そんな、うそでしょう…

「マダラが手袋をしてないだなんて!」
「戦でもないのにするか」

 自ら、腕の絶対領域という萌えポイントを放棄したうちは頭領。マダラの好きなところを上げよと言われたら腕の絶対領域ぐらいしか思いつかない。のに、それを放棄したらもうただのマダラしか残らない。子供の頃から馬鹿やり合ったマダラとか、ないわー。
 戦がないのは大変喜ばしいことなのでしょうが、忍の我々からしてみれば複雑な心境。戦がないイコール仕事がないと想像してみてほしい。まあ、世界中の忍か年中戦場を走り回っているわけではないので、次なる戦の準備期間みたいなものだ。一時の平和、と言えばかっこいいだろう。幼い世代は修行に勤しみ、若い世代は戦に備え武器の手入れや体調、火薬庫の管理などをしている。

 話はそれたが、早い話がわたしは上記のことを終えてしまい暇なのだ。それでマダラ頭領様の屋敷にお邪魔しているのである。イズナくんは、留守らしい。

「絶対領域のないマダラとか、マダラじゃないです」
「お前がオレの何を知っている」
「………言われてみればあまり知らないですね」

 そうですね。
 頭を捻って考えても顔とお誕生日と名前ぐらいしか知らない。どんな性格でしょうと聞かれても、子供の頃は無邪気で生意気でよくどこかに出かける活発。なんてわかりやすいお人でしたのに、今は強くて絶対領域がかっこいい、ぐらいしか知らない。年々付き合いにくくなってきているのは男女の力の差と同じぐらい広がってきた。
 しんっとする空間が苦しくなって、マダラも悲しそうな表情を浮かべる。ぱっと見るといつもと同じ顔だけれど、イズナと戦場で離れるときのように若干しょんぼりするのだ。

「手袋して戦場駆けてるお姿カッケーってことは知ってます」
「そうか」
「うちは頭領かっこいいですよ!黒衣に写輪眼の紅い眼が輝くぅうかっこいい。絶対領域かっこいい!」
「…ナマエ」
「はい?」
「その"絶対領域"とは何だ?」
「えっ」

 知らなかったのですか、絶対領域。別名何者にも犯されることのない神の聖域を。
 マダラは女風呂とか覗く性格じゃあないし、頭領という立場でくの一からモッテモテですし。知らなくても無理はない。寧ろわたし以外にマダラの周囲の人間か絶対領域の素晴らしさをこの人に吹き込むとか考えられない。どうするよ、イズナくんが「絶対領域って最高だよね兄さん」なんて言ったら。ビックリして悲鳴上げちゃいそう。

「絶対領域というのは本来女子のスカートとニーソックスの間に広がる神秘的な空間のことで」
「オレは男だ」
「うん。だから本来はそういう意味なんです!でも、男性にも神秘的な空間といいますか聖域があるとわたしは思っているんです……それが腕の絶対領域、ここです、こう!」
「お前の言いたいことがわからん」
「お願い、わかって」
「ならば実際にやって見せろ」
「えっ」

 今なんといったこの男。実際にやって見せろって、スカートあんどニーソを着ろというのか。いや、待て待て。腕の領域を見せろと言うことかもしれな

「その絶対領域とやらは男女別なのだろう。ナマエは女だからな、そちらを見せてくれ」

 なんてこった。
 まさかこのわたしがスカートなどと言う拷問器具を装着しなきゃならないとはな。幼い頃は着物で、今は寝間着以外は基本うちはの黒衣しか着たことがない。そんなわたしが脚を見せるとか、誰得だよ。拷問か。

「…どうした?あれだけ語っておきながら口だけか」
「うぐっ……」
「口だけとは、やはり女はか弱い」
「…わかったよ…わかりましたよ!見せればいいんでしょう!?」
「期待してるぞ」
「ハードル上げないで!」

 良い笑顔してんなうちは頭領様!本当はこの人、絶対領域知っていてわざとやってるんじゃないかってぐらいの笑顔と愉しそうな声色。人をおちょくるのがたいそう得意なようで。
 「待ってろよおぉ」と捨て台詞を吐いて急いで家からニーソックスなるものを履く。もちろんわたしのではない。家族から借りました。どうやらこの長い靴下さんは、夜寝るときに履くと脚の疲れをとり細くさせる効果がうんぬん。説明してくださった最近健康グッズにはまっている母を、マダラを待たせているので途中で無視しました。脚に包帯をきつく巻いている気がしてむずむずする。締め付けられているのは、脚細効果ってものなのか。

 あまりに凄い勢いで頭領の屋敷に向かうもんだから、周りの一族たちが「戦の知らせですか!?」と声をかけてくる。ある意味わたしにとっては戦だ。いや、戦よりつらい。誰が好んで人様に脚を見せるか。戦では修行と鍛練の成果を見せるのだから、そちらのほうが断然マシだ。マダラに語らなきゃよかったと後悔しながら颯爽と駆ける。わたしは風だ、風になるのだ。風だから恥ずかしくないもん。もうやけくそな発想で感情を誤魔化すしかない。

 一際大きい屋敷に無作法にも玄関ではなく軒を飛び越え縁側から侵入する。マダラを待たせている書斎に入ると、待ってましたとのご様子でした。

「マダラ頭領!」
「ずいぶんと早いな。しかし、何一つ変わってないぞ」
「あっ、スカート忘れた」
「フッ……お転婆娘が」
「その呼び方ものすごく鳥肌立ったのでやめてもらえますか?」

 その場で長い黒衣をクナイで破って、ミニスカートの完成。いえい、わたしって男前過ぎる。
 早く家に帰りこのニーソさんを脱ぎたい一心での振る舞いである。決して、この男に披露したいという痴女の発想ではない。絶対領域ごときで痴女発言はいかがなものだろうが、わたしにとってはそれぐらいの苦行だったと思ってほしい。

「……見せたので、帰りたいのですが」
「折角だ。ゆっくりしていったらいい」
「手ェ離してくださいっ!」

 がっしりと手首をつかんで離さない。どうせなら手袋している頭領がよかったです。ってゆうかどうしてくれようか、この状況。

「なるほど、悪くないな」
「なんかにじり寄ってきてるし…」
「安心しろ。砂利相手にがっついたりしないさ」
「その発言でスッゴく不安になったんですけど」


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