□1.出会い
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キュッ、キュッ。
「うらぁぁぁああ!」
ダァン!
威勢のいい声を発しながら、一人の男子がバレーボールをスパイクした。周りから「ナイス、岩泉さん!」という声がいくつも上がる。
彼は青葉城西高校バレー部のエースだ。威力がすごいのは今に限ったことではないが、あからさまにイライラした様子を見せる彼には、別の力がボールに込められているのだろう。
なぜ、岩泉がイライラしているのか。
そんなもの、部員からすれば一目瞭然だった。
朝練に未だ姿を見せないキャプテンが原因に決まっている。
バレー部のキャプテンこと及川徹はいわゆるイケメンと呼ばれる部類の人間で、普段から女子に囲まれ、もはやアイドルのような扱いを受ける非常にチャラチャラした男である。しかし、バレーに関してだけ言えば、とても真面目な人物だ。彼が練習をサボることなどないし、放課後の部活が終わった後は一人で自主練をするほどのバレー馬鹿でもある。
そんな彼が、朝練に来ない。
サボったなどという可能性は端から除外しているため、他に可能性があるとすれば。
1.寝坊
2.ファンの女子に捕まった
3.体調不良
4.何かしらの事件・事故に巻き込まれた
のどれかだと思われる。
しかし、2と3の場合だとおそらく彼は幼馴染である岩泉に連絡を寄越すだろう。
つまり残る可能性は1か4になるわけだが、日常生活において4は限りなく可能性が低いため、大方1だろうと岩泉は考えている。
及川に何度も連絡を入れているのに、まだ起きないのかと岩泉のイライラは治まらない。
朝練に来たらボールを顔面に向けてぶつけてやる。朝練に間に合わなかったら、顔面に頭突きをかましてやる。
と物騒な決意を固めた岩泉。
そんなとき、体育館のドアが弱々しく開く音が聞こえ、ようやく来たかと鬼の形相で振り返った彼は、そこにあった顔に表情を崩した。
ドアの前に立っているのは、間違いなく絶賛大遅刻をした及川である。それに関しては驚くことなどないが、その表情が問題だった。
血の気が引いて真っ青になり、虚ろな目を体育館の床に向ける姿は、部員たちをぎょっとさせた。そんな中、岩泉は及川の元に駆け寄り、顔を覗き込む。
「おい、大丈夫か?体調が悪いならなんで休まなかった」
「ああ…いや、体調は悪くないんだけど、ちょっと、ね……」
「?」
要領を得ない及川の発言に岩泉が首を捻ると、そこに他の3年生レギュラーである花巻と松川もやってくる。
「うわ、及川、何その顔」
「今にも死にそうな顔だな」
二人がそう言うと、及川は表情を曇らせた。
「いや、死にそうなのは俺じゃないよ」
「は?」
意味がわからず、及川以外の三人は顔を見合わせた。
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