□その敗因は
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それからはそれとなくアピールを繰り返しているのだが、彼女は予想以上に手強い相手だった。

朝一番に「おはよう、匂坂さん!」と挨拶をすれば、「おはよう、及川君」と笑顔で返してくれるが、その後、彼女はそそくさと自分の席に行って本を読み始めるため、会話がまともに成立しない。

休み時間などに、先生に持ってくるように言われたクラス全員分のノートを運ぼうとする姿を見かけたら「俺も手伝うよ」と声を掛けてみるが、「これは私の仕事だし、一人でできるくらいの量だから別にいいよ」と笑顔で断られる。

そして、昼休みに「俺と一緒にご飯食べない?」と聞けば、「ごめんなさい。私、友達と一緒に食べるから」と心底申し訳なさそうでこれまた断られ。

それなら、俺がバレーをしている姿を見れば、きっと俺に興味を持ってくれるはず!と、不純な思いを胸に「放課後、暇ならバレー部の練習を見に来ない?特等席を用意しておくよ?」と口にすれば、「うーん、遠慮しておくね。及川君のファンですらない私が特等席で練習を見るなんて、ファンの子たちに失礼だもの」と返された。


俺のファンじゃないとはっきり言われたことに、ちょっと凹んだ。


もしかして彼女はとんでもないド天然なんだろうか。これだけアピールしておけば、少しは勘付くものではないのか。
そして、彼女に恋をして3年目――。何一つ進展していない状況に俺は本気で焦った。


放課後、教室に誰もいないのをいいことに、馬鹿みたいに単刀直入に彼女に問うたのだ。

「俺のこと、どう思う?」と。

しかし、彼女はきょとんとした表情で俺を見つめ、こう返した。


「どう、って?」


確かに何の前振りもなく、そんな質問をされればそう答えてしまうのも無理はない。
だから、俺はざっくりと噛み砕いた質問に変えた。


「匂坂さんは、俺のこと好き?嫌い?……あ、普通ってのは無しで」


なんて自分で言いながら、どう返されるのか内心びくびくしたりして、彼女の顔を見れずに俺はずっと俯いていた。
そんな俺に向けて、彼女はあっさりと返答してみせる。


「好きですよ」


思わずガバッと顔を上げた俺は、高揚する自分に何度も落ち着け、と言い聞かせた。


「それは、どの程度で?」


友達として?それとも異性として?

続けて問うと、彼女はしばらくうーんと悩んだ声を発する。そして、にこりと微笑んだ。


「岩泉君と面白い会話をしている所を、少し遠くから眺めて笑っている程度かな」

「思いっきりただのクラスメイトじゃん!今と何も変わらないよ!」


友達としてって言われるよりひどい!
そう訴えると、匂坂さんは俺の大好きな笑顔でまたくすくすと笑った。
とりあえず、嫌いって言われなかったことにホッとした俺は、すうっと息を吸い込むと、彼女に向けてニッと笑みを向ける。


「椿ちゃん」

「え?」


突然呼び方の変わった俺に、彼女はびっくりした様子だ。


「これからは椿ちゃんって呼ばせてもらうからね!俺、椿ちゃんに振り向いてもらえるようにこれからもっと猛アタックするから覚悟しておいて!」


一方的にそう言い残し、俺は部活のバッグを持って教室を飛び出した。
だから、その後の彼女の独り言なんて聞こえるはずもなかった。


「……どうしよう。及川君のファンの子たちに絡まれるの嫌だったから遠ざけてたのに、なんでこんなことになったんだろう」


傷付けるのは嫌だからやんわりと断ったつもりなのに、と更に呟く。


俺の敗因、それは――。
彼女を他の女の子たちと同じだと勘違いしたこと。


俺の恋は前途多難だった。




[完]

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