うちは一族は代々国家警察。警察のキャリアは他の省庁と比べ若いうちから多くの部下と権力が持てることが利点だと父さんが言ってた。オレは成りたい志はないが兄さんもシスイさんもその道を進むのならオレもそうするのだろう。

 将来のビジョンが曖昧なのは、まだ高校生二年だからだ。進学校であるこの高校は入学式から進路選択や模試の結果がどうこうと教師が話していた。しかし、オレの周りは同様にはっきりとした進路はまだ決まっていない生徒が殆どだ。
 特にナルト。ナルトは今日も、古典の予習を忘れサイに写させてもらっていた。将来どころか、今、目の前のことでいっぱいなのだろう。

 何せ古典の担任はあの、うちはマダラ。

 マダラはオレの親戚で本家の人間だった。子供だからと詳しく教えられなかったかけれど、どうやらあの千手一族と何か因縁があって辞めたらしい。うちはの人間が警察を辞める。それは一族内では相当なことらしいが、別に人それぞれだからいいだろうとオレは思った。

 問題はそこじゃない。

 本家の人間なら働かなくても暮らしていけるはずなのに、マダラは教師という職業を始めた。いつ免許を取っていたとか、何のコネで親戚が通う学校の教師になれたのかは不明。そもそも、何故、オレの古典担当の教師なのか。クラス担任はカカシだけれど、噂ではその立場すら狙っているとか。まったくもって恐ろしい。色々な意味で。

 授業開始号令も、この古典の時間だけは戦場のような緊張感が張り巡らす。ナルトが「今日もラスボスみてェな風格してるってばよ…」と呟いた。オレは親戚だからそこまで緊張感は感じないが、その言葉には同感だ。
 マダラはナルトの言葉に気づいたのか、此方を向いた。隣のオレしか聞こえない小さい呟き声が、マダラには届いてしまったらしい。ナルト終了のお知らせ。

「ほォ……随分やる気だな、うずまきナルト。いいだろう。予習確認だ、今日の範囲を全て現代語訳したものを朗読しろ」
「わ、わかったってばよ」

 しどろもどろに慌てながらも、朝のST前から必死にサイの予習を写していたお陰か、一応全部言えた。頑張ったなウスラトンカチ。しかし、マダラには甘かった。
 ナルトとオレは後ろの席だか、サイは一番前。つまりマダラと距離が近く、マダラにはサイのノートが丸見えなのだ。

「さすが友達だ、仲良き友とは思考を共有できるのか。五行目にある受身"る"の助動詞を尊敬と間違える初歩的ケアレスミスまで同じとはな?」
「うっ……」
「まあ偶然だな。そう言えばお前の母はミトと親戚だったな?あの家系だ、予習を人に写させてもらうなど、疑わしいこと考えられん。偶然、だ。
 そうだろう、うずまきナルトよ」

 関係ないオレですら冷や汗が垂れそうな威圧感で、あんな言い方をするとは。あそこまで故意をもった嫌味を言われるなんて、当の本人はたまったもんじゃねェだらうな。大丈夫かナルト。
 隣のナルトの席を見て、重大なことに気づく。このウスラトンカチ、ノート写すの必死で辞書用意してない。馬鹿だろ。

 そしてオレは昨日の記憶が甦った。

 昨日、ナマエとオレは一緒に古典の予習をした。ナルトとサイのノートが一緒なのはつっこむのに、身内のオレ達がお咎め無しなのは言うまでもない。嫌な予感がして、少し前のナマエの席を見る。

 昨日、二人で手分けして予習を終えた後、ナマエは勉強に飽きてゲームをやりはじめたのだ。ナマエの机上の電子辞書のケースの中には、某携帯ゲーム機が入っていた。後ろ姿しか見えないが、ナマエの背中から哀愁が漂っていた。

「なるほど古典辞書も用意しないとは、さすが優等生だ。そんなものなくとも、古典単語全てわかるのか。教師のオレも見習わないとな」
「あ!これは、ロッカーに置き忘れ」
「どうした、うずまきナルト」
「ろ、ロッカーに辞書置き忘れたから取りに行きた」
「オレの授業を中途で退席するのか」

 ナルト終了のお知らせ、完。次からは、この時間、辞書を所持してないナルトに一々単語の意味を聞くマダラが待っているだろう。地味な嫌がらせをしてくるマダラが容易に想像できた。オレが電子辞書と紙の辞書両方を持っていたら貸せたのに、生憎机の上には電子辞書しか用意されていない。
 つーか、なんでマダラはこんなにナルトに構うんだ。本当はお気に入りの生徒なんじゃないのか。

 いや、違うか。本当のお気に入りの生徒という奴は。

「あの、マダラ先生……わたしも辞書置いてきちゃって」
「ナマエか……何処に置いてきた」
「い、家に」

 携帯ゲーム機と電子辞書を間違えて、と説明するナマエ。わざとではなくとも学校にゲーム機を持ってきたと公言するなんて、我が妹ながら凄まじい神経を持っていると思う。
 このようなうっかりミス談は、他の教師の授業なら笑い話になったであろう。うちはマダラの授業なので誰一人として笑わない。寧ろ、クラスメイトは皆、ナルト同様にいたぶられるのかと心配していた。

「古典辞書はロッカーに入れてないのか」
「先週、紙の辞書は全部持ち帰ってしましました…」
「そうか。なら今日は此れを使え」

 マダラは自分の電子辞書を差し出した。困惑するクラスメイト及びナマエ。

「帰りのST後、職員室に返しに来い」
「えっ、でも」
「次の時間は英語表現だろ。今日一日お前に貸す」

 何事もなかった顔で授業に戻るマダラにとって、困惑する生徒らは気にならないのだろう。ゲーム機の没収どころか注意すらしない明らさまな身内贔屓に、さすがのオレもドン引きだ。


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