彼は、自分は繊細だと教えてくれた。後ろに立たれるのは困ると。それには後ろに立つなと意味が込められているのでしょうけれども。残念なことに、わたしは背後霊。今日も今日とて彼の背後に居座らせていただいている居候身分だ。
 もちろん嫌がらせや祟っているわけではない。ただ、彼の側から離れることが出来ないのだ。後ろではなく前や隣は、何故だか非常に落ち着かない。きっと記憶の奥深くにある彼と似ているからなのだろう。彼って誰だっけ。ああ、そうです。目の前の君は、誇り高きうちはの頭領、マダラ様でいらっしゃる。

「ねえマダラ、見つかった?」
「さあな」
「……ちゃんと探してる?」

 嫌がらせや祟っているわけではないにしろ、長く人間に取り憑くなんてお互いに気まずい。わたしは書物や巻物に触れることが出来ないので役に立たないけれど、彼は生きた人間だ。今、わたしが成仏する方法を探している。はずなのに。

「探して、ないよね…マダラ」
「………」

 黙りは肯定と受け取ろう。彼が読んでいる書物は、確か巷で噂の小説だ。明らかに関係ない。しかもカモフラージュのつもりで表紙は魂や霊に関する古書にしている。背後霊だから表紙カモフラージュなんて意味ないのに。そしてせっかくの小説も、マダラは読んでない。ページはずっと止まっている。

「マダラ、この際成仏じゃなくて封印術でもいいわ。わたしは封印されてもいいのよ。だから」

 言い終わる前に、マダラは乱雑に書を閉じた。そこまで長くはないけれど、結構一緒にいたからわかる。口を閉じろ。なにも話すな。そんなふうに思っているのだろう。
 それでもやはり、わたしは早く彼から離れたい。離れられないけれど、これ以上一緒に居るのはお互いの為にならない。マダラは年齢的にもそろそろお嫁さんが必要だし、わたしなんかが四六時中取り憑いていては、あれだ。夫婦のいちゃいちゃ的なあれがしにくいでしょう。まだ、マダラにはお嫁さんはいないけれども。

「わたしは、マダラの重荷にはなりたくないの」
「重荷ではない。そもそもナマエは軽い」
「霊だからね!……じゃなくて、そういう意味じゃないよマダラ!」
「冗談だ。
 ナマエが憑いてからオレは傷を負う回数が減った。悪いもんじゃないんだろ」

 だから、重荷ではない。

 確信を持ってマダラは言ったけれど、傷を負わなくなったのはマダラが強くなったからだ。わたしはただ居るだけで何もしていない。自分で気づかないだけで実は秘められた力がっ…なんてものはないのだ。本当に、ただの居候身分。

 なのに、マダラは以前わたしに「お前がイズナに憑いていれば」なんてことも言った。わたしが弟さんに憑いたところで何が出来たっていうんだ。彼はわたしを盲信しているんじゃないか。勘違いしている。ただの居候だと否定しても聞いてくれない。いつから、マダラは人の話を聞かなくなったんだろう。

「まあ、柱間には相変わらず勝てないが」
「マダラ…」
「今更居なくなったところで目覚めが悪くなるだろ」
「でも、わたしは」

 此処に居てはいけない存在だ。
 薄らぼんやりとした記憶と此処の世界を比べて、わたしはかなり昔の時代の人間だったとわかる。意識があるのはマダラと出会ってからだけれど。

「ずっと居ればいい」

 あの紅い眼で囁かれた。

「………ワタシ幽霊デスヨ?」
「だからなんだ」
「わたしがずっと居たら、マダラが事故物件みたいな男になるじゃない。恋人とか結婚とか、できなくなるよ」
「構わん」

 構えや。

「マーダーラー?あのねー?」
「他の女はか弱い癖に五月蝿い。オレはお前がいい」
「だから、わたし幽霊」
「知ってる」

 物理的に無理。


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