忍としての条件反射のようなものだと思う。気配がある所に、殺気を感じた所にクナイを咄嗟に投げる行為は忍なら誰しもしたことがある…はず。それと同じなんだ。
「………わざとじゃないよ」
声のした方角に咄嗟に投擲。
ただ、手元にあったのはクナイではなく絶品のみたらし団子なだけで。それを急に現れた奴、仲間のトビに投げつけてしまっただけで。故意的に彼の仮面を団子のたれで汚したわけじゃない。
というか、時空間忍術使って急に現れる奴が悪い!わたしはそういうチャクラに敏感なんだからドアをノックして入ってきてほしいっていつも言っている。トビが悪い。団子をくれたイタチさんも悪い。
「ええっと。その、ごめんね」
絶品のみたらし団子はとても柔らかく、仮面にべったりと貼り付いてた。大した粘着力だ。忍の投擲によって柔らかい団子が叩きつけられ平たく変形し、トビの渦巻いた仮面も凹凸が程よい引っかけとなって団子は落ちる気配がない。もしかしてわたしったら手裏剣術の腕前がまた上がったのかしら!やったね!本当にやっちまったね。
「ハロウィンってことで…トリックあんどトリートってことで許してください…」
トリックオアトリートはもう古い。時代は両方をプレゼント。なんちゃって。十三夜が過ぎ、彼と同じ仮面の色があらゆるところで見かける近年流行りの異国文化。それに便乗させていただくとしよう。
「…………」
トビの無言の圧力が怖い。
デイダラさんや飛段さんなら無言のトビに馴れ馴れしく会話を促すことが出来るんだろうけど。わたしは先日、トビ氏がリーダーと話し込んでいるのを目撃してしまったのだ。今までのように軽く接することは出来ない。だってトビは。
「ハロウィンか…お前がそんな子供染みた行事に乗り気だとはなァ、ナマエ」
「わたしだって童心に帰ることがあるんですマダラ様」
「ほおー…」
マダラ様、怖いんだけど。
なんとトビの正体はあの伝説の忍、うちはマダラだったのだ。知ってしまった時は本当に吃驚した。そして殺されるかと思った。
それにしても、うちはマダラは終末の…河じゃなくて山じゃなくて、ええっと、とにかく彼は死んだはず。マダラ様にそう言ったら「……さあ…どうだろうな…」ってはぐらかされた。里の歴史書は嘘っぱちだった。
トビ、もといマダラ様はわたしの自室を勝手にあさり、身近な衣服で仮面を拭った。あのー…マダラ様…それわたしのお気に入りの寝間着です。絵面が女性の寝間着に顔を擦り付けてる変態に見える。今度は肌触りの良い洗濯したての寝間着に潰れた団子がねっとり付着した。汚い。今日の夜から何着て寝よう。
「それでマダラ様、何のご用事で」
「そうだな…来週の任務についてだったが今となってはどうでもいい」
汚れた寝間着をわたしに向かって投げつけた。あっ危ない。反射運動で避けた。荒い投げ方だ。ずいぶんご立腹なようで、次の任務連絡すらどうでもいいぐらい苛立っているらしい。
「本当にすみませんでした!」
「何故謝る?粋なお前はオレに菓子と悪戯の両方を与えただけだ」
与えたっていうな投げつけたんですけどね。そして正しくはお菓子をくれなかったの場合に悪戯する子供達のイベント。子供に限らず大人たちも騒いでるらしいけど。
問いかけもなく、仮装もせず、その両方を不意にやってしまっただけで粋がっているわけじゃないのだ。
事故です!これは不意な事故なんです!
「ならばオレも両方与えなければなァ…」
「い…いや、いいです」
「そういう行事なのだろ?遠慮するな」
そういう行事じゃないです、マダラ様。
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