※オープンスケベ


 戦場で取っ組み合いになることはしばしばあった。咄嗟に武器を構えることが出来ず、もしくは武器が枯渇した時の一対一の接近戦。しかし、相手がうちは一族の場合は全くなかった。クナイや手裏剣が戦闘中に枯渇せぬよう他の一族との戦より慎重に用意したり、至近距離の火遁や写輪眼を避けるため距離を置くことが多かったからだ。
 だからこそ、こんなことは初めてだった。マーキングしてあるクナイが弾かれ、弾かれたクナイはイズナが手練れを数名引き連れた場に落ちた。そこに飛ぶわけにもいかず、次の武器を構える暇なく、敵が写輪眼で動きを見切ってすぐ近くまで来ていた。ナマエだったか…こちらの手練れを何名も殺めた女だ。以前手合わせしたときはオレを怖れ背を向け退いていたが、かなり成長している。攻撃が比べ物にならないほど速くなっている。確かに強い。
 印を結ぶ暇などなく、ナマエは刀を大きく振り上げた。上げた刀を握る手首を掴み前に引っ張り、空いた手でクナイを取りだし仕留めよう。一瞬の間に思考が巡るというよりは体に染み着いた反射のような動きだった。写輪眼を見ぬようにした、悪い視界での組み手だった。

「……どこ触って…」
「故意ではない」

 その予定であった手は、別のものを掴んでいた。
 此方の動きを見切り手首を掴まれるのを回避するため、女は振り上げた刀を中段の構えに変えたからだ。

「人の胸触ってんじゃないわよ!変態!」
「これは事故だ」
「どんな事故よこのムッツリスケベ!」

 心外な罵倒を浴びせられた。オレに非はあるが、誤解だ。掴みたくて掴んだわけじゃない。互いが相手の攻撃を避けようとした判断による事故だ。

「だいたい何故、甲冑をつけないのだ」
「開き直ってんじゃないわよ!」
「開き直ってない。敵に突っ込むならカウンターを受けても良いようにするのが基本だ」
「そんなの写輪眼でカウンター見切るし」
「見切れなかったかだろ」
「こっちだってまさか胸揉まれるとは思わんわ!」
「揉んどらん!」

 誤って掴んだだけで揉んでないのにナマエは大声で不名誉をばらまく。オレにだって選ぶ権利があるぞ。ナマエはオレの話を耳に入れず、手首は掴めぬが乳首は掴んだってか!とかそんな大して上手くない言葉を叫ぶ。此処は戦場なのだからそのような発言は控えてほしい。気が抜ける。というか仮にも女なら言葉を慎め。

「この前だってお尻触ったし!」

 この前…以前手合わせしたときの話か。オレとタイマンになりナマエがまだ実力足らず退くとき急に背を向け、一瞬手を掠めたあれか。どう考えても冤罪だろう。掠めただけだぞ。それに忍が背後を簡単に見せるな。

「その一瞬で堪能したんでしょ、変態」
「貴様ごときで堪能できるか」
「……足りなかったから今回は胸揉んだの?」
「違う!揉んどらんわ!」

 ナマエが大声で尻や胸、乳首と叫ぶため、周りで競り合っていた皆が此方を見た。普段ならすきが生まれた敵へ片っ端から飛雷神で飛び片付けるのに目の前でナマエが騒ぐため出来ない。戦場で何も出来ずこの女の話に付き合わなければならない状況が、歯痒かった。

「千手にいい女が居ないからって卑劣な…」
「なんてプレイを…姑息な奴」

 特に此方を指差し己が一族の手練れと嘲笑うイズナを攻撃出来ないことが歯痒い。腹立つ。人数差も省みず、あやつらの元へ飛び叩きのめしてやりたい。この勘違い女の言動を説明し誤解を解きたい。

 そして何を考えてるか解らん危険思想のうちは一族より自分の一族ほうが好きに決まっている。感情がどうこう言う性格ではないが、うちはに千手を貶された気分がし苛立つ。千手にもいい女は沢山居る。

 オレを慕う同族が「調子にのるな貧乳!扉間様は巨乳派だ!」と品のない言葉を吐いた。二重の意味で違う。勝手に派閥を決めるなナマエを刺激するなと宥めるが、様子を見ていたうちは一族も応戦し、混沌な言い合いが始まった。
 「ナマエさんは貧乳じゃねーぞコラ」「胸より尻だろ子供だな」「大事なのは形だ」戦場で品の無い会話を始める若い男達を離れた場で両一族のくの一達が軽蔑した視線を送っていた。いまだかつて無い戦況だ。なんて状況だ。

 予想外の展開に、渦中の中心であり原因であるナマエがオレに問う。

「で、胸か尻どっち派なの……?」
「貴様以外の女派だ」

 マーキングしたクナイを兄者達の方角に投げた。悪い空気の場から脱出しよう。あのまま話の通じない馬鹿共の相手をする気にはならん。異性に恥じらいもなくあのような質問をする方がスケベだ。オープンスケベ女が「つまり男が…」とか不穏なことを呟いていた気がするが、気にせず兄者のもとに戻った。関わりたくない。

 事の発端を距離のおいた所から眺めていた兄者は飛雷神で来たオレに気づき声をかけた。「あ、扉間ガハハ…災難だったの!どんまい!」ずれた慰めの言葉をかける兄者すら煩わしい。

「扉間よ…間違いは誰にもあるものぞ。そう落ち込まず、むしろ殺伐とした場で幸運に巡りあったと思って感想を聞かせろ。小さく見えるが柔らかかったか?」
「黙れ兄者」

 意外と大きかった。


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