成人も迎えていないこの手で多くの人を戦場で殺めた。先程までクナイや刀の手入れをしていた手は、油で汚れ鉄臭くお世辞にも綺麗とは言えない。それを両手で包むようにしっかりと握るマダラ。うちはの長タジマ様が「一族は安泰です」とおっしゃった。まだ少年に属するのに、将来をしっかりと考えている我が子に歓喜しておられるのだろう。
 こちとら全く安泰じゃない。どうしてこうなった。

「戦場ではオレがナマエを守る…十六になったら結婚してくれ」
「えーっと、お姉さんは…」
「ナマエには傷ひとつつけさせやしねェ」
「そう。で、わたしのお姉さんはどうなるの?」
「本当は戦場に来てほしくねェが、ナマエはオレが止めても来るんだろ…」

 人の話を聞けや。さっきからマダラは守るだの結婚だの、わたしに一世一代のプロポーズをしていらっしゃるようですが、非常に困る。
 女だらけの家系だったわたしは家族を支えるためにも戦場に出なければならない。オスカル様的な感じだ。親は健在だけれど、もし亡くなったら一族におんぶだっこで寄生するはめになる。写輪眼を確実なものとするためうちはの女がほしい家にでも嫁入りすれば困らないだろうが、やっぱり一族への忠義や誇りってものがある。
 共に修行し仲良くなったマダラが、わたしのお姉さんと結婚すれば家族は安泰だと思った。いずれ族長となるマダラの嫁、その立場があればマダラの義妹となるわたしも戦場で大きく振る舞えるし、妹たちだって一族の中でもいいところに嫁入りできる。マダラには、わたし自身ではなくお姉さんと結婚してほしい。

「ってゆうかマダラはわたしのお姉さんと婚約していたじゃん。間違えちゃったのかなーあはは」
「ああ、アレはお前の家に行くための口実だ。安心しろ!愛しているのはナマエだけだ!」
「…………そうだったんだ。へえ」

 助けてタジマ様。じっと見つめてくるマダラから視線を逸らしてタジマ様たちのほうを見る。わたしの心境を察知したらしく、ゆっくりと一族の心得でも言い聞かせるように「大丈夫ですよ」とおっしゃった。やはり大人は頼りになる。

「ナマエさんはその齢で戦果を上げられる優秀な忍ですから、一族の皆さんも納得されるでしょう。二人ともまだ子供ですので立場のことは我々に任せてください……子供と言えば、これだけ優秀なナマエさんと一族でも類い稀なる忍の才に恵まれたマダラ。孫の顔を見るまで死ねませんね……」

 全っ然大丈夫じゃなかった。
 別の方角へ思考を膨らますタジマ様は、早々すぎる将来の話をされた。長生きしてほしいけれど孫とか早すぎるでしょう。わたしのことを優秀な忍と称してくださるのは光栄だけれど、それとこの話は別。ちなみにイズナくんにいたっては「ナマエさんが家族になるの?やったあ!」「兄さん頑張れ!」としか考えてないようだ。タジマ様の隣できゃあきゃあはしゃぐ姿は戦場に居るときよりずっと幼い。

「ナマエ!」

 長く視線を逸らしていたため顰めっ面のマダラが迫るように顔を近づけた。近い近い、少し離れて。そんなに近づいてもすぐに返事なんてできない…というか返事しにくい、したくない。「ごめんなさい、すごく困る」さてどうしましょう。
 マダラの瞳が紅く揺らいだ。


 友と決別して開眼し、最近戦場で第二段階まで紋様が増えたマダラの写輪眼が、基本巴になった。いや喜ばしいことではあるが、なってしまった、のほうが正しい気がする。だってとても気まずいもの。タジマ様たちがマダラの揃った写輪眼に喜んでいらっしゃるなかわたしたちは一言も発することなく正座していた。
 息子の失恋そっちのけで写輪眼を祝うマイペースなこの家族については触れないでおこう。開眼時には宿敵千手らを無視して喜んでいたらしいから、それに比べればましなのだ。
 暫くして赤飯だの祝いごとの内輪話が終ったタジマ様が「まだ子供ですし少し早いですからね…ゆっくり準備してくれて構いませんよ」と助言してくださいましたが、準備って、そこは考えてって言うだろう。嫁入りすること前提ですか。本当に困った。

「………父様もまだ早いって言ってるから一先ずは置いといてやる」
「うん」
「オレは諦めねェからな」
「えっ」
「その、赤飯炊いてくれるし、夕飯食ってけよ」
「マダラの家族で祝ったほうがいいよ」
「家族になるんだからいいだろ」
「……そういうの本当に困る」
「チッ」

 舌打ちしたなマダラ。


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