存在を忘れていたのか。オレの言葉で思いだし即座に荷物を漁りだした。一応、几帳面な性格のようで仕込み忍具や医療道具、兵糧丸などが丁寧にし舞い込まれていた。合戦場で荷物を並べる女と、それを見守る敵……なかなか無い光景に当人のオレも呆れている。

 傍らで観察しているイズナや兄者達がいなければ水断波でも噛ましてやるところだ。これは断じて情ではなく、正面から倒せる敵にみせる余裕だ。ナマエが女だろうと敵であるうちは一族になすことは討伐以外に無い。

「…あったんだけど」
「なら早く縫え。繕った後、刀を交わしてやる」
「………わたし裁縫できない」

 そうだ、この女は敵なのだ。マダラが徹底抗戦の志を変えぬなら討伐以外になすことなど無い。はずだったのに。

「どうしよう…」

 泣きそうな顔をしてナマエは医療具を睨むだけだった。

「クッ……貸せ、オレがやる」
「ここで服を脱げって言うの!?」
「着たままだ!修繕してやるから針と糸を貸せ」

 女の癖に裁縫も出来ぬのか。
 容姿は良いんだ、早急に忍を引退して花嫁修行でもしてろ。それが出来ぬならせめて千手二番手のオレに挑むのはやめてくれ。もっと自分を大切にしろ。

 疑いながら渡された、小さくまとめられた医療具を受けとる。裁縫用の縫針より、医療の丸針ほうが使用回数が多い。医療忍者の手がいっぱいのときは外傷の無いオレが味方を応急処置することがあったからだ。着たままの修繕も、丸針のほうが安全だろう。

 踞ったナマエの前に座り、針に糸を通す。傍らのイズナ達から観れば二度とない不思議な光景だ。異様な雰囲気の中、誰も二人の間に入る者はいなかった。

「胸見ないでよね」
「ならしっかり服を押さえろ」
「針、刺さらない……?」
「貴様よりは器用だ」
「そうだね。扉間の痴漢行為って器用だもんね」
「刺すぞ」


 遠くで、両一族の長が和解は近いと確信したとかしなかったとか。


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