信じていたものに裏切られたような気分だ。いいや、前々からそれらしい雰囲気というのはあった。バレンタインという異国の文化を火の国で流行らせたときだって、この独身様は両手の紙袋いっぱいのチョコを持っていた。しかし、あれは義理チョコという名のお誕生日と兼ねた贈り物だったのではなかったのか。数日前と同じく、独り身寂しいはずのこの男は両手の紙袋いっぱいの誕生日プレゼントなるものを抱えていた。

「裏切ったな、扉間…」
「今まさに謀反を企てるような殺気とクナイを構えた体勢のナマエにその言葉を送り返すぞ」
「返さなくて結構よ!誕生日おめでとう!」
「そうか…ではこのクナイはありがたくいただこう」

 タダでやると思ったか裏切りものめ!と投げたクナイを包み箱を盾に軽々と受けとる火影の弟。きっとこの立場を生かして若者をたぶらかしたに違いない。そうに決まってる。

 里が創設され訪れた平和に、今まで時間がなくて出来なかった術の研究や、扉間に黙って進めている柱間と共同開発の木の葉温泉計画、戦とあったころと忙しさ変わってなくね?と自分自身につっこみを入れながらも充実した日々を送るなかふと思い出した友の誕生日。
 同じように戦場を駆け続けこの歳になっても独身、結婚できな…するより里のために生きると勝手に誓ったわたしは似た者同士の扉間がまた一つ歳を取る日を祝ってやろうとした。誕生日おめでとう!また一つ若さが遠退いていくね!と。そしたらコレだ。ちょっと慕われ過ぎじゃないの扉間先生。一緒に贈り物を選んだうちはの青年も扉間のことを尊敬していた。

「カガミと同じクナイか…」
「先に言うけどわたしがパクりました。扉間の部下にプレゼントの相談したら心優しいうちはカガミくんが『一緒に選びませんか?』となあんにも考えてなかったわたしを誘ってくれたのです」
「カガミは優しいからな」
「反面教師ってやつの成功者ですね」
「ナマエ、誰が教師が言えるか?」
「人様からいただいた贈り物を盾に使う殿方です」

 怖がって言わないとでも思ったか扉間め。そんなカガミくんの反面教師となったであろう扉間は一つの紙袋を丁寧に机の上に置き、他のプレゼントたちは部屋の隅に置かれているゴミ箱の隣に置いた。つまり、そういうことだ。この男は、親しくない奴からの贈り物など何があるかわからんから捨てる、のだ。幾重にも策を、慎重に合理的に物事を考える奴らしい…このやろう。

「また捨てるんですか…数日前のバレンタインで扉間という悪い男に引っかかった乙女たちに言いふらしたい」
「ワシから引っかけておらん。向こうが勝手に贈ってきただけだ……第一、親しくない者からの食べ物など忍が易々と食えるか」
「柱間さん、持ち帰ると奥様にバレるからと職場で食べてましたよ」
「兄者…」
「忍の神って毒で死にますかね?試してみますか?」
「やめろ……次回から気をつける」

 また悩み事が増えたとばかりに片手で頭を抱える扉間は、空いた手でわたしの投げ渡したクナイを忍具入れにしまっていた。どうやら彼のなかでは親しい部類に属するらしい。別に乙女のバレンタインイベントを無視したわたしは今更嬉しいとは感じないけれども、なんだか懐かしい気分になった。



「あっ、カガミくんと行ったお店で知ったんですけど、もうすぐ猫の日らしいですよ」
「猫の実験動物は使えんぞ」
「……なんでそんな考えに至る男が、こんなに祝われるんだ。世の中理不尽過ぎる」
「その理不尽を乗り越えて忍は精神的にも成長するのだ」


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