まだ薄暗い朝日に、少しだけ意識があった。軒先で父様と不愉快かつ馴染み深いあの声がした。その声にざわりと嫌な予感がして、眼が覚める。

「マダラー!オハヨー!」

 予感が的中し、ドタドタと朝っぱらから騒がしい音が近づく。スァパンといい音を響かせ襖を開ける音に、効果音でも付きそうな登場をするナマエ。ウゼェ。なんで早朝からこんな奴を見なきゃならねーんだ。何故家に上げたんだ父様……、隣からごそごそと布団が大きく擦れる音もする。イズナまで起こしてしまったようだ。すまない。いやコイツのせいだ。

「ねえ、マダラ!新しい術考えたの!」

 顔も洗っていない寝起きのオレと違って、ナマエは少し興奮し頬が赤く染まっている。新しい術って何だ。それを報告するために、早朝から礼儀を捨てやってきたようだが。
 まあ、なんだ。性が違うがナマエとは、結構一緒に修行したり遊んだりする仲だ。女の中では、むしろ一族の中で一番絡んでる気がする。新しい術を考え、それをオレに伝えようと朝一番に来たのだろう。最近オレが写輪眼を開眼し、ライバル意識が高ぶったナマエが編み出した術。一応、ナマエの実力はそこそこ、ほんの少々だけ認めてやってたりもする。こんな朝っぱらからでも、その新しい術を見てやらないことはない。

「写輪眼パーンチ!」
「くだらねェー!」

 被っていた薄めの布団を叩きつけ、拳を避ける。ナマエがオレに放った術は写輪眼のしゃの字もない、ただの拳突きだった。術ですらない。つーかオレを攻撃するつもりだったのか。
 当の本人は避けられたことに驚き、拳を抱え失望していた。あんな単調な攻撃を寝起きとはいえオレがくらうわけないだろ…なんだ、コイツは。馬鹿なのか。馬鹿だった。

「朝から漫才やってんじゃねーぞ!だいたいお前はまだ写輪眼開眼してねーだろォが!」
「写輪眼関係ないよ?」
「それはオレの台詞だァ!」
「やーもー耳元で騒がないでよウルサイなー」
「こんな早朝から人様の家騒がすテメーが言うかコラァ!」

 両手で耳を塞ぐナマエに一段と腹が立ち、腕を掴む。必死に振り払うように左右に動かしてくねらせるもんだから、なんだか此方が悪役に思えた。心音も騒がしい。

 そんな漫才に付き合っていたら、ごそごそと動いていた布団がばさりと投げ捨てられ、イズナが起きた。本当に起こしてしまったようだ。戦も稽古もない日に、こんな早朝から眼を覚まさせ申し訳ない。

「兄さん達…痴話喧嘩は外でやってよ…」
「ち…痴話喧嘩じゃねーからな」

 まだぎゃんぎゃん騒ぐナマエを押さえつけ、外に出る。洗顔はもちろん着替えも朝餉も済ませていない。オレとしたことが…イズナの安眠を守りたい一心でそのまま外に出てしまった。

 もがもが口を動かすナマエを押さえつけ、騒がれても大丈夫であろうぐらい家から離れた。それでも近所迷惑にならぬよう修行場か、柱間と遊んでいた場所でも行こうか考える。
 ナマエと一緒なら遠くても父様は心配しないだろう。だから家に上げさせた。千手を忘れさせるために、この馬鹿を寄越したのか。他に同年代の一族がいるのに、何故この馬鹿なんだ父様…、まあコイツでいいんだけどよ。

 顔の下半分を押さえつけられ息が出来ないナマエは、苦しそうだった。なんかいいな、これ。

「あー苦しかった…酷いよマダラ!」
「ハッ、悪かったな」
「寝癖も酷いねマダラ。カッコ悪い。いつものボサボサ髪型がいっそうボサボサに…」
「埋めてやろうか?」

 今度は、減らず口を叩くナマエの頬を力一杯引っ張った。予想の倍は柔らかく、何度か強く引っ張り伸ばす。薄暗い朝日に浮き出る白い頬は痛みで紅く染まっている。面白い。

「いたい、いひゃいー」
「餅みてーだな!このブス!」

 オレの手首を掴んで抵抗していたナマエが、力がないことにやっと学習したらしく手を離した。そのままオレの頬を引っ張ろうと手を伸ばした。コイツ、やり返す気だな。
 こんな奴にやり返されるのは癪に障る。ナマエの頬をつねるように離して距離を置いた。ナマエの手が空振った。

「頬っぺた取れるかと思ったじゃない!」

 ナマエは目頭と目尻に小さい涙を浮かばせ、目も赤くなっていた。口をぎゅっと結ぶ表情に、鎖骨のすぐ下の奥が締め付けられる息苦しさを覚える。それでいて背筋を優しく撫でられる感覚だ。愉しくて気持ちがいい。

「おいブス、今日は暇だから修行の相手してやるよ」
「ブスじゃないし!」
「いいから修行しようぜ。組手な」
「マダラ強いからやだ…」
「手加減してやるからよ」

 嫌がるナマエを強く引っ張り人気のない森へ向かう。オレは新しい遊びを覚えた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -