□むーんうぉーく
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ある日のこと。銀時はいつものように万事屋でジャンプを読みふけっていた。

仕事もない。金もない。仕事はともかくとして、金がない状況ではパチンコにも行けないし、甘味を食べに行くこともできない。新八は買い物に出掛けてしまったし、神楽は外に遊びに行った。となれば、彼にはもう買い溜めているジャンプを読み返すことぐらいしかすることもないのである。
しかし、しばらくすると銀時はジャンプを机の上に置き、椅子に凭れ掛かって天井を仰いだ。


あー、奏に会いてェ。


昔の彼女なら間違いなく、銀時が動かなくても会いに来てくれたに違いない。だが、記憶を失ってから、異様なまでに銀時を毛嫌いする彼女が会いに来てくれるわけはなかった。

10年に至る日照りの後、雨雲が出てきたはいいが雨が降らない状態。
つまり、シスコンな彼は現在、妹成分不足なのである。


「はぁ〜」


銀時が大きく溜息を吐いたちょうどその時。

ピンポーン…。


「ンだよ。誰だ、人が落ち込んでるってときによォ」


いつもなら新八が行ってくれるが、そんな彼も今は不在。居留守を決め込もうかとも考えたが、万事屋は万年貧乏なのだ。仕事の依頼かもしれないかと思うと完全に無視もできなかった。
だるそうな足取りで、ノロノロと玄関に向かう。そして、彼は戸に手をかけた。

ガラガラ。


「はーい、どちらさまで……」


そこで、銀時の言葉は途切れた。目の前にいる思わぬ人物に、発する言葉がなくなったのだ。
彼の目の前にいる人物。それは、彼が今の今まで会いたくて仕方のない人物だった。


「……どうも、万事屋さん」


相変わらず素っ気なく挨拶をする女性。奏は銀時の顔を見ると、時間の経過ごとに少しずつ眉間の皺を寄せて不愉快そうな表情を浮かべる。しかし、彼女がその場から動く気配はなかった。


「なんで、お前がここに?」


銀時がそう問うのも無理はない。先程も述べたように、今の奏は銀時の顔を見ただけで不機嫌になるほど彼を嫌っている。そんな彼女が、わざわざ万事屋に来る理由など銀時にはわからない。


「神楽ちゃん、いますか?」


その言葉に得心がいく。
奏と神楽は、銀時の預かり知らぬところですっかり仲良くなっていた。街で出くわしてはしばらく一緒に過ごしているらしく、彼は神楽から奏の話をよく聞いている。
その度に神楽が羨ましいだろうと言わんばかりにドヤ顔をするのが鼻につくが、銀時はその話を一言一句聞き逃したりしなかった。そうして、楽しそうな奏の話を聞きながら、かろうじて妹成分を補っているのだから。


「神楽なら、外に遊びに出掛けてるぜ」


とりあえず、奏を刺激しないように簡潔な答えを返す。すると、彼女はしばらく考え込む様子を見せた後、再び口を開いた。


「じゃあ、新八君はいますか?」


……ん?なんで新八?


「新八は、買い物に行っていねェけど……」


一応、素直に返事をしながら、銀時は内心とてつもなく焦っていた。


なんで?なんで、新八までご指名?神楽だけが奏と仲良くなってんのかと思ったら、まさか新八も!?俺だけ完全に除け者じゃねーか!!


「はぁ……。じゃあ、もうあなたでいいです」

「え?」


あれ?もしかして、これ万事屋なら誰でもよかった感じか?


「――ご迷惑なら、日を改めますが」


ポカーンとしている銀時を見て何を思ったか、奏はそう言った。
銀時は慌てて首をぶんぶんと横に振る。


「迷惑なんかじゃねェ!ほら、上がってけよ」


そうやって中に促すと、奏は「お邪魔します」と呟いて中に入ってくる。
そして奥まで進んで応接間に着くと、銀時はソファに座るように彼女に言った。彼の言葉に素直に従って座った奏を見ると、銀時も向かいのソファに座る。
しばらくの間、沈黙が続く。しかし、銀時は急かしたりせず、ただ奏が口を開くのを待った。
すると、ようやく奏が動く。どこからともなく、黒い箱のようなものを取り出し、それをテーブルの上に置いた。



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