ゾンビか幽霊かといわれたら、どう考えても後者のほうが恐ろしい。霊的な攻撃をされたら対処しようがないし、前者に近しいものは組織内にいらっしゃる。飛段お前のことだ。

 ふと目についたホラー映画のパッケージ。こんな辛気臭いアジトに目立つように置いてあるとは…なんと意味ありげなんだ。気にならないわけがない。手にとって見てみると、パッケージには制作会社や出演者の名など一切書かれておらず「呪いのビデオ」とだけ書かれていた。非常に気になる。これはもう観るしかない。
 お菓子や飲み物を大量に用意し、途中でトイレに行きたくなって廊下に出たら…なーんてべたな展開を避けるため、事前にお手洗いも済ませた。照明を切り、光は薄暗い映像からののみ。ホラー系鑑賞はやはりこうでなくては!少しテンションが上がった。

 電源を入れ、再生させる前に、幽霊が出たときの対処法を考える。昼間のメンバー内での調査の結果から分析する。
 都市伝説的な"口裂け女"は、
「角都の女版じゃねーの?」
という意見をいただいた。一旦距離を置き、確実に急所を狙い殺ればよい。
 次に"てけてけさん"半身を失っても動く幽霊様は、
「あれ飛段だろ、それか旦那だな…うん」
との意見をいただいたので、此方も一旦距離をとり、中距離または遠距離から動けなくなるまでバラせばよい。追ってこれないよう上に逃げるのが良策だ。
 その他幽霊全般は、
「幽霊など存在しない、脳が作りだす幻術と同じだ」
「パワースポットしかり、幽霊ってのは磁気の乱れが脳の側頭葉に影響を及ぼし神経細胞に…」
イタチとサソリの冷静さは安心するけれど、夢がないということがわかった。ちなみに結論は磁気を操る三代目風影か、脳を磁気ごときで影響を受けなくするため傀儡になればよいらしい。
 なんと、今ならサソリさんが無料で傀儡にしてくれるらしいよ。やったね。

 ……もうやだこのメンバー。今だ見ぬ幽霊よりアイツらのほうが怖いわ。幽霊も裸足で逃げ出すでしょう。足ないけど。

 気をとり直してお菓子を食べながら再生ボタンを押す。プロローグも何もなく、撮影スタッフ的な人も映らず、ただ薄暗い森を探検している映像だ。人の声も、ない。手振れも酷く、森を歩いている映像が酔いそうなほど揺れているだけ。つまらない。スタッフは捉えた!みたいなリアル体験エピソードだとしても、もうちょっと演出や説明があってもいいでしょうに。
 たんたんと森を歩くだけの映像で、再生数分後には眠くなってきた。森の道を歩く音が慣れた歩調で居心地がよい。ホラー映画じゃなくて催眠催促映画じゃないの。眠気をなんとかするためにお菓子を貪る。塩味系とチョコレート系を交互に口に入れ続けた。何度映像を注意深く見ても、幽霊一つ映らなかった。


 数十分後にはお菓子にも飽きて、うとうとしながら忍具の手入れをしていた。眠気を覚ますために手裏剣の刃をなぞったりする。ああ、そういえば映像を見ていなかった…忍具から視線を離し、下を向いて疲れた首を捻りながらテレビを観る。

「ええ!?」

 思わず声を上げてしまった。なんと、いつの間にか画面には井戸あんど髪の長い女性がいらっしゃるのだ。急展開すぎる。そしてベタすぎる!
 眠気もぶっ飛び映像を凝視する。髪の長い、女性のわりには立派な体格の幽霊。白い肌も見えず。顔は長い髪と俯いた角度で一切見えない。手は手袋をしている。肌がいっさい見えないだなんで、シャイ幽霊だ。

 やはり此方にくるのかな?映像から現実世界にくるのかな!?本当に来たらどうしようかしら。柄にもなくわくわくしている自分はなんとなく肝が据わっている。
 が、実際には「どうせ出ないでしょう」といった安心感があるからだ。だって、こんなアジトに好んで出没する幽霊とかいないだろうし。そもそもサソリたちの言う通り幽霊なんて見たことがないし存在しないしないだろう。画面から出るなんて、法則を考えろ。

「考えろよ、いやマジで……」

 幽霊さんの手に、影ができる。映像の光の逆光だ。明らかにあれは、画面から出てきていらっしゃいます。なんだこれは幻術か?いいや、いまのわたしはチャクラなど乱れてなくかけられた形跡もない。

 手入れの途中かけ忍具を投げた。右手いっぱいの手裏剣は、髪の長く、顔がいっさいみえない頭部をすり抜けて硬く高い音が響く。手裏剣が刺さり、壊れたのか砂嵐になる画面。しかし幽霊はゆっくりと此方に出てくる。
 今度は左の手裏剣を投げた。右手でクナイを投げ手裏剣を弾き、頭部ではなく首後ろの神経と画面との繋ぎ目の胴体を狙ったけれど、すり抜け床と画面に刺さった。

 マジでヤバイ。物理攻撃が一切効かない。今一度クナイを構え、今度はチャクラを流し素早く投擲する。莫大なチャクラを帯びたクナイによってテレビが大破すると同時に、幽霊さんが全身此方に出てきました。あら、こんばんは。ワクワク感などとうの昔にぶっ飛び、出会ったことのない敵への恐怖で頭がいっぱいになる。もしかして、あの映像は暁に殺害された者がゆゆゆ幽霊となって復讐せんと霊的な力で製作されたマジもんの曰く付きだったり……。どうしよう、涙が出そう。ナマエ、現在涙目です。

「出るなら出るっていってよ!メリーさんを見習えこの幽霊が!馬鹿幽霊!」

 部屋から出ようにもコイツに背を向けたら身体を乗っ取られそうで怖い。弱い奴ほどよく吠えるとはいったもので、ぎゃんぎゃんと幽霊に対して暴言を吐く。「ぼさぼさヘアめ!コンディショナー使いなさいよ!」なんだかもう幽霊関係ない言葉になってきた。
 ここまで大きな声で騒げばデイダラあたりが芸術に集中力できねーと文句いいながら部屋にやって来そうな気がしてきた。つーか来て。デイダラさんデイダラ様デイダラ大名、今すぐ来てこの幽霊を爆発しちゃってください!あ、物理攻撃効かなかった!

 デイダラへの祈りも虚しく幽霊の手が、わたしの首筋にのびる。扼殺ですか。わたしの攻撃は効かないのにあなたのは効くのですか。それとも、やはり身体を乗っ取るとか…。

 幽霊の手袋をした手は、わたしの首筋前で、ブイをした。Vサイン、ピースともいう。

「アハハーーッ!大成功っス!」

 俯いた顔が前を向くと、とーっても見慣れた橙のふざけた渦巻き仮面。そしてふざけた声が響く。

「もうナマエちゃんったら!ボクが脅かそうとしてるのに逆にボクを笑わそうとするとか…!それに幽霊相手に髪のケアに指摘するなんて…ま、これカツラなんスけどねー」

 長い髪の幽霊もとい、トビのクズ今すぐ死ねよこの野郎はアハハと笑いながらずるりとカツラをとった。血痕で汚れている白い着物の肌着をばさりと脱ぐ。「ああ、楽しかった。ナマエちゃんの反応面白すぎ!」トビだ。どうみてもいつものトビです。

「なーんだトビかァ…」
「そうでーすボクでーす!」
「びっくりしちゃったじゃない…」
「そう言って貰えるならやりがいがあるっスね!涙目のナマエちゃんも見れてボク満足です、うふふ」

 満足か。そうですか。でもこちとら満足もなにもないんだよ。本当にびっくりして幽霊に殺されるかと一瞬遺言状書けばよかったと悔恨が脳内を疾走したのですよ。

「…もしかしてナマエちゃん、怒ってる?」
「ええ!もちろん!」
「わー本当に怒ってた。怒ったナマエちゃんも可愛いっス」

 ありったけの殺気と憎悪をトビに向けが、本人はなんにも感じずけろっとした様子でわたしに引っ付いてきた。先程の出来事で全身が脱力しきり動けないわたしにすりすりと寄ってくる。変わらぬ調子で頭を撫でたり、ハグしてきたりするトビ。
 いつもならば鉄槌を下すのに、脱力しきった身体はもうどうでもよくなってトビのペースに飲まれる。幽霊より、生きた人間。だって彼らは実在し、尚且つ何を仕出かすかわからないのだから。


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