我が里には木ノ葉の忍者アカデミーなどという子供に適した忍育成機関が無い。どのようにして忍になれるのかは、各個人により大きく異なり、だいたいが謎だ。

 だからこそ 彼女 の記憶はわたしの中でとても役に立った。夜に疲れて熟睡…というより爆睡し、完全に意識がたった時のみ 見る夢 があった。あった、とは過去形で今は完全に見ない。あの 彼女 の記憶は、所詮、忍になりたい願望が産み出した妄想。もしくは幼い子だけ見える妖精さんみたいな霊的な何かだと思っている。
 それはとても曖昧で 彼女 の名前も覚えていない。覚えていることは、夢の中で 彼女 が受けただいたいのアカデミーの授業内容ぐらいだ。友人関係や幸せな家族関係は、当時のわたしの境遇とはかけ離れていたため関心がなかったのか全然記憶に残っていない。

 それでも、子供の頃に夢見た存在はとても大きく、憧れの対象になったのは言うまでもない。髪型や服装を真似てみたり、影響を受け医療忍者を目指してみたり。いろいろな面でリスペクトしていた。数年前に顔が似ている気がして、あれは前世の記憶だったんじゃないかなと結論がついた。

 しかし今現在、尊敬しているお方は 彼女 ではない。里に降臨なさった神様と、天使様だ。特に天使様はとても尊敬していて、いずれは天使様の側近になりたいと思っている。…贅沢に生言ってすみません。でも!与えられる任務を完璧にこなし続ければいずれは天使様に名前を覚えてもらえるぐらいにはなるんじゃないかな!とか何とか考えながら日々雨水にまみれて頑張っています。いい加減雨止まないかな、うちの里。

 今ではもう、彼女の記憶も立派な忍になったわたしにはあまり役に立たなくなり、自分の実力のみが頼りになる。
 本日もその実力で任務をこなし同僚かまとめた報告書及び外来依頼主からの報酬を上司に提出する。いつもは班や編隊した隊長が行うのだが、なんと、

「ナマエって間近で天使様見たことねーんだったな。どうだ、今日ぐらいお前が報告書届けるか?」

 とかなんとか言われたのだ………ヤバイ。テンションが上がりすぎて動機や呼吸がいろいろとヤバイ。チャクラが乱れるとかそういう次元じゃなくて生命活動的な何かがいろいろとヤバイ。死んでもいいぐらい嬉しいんだけど。隊長ありがとうございます!!うおおおお!!ナマエ行かせていただきます!天使様を間近で拝みに参ります。レッツヘブン!


「失礼します!件の任務の報告書及び外来依頼主からの報酬を届け出に参りましたナマエです!」

 よっしゃあ!噛まずに言えました。廊下でなん十回と練習した甲斐がありましたが、

 さて天使様はいずこへ。

 隊長から教えていただいた天使様がいらっしゃるはずの司令塔には、橙色の渦巻いた仮面をつけた不審者がいた。不審者っぽいけれど、服装からして天使様に近し者なのだろう。妬まし。じゃなくて羨ましい。天使様おお揃いの衣をまとった仮面の男は、わたしの顔を見るなり固まった。笑顔で来たのが不味かったのかな……こちとら天使様を間近で拝めると思ったもんで、すみません。

「あの、天使様は………」
「………………」
「て、天使様に任務の、報告書を届けに参りましたのですが」
「!……小南は今不在だ。里に戻るのは数日後になる」
「わ、かりました」

 なんてこった。天使様いないって……隊長が天使様に会えると計らって代わってくださったのに、残念だ。いや、隊長が天使様不在を知っていて故意にやった可能性も?
 悶々と頭の中で様々な思考が渦巻く。彼の仮面も渦巻いているので、きっと思考がまとまらないのはそのせいだと責任転嫁。ちくしょう、天使様がいないなんてそんな、上げて落とされるといいますか、その。天使様だと思って爛々と参って出会ったのが謎の仮面の男とかねーよ!うわああん!

「……わかりました。一度隊長に相談し出直し」
「待て」
「?」
「……里から下った任務ならペインに報告書を渡せばいい。奴なら後二三時間で戻るはずだ」

 神様か……あのお方も尊敬するけれども、神々し過ぎて接しにくいんだよね。せっしたこともないし、天使様も神々しいのだけれども。いや待てよ。天使様を間近で拝む機会は隊長の計らいでまたあるかもしれない。『実は天使様に会えなくて変な仮面の男に提出するはめになったんですよー』とか言って、神様に提出すれば、隊長の同情次第で天使様にも神様にも会えることになるかも……。ラッキーなのか?でも隊長が故意犯の可能性もあるんだった。どうしよう。

 ともかく、わたしは部下である。したっぱが試行錯誤したところで迷惑をかけよけいに混乱を招くのは任務にありがちな展開だ。わたしは隊長から 天使様に報告書等を提出せよ と任務を貰ったと考え、ここは一旦、仮面の男の言葉を隊長に伝えることも必要だと思う。わたしは仮面の男がどんな立場の人間なのか知らないからだ。彼の言葉を鵜呑みに判断してはいけない。

「神様が参られるのは二三時間後ですね。了解しました。一旦、部隊に戻ります」
「……此処で待てば良いだろう」
「えっ」
「外は雨だ。無駄なチャクラを使わずとも此処で待てばいい。ペインにはオレから言っておく」

 この神様を奴とか呼び捨てで言う仮面の男と二三時間一緒にいろということか。なるほど。隊長、故意だったらマジで許さん。絶対に許さん。………ああ、天使様に会いたい。っていうか仮面の穴からめっちゃ視線感じてツラいんですけど。わたし何か失礼なことしたのかな。それともどこか変な所があるとか…もしあるなら、神様と面会前に教えてほしい。



 司令塔でペインの帰りを待っていたら、女の呟き声と足音が近づいてきた。大方、ペインか小南に用事のある雨隠れの忍だろう。暁の衣をまとっているため隠れる必要もない。この里の奴らはペインらを盲信しているため、同じ衣のオレを不信に思えども攻撃はしてこないはずだ。ペインの帰りは早くても二三時間はかかる旨を伝え帰らせればいい。

 帰らせれば、よかったのだ。

 例え、此処に来た忍がリンに似ていようとも、彼女の目当てであるペインも小南も居ない。不在だから帰れと言えば、目の前の彼女は帰ったはずだ。名は確か、ナマエと言った。

 そうだ、彼女はリンじゃない。落ち着け。落ち着くんだオレ。今はマダラだ。でも、ナマエとかいう女…リンそっくりじゃないか。服装とか髪型とか絶対にリスペクトしてるだろリン真似てるだろう顔もそっくりなんだが、何これ暗躍頑張ってるオレへの御褒美か。もしそうならありがたくいただこう。違う。落ち着けオビト、おちつけ。

「……あの、」
「……………なんだ」
「ペイン様もいらっしゃいませんし、やはり一旦部隊に……雨中の移動は慣れていますので」
「駄目だ」

 会話に異様な間が開き、やっとの思いで続く。トビモードで話しかければよかったと酷く後悔している。駄目だ、って何勝手に抑制してんだよオレ。ほら見ろ彼女の顔、とても困惑した表情を。小南に会えると思って仮面の謎の男に威圧感を与えられたらこうなるのか。やはりトビで接するべきだった。今からモードチェンジすべきか。

 それとも、なんだ…幻術か。幻術をかけてこの気まずい場を強制的に何とかするか。彼女はナマエと名乗ったが、オレはそれ以外知らないし小南やペインも詳しくは把握していないだろう。幻術にかけていろいろと情報を聞き出す、という手もある。
 なんの情報を聞き出すかはご想像にお任せしよう。オレ自身、なにを聞き出すか思考がまとまっていない。

「ええと……あなたは天使様方と、どのようなご関係でしょうか」
「協力者だ」

 月の眼計画のな。

 ナマエの曖昧な返事で、会話は終了した。ペインの協力者と知り無礼も出来ないないため彼女が慎重になるのはわかる。無駄な会話は避けるべきだ。しかし、あれだ。気まずいので話しかけてほしい。というより此処で関係ストップは後味が悪くなるのでこの際『趣味は何ですか』とか見合いみたいな質問でもいいから話しかけてください。

 妙に静かな空間に、外界の雨音が響く。ペイン到着の三時半後まで気まずい雰囲気は続いた。
 オレはこの時以上に無限月読を切望した日はない。


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