□白き獣は太陽に焦がれる
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日輪の膝に頭を乗せて目を伏せていた仙華は、すんすんと鼻を鳴らし徐に口を開いた。


「あの子が来てる。きっと、さっき月詠がいた辺りの通りね」

「!」

「あの子が雇ったらしき男が、通りで暴れていたわ。父上に情報が知れるのも時間の問題かしら」


険しい表情になった日輪は、くるりと月詠の方を振り返る。


「月詠」

「わかっておる」


コクリとひとつ頷いて、濡れ縁から飛び降りた月詠はそのままどこかへ行ってしまった。
日輪は膝の上にある頭を優しく撫でる。


「ありがとね。アンタのおかげだよ」

「何の事?あたしはただ、父上に報告しようと思ったけど、あんだけ暴れてたんだから他の百華からもう報告があっただろうなあ。言っても無駄よねーっていう独り言を呟いていただけよ」


仙華がそう言うと、日輪はくすっと笑みを零し、再び少女の頭を撫でた。


「あたし、ギリギリまでここで寝るわ。外から嫌な匂いがしてる」

「嫌な匂い?」

「ええ。外から来たくせに、ここと同じ夜の匂いを纏った連中が近付いてる」

「それって…」

「なんだか、めんどくさいことになりそう」


そう呟いて、仙華は眠りについた。
それから二十分も経っただろうかという頃、外からとんでもない轟音が響き渡った。
思わず音の方を振り返った日輪が見たのは、吉原の壁に設置された巨大な配管の一部が崩れ落ちて行く様。
その勢いは、吉原の天井が崩れ落ちるのではと思わせるほどのものだったが、それ以降に何かが壊れてしまう事はなかった。


「一体、何が…」


そう彼女が呟くのと同時に、仙華がむくりと体を起こした。彼女は顔にかかった髪の毛を鬱陶しげに掻き上げ、頭にある一際大きな簪を引き抜いた。


「どうやら、めんどくさい連中が来たみたいね」


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