公務が一段落ついて気分転換に火影室を出た。これといって用事はなかったが、足は古書や巻物が眠る資料室に向かっていた。最近は資料室で意味もなく書物を読み耽ることが多い。戦利品としてではなく、同盟を組んだ仲間として他の一族や忍の秘伝書を読めることが楽しいのだろう。熱心な弟は研究のために利用しているが、オレは暇潰しとして利用していた。

 日の当たる火影室と違った、少し暗い埃っぽく書の匂いが漂うその場で読むのもいい。持ち出し厳禁書でなければ気に入ったものはしばらく借りるのもいい。長い執務で筆には懲りたから写生するとこはないが。

 大して空いている時間はないのに、興味深い術書に出会う前提でいたオレはその場にいた意外な人物に驚いた。
 ナマエが、小さい脚立に乗って本に手を伸ばしていた。惜しくもぎりぎり届かない距離だ。取ろうとしている書の背表紙には見覚えがある。

 戦場で度々会い、まだ男女の差がさほどない幼い頃は何度か武器を交えた気がする。印象は、いつもマダラかイズナの側にいて自身の意思をはっきり言える女子。同盟を組んでもなお扉間は苦手と評していたが、オレはその強さが気に入っていた。あのマダラと意見する姿は頼もしさを感じることもあった。
 そんなプライド高い彼女が千手の書を、しかも術や業に関することではなく歴史書を手に取ろうとしていたのが嬉しかった。手伝ってやらねば。

「ナマエー!」
「千手…柱間殿か」
「オレが取ってやろうぞ」
「いいです自分で取れますから脚立あるし」

 うちはをなめるな脚立をなめるなと言いながら、その届かない手を必死に伸ばしていた。

 ……扉間が苦手と評していたのがなんとなく解ったぞ。書を目指す反対の手で背を向きながら器用にオレを遠ざける仕草もしている。遠ざけ無くとも、既に何の書を取ろうとしているかばればれなのに…ナマエはマダラ以上に素直じゃない。

「じろじろ見ないでよ!届かなくなるでしょ!」

 オレが見ずとも腕の長さや脚立の高さが物理的に足りないのに。こうしてみると、ナマエはずいぶん子供っぽいのだなと思った。プライドが高いのではなく負けず嫌いで少しずれた男勝りっといったところか。投げ掛けられる言葉は辛辣なのに童子を眺める穏やかな気分なった。

 扉間よ、苦手な所も見方を変えれば愛らしいものぞ。

「へ…へらへら笑ってんじゃねーよ!」
「応援してやろうか?」
「いらない!」
「じゃあ、やはりオレが取ってやろう」
「自分で取れるってば!」

 一人で必死に腕を伸ばす姿が友と重なった。


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