柱間が不在だったため、未記入の報告書を適当な場に置き棄てた。良心を持った忍が勝手に片付けてくれるだろう。オレが置き書きや伝言を頼むなどするわけがない。今後とも柱間が不在ならば、里の任務は自己流でやらせていただこう。百歩譲って友である柱間の頼みは聞くが、里の上層部を気取った他の一族共の言うことを聞く謂れはない。

 落ち着きなく廊下を歩いていたら、妙な声と音が聞こえた。耳を澄まさなければ気づかないほど小さな音であった。微かな液体の水音と乾いた肌が打たれる音、女の啜る泣き声に近い笑っているような声、低い男の呻き声。
 おいおいおい。ここは忍が任務を請け負ったりする、火影がいるような所だぞ。今は不在だが。邪な考えが過り音のする方へ向かった。こんな昼間から誰がやってんだと、単に興味が湧いたからだ。

 よく耳を澄ますと女の声は、聞いたことのある声だった。ナマエだ。ナマエが押し込めるように笑っている。情事が行われているであろう部屋を写輪眼で視ると、チャクラの感じからナマエが千手の男の上に乗っていた。騎乗位か。いい趣味してるな。千手の男ってのはいただけないが。

 わざと大きな音を立てて扉を開ける。あの、ナマエが、千手に媚びる姿を笑ってやろうと思った。

「お前………」
「ああマダラ様ですか邪魔しないで」
「なにやってんだ」
「正義の鉄槌的な」

 視界が捉えた光景。媚びるどころか、ナマエは跨がって男を殴っていた。男の頭部とナマエの拳は真っ赤に染まり、手を引いたときにぐちゃりと不快な血糊の音がする。今はもう男の呻き声は聞こえない。原型があるのかわからない脳に残留するチャクラから、幻術にかけ殴り続けていたのだろう。ぐったりとしたそれは、冷たくなりはじめていた。

「むかつく…写輪眼を持たぬ愚民の分際で」

 ナマエは、立ち上がり動かぬそれを足蹴り転がすとオレの衣服で手の血を拭った。拳は皮が少し捲れ自らも血が滲んでいた。

「おい、オレの服で拭くな」
「ごめんなさい」
「謝るなら初めからするな。それと皮が捲れている、後で消毒しろ」
「……心配してくれるんですか?」
「一応な」

 何を血迷い同盟相手の忍を撲殺したのかはわからない。きっとナマエのことだ。千手に殺された家族のことや一族の悪口にでも触れられ逆上したのだろう。オレ以上に短気な奴だ。
 以前の戦場であったなら、千手の男を殺したのは戦果になったが今は違う。死人に口無しと都合よく言い訳をしたところで、後に殺人に対する厳しい処罰が下される。

 もしナマエを庇ってやったらと考えた。
 この女の一族への執着がオレに向くかもしれない。あの尋常ない誇りがオレに向く。どんなに居心地がいいだろうか。一族の長、そして木の葉の忍。オレにも立場があるが、それらはどうでもいい些細なことに感じられた。
 オレも随分と変わってしまったようだ。正義感なんてものは一切湧いてこなく、気がつけば目撃者がいないか神経を張り巡らせていた。庇ってやったら、じゃない。オレはもとより動かぬ死体よりナマエを選ぶ人間だ。

「ナマエ、オレは何も見なかった」

 一瞬、驚き目を開いた。オレがこう返すと思わなかったのだろう。しかし即座に理解して朝の挨拶と同じ、軽く会釈しその場を共に去る。

 ナマエは道中で我慢ならず血で汚れた服を脱ぎ捨て燃やした。目のやり場に困るので、せめて帰宅してからにしてほしい。人の通らない道を選んでいるが、昼間から下着姿で隣を歩かれるオレの気持ちを考えろ。

「だって血のついた服着たくありませんし…」
「服で血を拭かれたオレはどうなる」
「それぐらい戦場では気にしてなかったでしょう?」
「その言葉、そのまま返そう」
「返されちゃった」

 ナマエ可笑しそうに軽い声で笑った。
 揺らぎ視点が安定しない瞳。きっとオレは今、似たような眼をしている。里こと一族のこと友のこと、様々な感情が入り交じって煩わしい雑音に聞こえる。

「ねえ、マダラ様」

 雑音の中で透き通るように、その声が届くとき、世界のことはすっかり忘れていた。


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