「あ!名前おは、ああああああ!」


朝、登校したら、叫ばれました。
いつものように、そういつものように登校しただけです。いつものように3Zに登校して、いつものように神楽ちゃんに教室の前でばったり逢ったから、いつものように「おはよう」て云ってくれると思ったのですが。

「おは、よう神楽ちゃん」
「ななななな何があったネ名前!縮んだアルか!縮んだアルかあああ!」
「なにが!?なんのこと!?」
「あああ名前がぁあアアア」
「落ち着いてよ神楽ちゃんんん!!」
「朝っぱらから騒がしいわね二人とも」

なんでだかご乱心な神楽ちゃん。云ってることがよくわからなくて、とりあえず落ち着いて貰おうとしたとき丁度妙ちゃんが爽やかな笑顔で登校してきた。お、助かったこれで神楽ちゃんが落ち着くぞ。
と、思ったのですが。

「……名前ちゃん、それ縮んだの?」
「すみません何がですが?(またかい!)」
「縮んだの?まさか縮んだの?」
「だだだだから何がですか!?」
「すっとぼるのも大概にしなさい縮んだんでしょそうでしょ?」
「爽やかな笑顔のままそんなこと云わないでください……!」

妙ちゃんの顔が笑顔だけど笑顔じゃない。綺麗だけどなんか黒い。流石に朝からその重圧感に耐えられなかった私は「とりあえずまた後で!」と3Zに逃げ込んだ。なんとかご乱心なあのふたりから一度距離をおきたかった。
しかし「縮んだ」ってなにがだろう、……背?身長?まさか、むむむ胸じゃないよねたしかに今カーディガン着てるけどさセーラーの上にさ。でも胸なら「縮んだ」じゃなくて「しぼんだ」、とか、さ。なんだよなんかしょんぼりしちゃうよ。
そんなことぶつくさ心の中で呟きながら窓側いちばん前の席に鞄をどさりと置いた。そしてパッと、教室に眼をやると。
みんながこちらを向いていた。


「………………。」


私、なにか縮んだんですか?


「あは、あ、み、みなさんおはよう御座い……」
「…………」
「おぅ、おはよう、苗字さん……」


かろうじて近藤くんが返事をしてくれたけどその近藤くんもなんだか眼を合わせてくれてない。なんていうのか、若干上気味の目線。え、なに、上目遣いとか目指してる?いやまさか彼に限ってそんな。(いやどんなだろう私にもわからないけど)そこに救世主現る、というか救世主になってくださいと願う人物が教室に入ってきた。大あくびと一緒に。

「ふあーぁおう速やかに席につけーって、あれ。」

坂田先生は、救世主にはなってくれませんでした。ゆっくりした動作で、でもそれでも大あくびのあと私を見て止まってしまいました。
私、なにした?いよいよ不安になってきて少し泣きそうになったとき、グァラリと豪快なドアの開く音がしてそちらに眼を向けた。先ほど坂田先生が入って来たドアだ。すると、そこには昨日私の虚しくて哀しい気持ちを綺麗に掬い取ってくれた、沖田総悟くんが。
私を見て、眼を少し見開いた。
そして、第一声。


「髪、どうしたんですかィ」


―――あぁ、なんだみんなそのことか。
別にもっと全然ストレートに云ってくれても良かったのに。(また私は“優しさ”に触れた。)
私の髪は、程ほどの長さの黒髪から、ベリーショートのピンクブラウンカラーに変わっていた。





女の子は昔から、



(失恋をしたら髪を切るのよ。)
(なんてちょっと古いのかしら。)



終?
(08.1.15)

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