「…………」
「…………」

あぁ、気まずい。気まずい。なにこの静まりかえった教室。なにこの微妙に近い席。なにこの、……組み合わせ。
私は至って平凡な人間です。容姿も平凡で、化粧だってナチュラルだし、特に秀でたところはありません。勉強だって並の成績で、運動だって……。平凡な人間だと、自分は自分で思います。そんな私が平凡じゃあない男の子と今教室で、微妙に近い席で二人きり。その人はこの並盛中学でとても有名だったりするのです。不良ぽくて(ぽいというか煙草を現在進行形で吸ってます)(見つかりますよ)、頭が良くて、運動神経も良くて、容姿もかっこよくて、ファッションセンスも良い。(らしい)(見たことある人の発言を耳にしました。)そんな凄い人と私は一度も喋ったことがない、と思います。記憶がないのです。なにしろ、私は彼に正直、興味は……少しあるけどみんなみたいにキャーキャー云ったりしないから。その興味だって「凄いモテてる男の子」としてのそれで。…………そんな彼と、何故今このなにやら重たい空気の中二人きりにならねばならぬのでしょうか!なんだか彼は苛々してます。椅子に浅く座って、右足は貧乏ゆすり。眉間に深い皺を寄せて、煙草をくゆらす。(だから先生来ちゃうっていうか火災報知器反応しませんか)
私はここまで考えて、彼・獄寺くんを見つめている自分に気が付いた。ハッとして慌てて目線を思いきり逸らす。私の席が獄寺くんから右の右の席で、獄寺くんは天井らへんを眺めていたからバレたりはしなかった。……危ない。なんか、危なかった、と思ってしまった。いやいや、危なかった、って何。別に変な気持ちで見てたわけじゃないですし。てか変な気持ちって何……、


「……おい」
「…………」
「…………」
「…………」
「……おい、……あー、と……」
「…………え、私?」
「他に居ねぇだろお前以外」


いやいやごもっともです。ごもっともですが……!
私は顔を獄寺くん側に向けてしっかり彼を見ると、獄寺くんは目線だけ此方に向けていた。


「そう、ですよね……えっと、なにか」
「……お前、なんで、此処にいんだ?」
「……あ、え?」


思わず訊き返してしまうと、彼は顔ごと此方に向けてくれた。しかし眉間に深い深い皺がさらに寄る。しまった不機嫌MAX……!


「だから、お前なんで教室に残ってんだよ。部活はどーした」

そして「チッ」と舌打ちをなさった。私はビクリと肩を震わす。舌打ちもだけどなんでそんなこと訊くんだろう。多分会話をしたことは無いと……思うんだけどな。とりあえず教室に残ってる理由を云わなきゃなんだか怒られそうなので私は口を開いた。


「友達が今補習日の説明受けてるの。それを、待ってて……」


あはは……とチカラ無く笑えば「そうかよ」と一掃されてしまった。いやいや……訊いたの獄寺くんですよね?それから彼はだんまり。視線もまた天井らへんに向いていて。


「(…………う、うーん……気まずい)」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「10代目も、」
「……へ」
「10代目も、今補習日の説明をお受けになってる。」
「…………はい」
「だから、俺は此処に居る」
「…………そう、ですか」
「…………」
「…………」


彼も、気まずいのかな。なんか少しそわそわしてる、獄寺くん。あ、椅子座り直した。机に頬杖ついてる。少し猫背だなぁ。前々から思ってた。彼はいつも授業中姿勢が悪い。猫背、っていうか……姿勢が悪い。いつも思う。沢田くんと話してるときはそうでもない、の、に、なぁ……。


「獄寺、くんて、さ」
「あ?」
「なんていうか、雲の上の人だと思ってたけど」
「…………」
「良かった、ちゃんと会話出来た」
「……さっきの会話だったか?」
「まぁ、それなりに」


それから彼は「そうかよ」と云って、少しこっちを見てわらってくれた。会話をし始めてから、初めて、見た、彼のわらう顔。そこで私はまず一つ、理解した。女の子たちが獄寺くんを好きになった理由。一概には云えないけれど、今の彼のわらった顔は、ずるかった。優しいのだ。きっと彼は、優しい人なのだ。そしてもう一つ、理解した。
私は彼をずっと、知らぬうちに見ていたんだ。知らぬうちに眼で追ってたんだ。さっきの姿勢の話だって、なんだって。
私は、ふ、とわらって。椅子を引いて立ち上がった。


「獄寺くん」


同時に教室のドアがガラリと開いて、待っていた友達がそこで手を振った。帰ろうの合図。私はスクールバックを右手に、獄寺くんの顔を見た。そして、


「また、あした!」


最高の笑顔で、またあした。





フリースタイル。
(恋に世界は関係ない!)



終。
(08.8.31)
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