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図書館で彼らは机ではなく、本棚の足元に行儀悪く座っていた、ら。
「ねぇねぇねぇエルリックさん」
「……なに」
エドワード少年は眉間にシワを寄せて前を見た。今読書中なんですけど、と云いたそうに。でも名前はそんなの知らない、とでも云うように言葉を続ける。
「本、おもしろいですか?」
「……はい?」
なに云ってんだ、とエドワード少年は呆れた顔で訊きかえす。愚問なのだ。彼が本を読みだすとしばらくどっぷりなのを彼女は知ってる筈。何を、今更。
でも名前はいたって真顔で。
「名前、どうした?」
「その本おもしろいんですか?」
「え、あの」
「そんな分厚いのにおもしろいんですか?」
「あの、おい?」
「そんな重たそうなのにおもしろいんですか?」
「、おーい……」
一方通行な掛け合いにエドワードはため息。
本を閉じないまま、熱でもあるのかと彼女の額へ手を伸ばした。
「……私より、その本が好きですか?」
手が、止まる。
名前の額まであと2センチ。空中で動かなくなった手の向こう側で少しだけ崩れた名前の顔。
「名前、なん」
「エドくん、私今日は帰るね」
「―――な、待っ、」
「ばいばい」
空を切ったエドワードの手は、何も掴めずに。彼女は刹那くわらったけど、彼の眼は見なかった。
それは、我が儘なんかじゃなくて。
(我が儘で、御免ね)
終。
(07.9.24)