朝の、はなし。
ゆらゆらと、頭の中が揺らめいた。いつもの低血圧のせいかな、としか思ってなかったけれど。それだけならまだつまらなかったけれど。











回る視界に嘔吐感を覚えながら半眼だった双眸をゆっくりあけた。あぁ、まだ少し回ってる。どんどん正常に戻る世界に見えたのは薄い青色の天井。


「(あれ、ここどこだっけ。)」


次にベッドに寝転がったまま右手を見てみた。ゆっくりベッドから離して視界に掌が見えるように動かしてみる。続いて自分の首を絞めるように手をそえてみた。そして鎖骨、胸の間、鳩尾胃の上へそ腸の上。撫でるように手を滑らせて、次は腰の骨が出っぱってるところを触ってみた。骨盤のところ。躰の芯を確かめて。
あぁ、私の躰はちゃんと、在る。


「ふふ、」


わらった。なんだか自分が滑稽になって。そして右手をベッドの上に戻してすーっと躰から遠ざけるように、シーツの上を滑らせた。
すると、指先に、あたたかさ。


「っ、」


少し驚いた。驚いて顔ごと右へ向けた。
そこには、


「………………きん、ぱつ。」


ヒトの頭が。後頭部。肩下くらいだろうか。それくらいの長さの綺麗な金髪。


「(わぁ、きれい、さわりたい)」


漠然と素直にそう思って、またゆっくり手を伸ばした。あぁ、シーツが冷たくないのはこの人のおかげなのかな。そんなことを思いながら。髪を触ってみると、さらりと指から逃げた。
あぁ、もしかして私のことお嫌い?やぁね、まだ逢ったばかりなのに。そして今度はしっかり髪束を摘まんだ。


「…………ん、」


あ、いけないチカラ入れすぎた。
金髪のヒトは小さく呻き声を上げたあと、これまたゆっくり、こちらに躰ごと寝返りをうった。あらあら、御免なさいね、と謝ろうと、した。したのに私は衝撃的なことに気づく。金髪のヒトは、完全にこちらに向いた。そしてゆっくり瞼を開いた。わぁ、綺麗な金色の瞳。寝返りをうったから、もう5センチほどしか顔の距離はないのよ。だからその寝ぼけている瞳や眉がしっかりと見えるよ。
だから、金髪のキミが少年だということも今知ったよ。


「…………」
「…………」


お互い(片方は寝ぼけているから)無言。私どうしようかなぁと少し悩んだところで、眼の前の金髪少年がだんだん覚醒していき、次の瞬間には、


「、!?」


驚かれた盛大に。(表情で)
あ、そうかこれが普通のヒトの対応かぁ。しかし身を起こそうとした彼の髪は摘まんだまま。

「いッだ!」
「あ、御免なさい」

さほど離れずに少年はまたベッドに突っ伏した。そしてもそりと顔だけこちらを向く。警戒してる。けどなにかしら私から危険はないと察したのか距離は置かない。眠いだけ?
私はにっこりわらっていた。


「なんで一緒に寝ていたのかな?」
「知るか。俺が訊きたい……」
「貴方はちゃんと下は履いてるのにね。黒いズボンも。上は裸だけど」
「…………お前は」
「ん?私なんもないよ」
「はァ!?」


少年はまた表情で反応してくれた。おもしろいなぁ。どうしよう少し気に入った。私は躰にかかってる冷たいツルツルした素材のシーツをベラッとはがしてみせようとした。


「ほら、ね」


「、ね」の途中。シーツをはがしきる前に少年は私の腕を掴みそのままベッドに押し付けた。カタチ的に私は押し倒されたような状況になってしまう。あれあれ、少年はもう焦っているのがまるわかり。あー楽しい。


「ば、ばかやろなんでみせるひつようが」
「え、見たくなかったの?そんな見るに足らない躰かしらそこまで可哀想な体格でもないと思っていたのだけど……」
「!そーゆうわけじゃなくて!あの……いや…………」
「……ねぇ君、私の躰見るのよりこの体勢の方が恥ずかしくない?」


そう云うと彼は音速で(比喩だけどさ)私から離れた。……おもしろい。


「おおお前絶対楽しんでんだろ!!」
「そうだね楽しんでるねぇ」
「ば、馬鹿にすんのも大概に……!」
「あ、馬鹿にはしてないよ、楽しんでるんだよ」
「…………。」


それはそれで嫌だ、って顔で私を見る少年。なんてウブなんだろう。自分がくすんでるように感じる。きっと彼よりは(そっちの方の)人生経験は豊富だろう。……なんだかちょっとへこんだ。
でもまぁいいや。その経験はきっと無駄じゃあない。そうやって私はすぐに立ち直って、もう一度シーツを肩まで被せて寝支度をした。


「え、あ、ちょ、」
「御免ねまだ眠たいの、だからおやすみ」
「は、お前ここ俺の部屋、」
「うるっさいなぁ静かにしてよ出来るでしょ?」
「あ、すみません、って出来るかァ!!」




じゃあ子守唄くらい歌ってよ。


(矛盾してんだろ!それ!)
(ねームジュンの語源知ってる?昔「世界一硬い盾」と「世界一鋭い剣」を売ってる商人が居てね……)
(話を逸らすな!)
(もう、エドの我が儘)
(我が儘じゃねェ!…………なんで俺の名前知ってるんだ……?)

(乙女の秘密です。)




終。
(08.3.25)

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