痛い。
あぁ、しまった、こりゃいけない。やってしまった。痛い。あー駄目だわ。こりゃあ駄目だわ。私もう駄目だわ。なにが駄目って、もう私いけんわ。いけん。いかん。泣く。やっちゃった。あっはははは笑えない。なんで私こんな。とりあえず走ろうかな。今なら100メートル12秒で走れちゃいそうだわうん今の私なら行けそうねぇ頑張っちゃう?頑張っちゃう?行っちゃう?よし行け今なら陸上部のエースもびっくりだよちょっと私目立っちゃうよ。学校一速い女子だよ陸上部の顧問からお声かかっちゃうよなんて御免なさいなんか自分きもちわるいね御免なさいはい自重しますすみませんそんな冷めた眼で見ないでください今さっきのダメージだけで充分なんですだからこれ以上はちょっと。


「勘弁してくれよぉ」


さて、私は今屋上に居るのですがやはり今の季節コートに腕を通さずに此処に来るのはいかがなものかとたった今思いました御免なさいいくら地球温暖化が進んでいるとはいえ冬を舐めていましたすみません。

なんて。
今となればそんなこたぁどうでもいいのだよ。もう私このまま風邪引かないかなぁこのままインフルエンザとかかかっちゃえば1週間は学校来なくていいわけじゃん?しかも出席停止で欠席にはならないんしょ?いいじゃんいいじゃんなんか得じゃん。(その分勉強に追い付けなくなるとかの考えは皆無!)

なんて。
あー駄目だ今の私駄目だ本当駄目人間だ。そんなんただ逃げてるだけじゃんね、まったくさ。結局逢いたくないとかそうゆう感情になる覚悟でさっき云ったんじゃないの伝えたんじゃないの。ずるいわ私そんな向こうは「これからも友達だよ」って云ってくれたじゃんあんな優しい笑顔でさ。彼は嘘はついてないもんだってあんな綺麗で優しくてなんでか彼の方が泣いてしまいそうな顔でなんで貴方が泣きそうなの私泣けないじゃないのなんでだよ。

あぁ、空も泣きそうだ。
フェンスによじ登って、天辺の緑の平らの部分に仁王立ち。あぁ風か痛くて逆に気持ち良いわ私Mなのかそうなのか。(いやいやいや)セーラーの襟がふわりと風になびくのがわかる。良かったカーディガン着てて、スカートが最低限はためかない。いや、今別にスカートがべらんべらん捲れたって気にしない。パンツ見えようがなんだろうが、だって一分丈のスパッツ履いてるし。髪型がぐちゃぐちゃになったって気にしない。だって誰もいないし。はぁ、なんだか感傷に浸るって青春、


「水色、ですかィ」


ガチャァン! ドシャ。
落ちた。私、落ちた。危ない、落ちた。こっちがわで良かったものの!な、な、な、だ、誰だ!って、もうわかってるけど。くるり、とそのままの体勢で声のした方へ振り返った。


「沖田、くん……」


あぁぁ腰から落ちたぁぁ。そううめいたら「そりゃあアンタがそんなトコに居たのが悪い」と鼻で笑われた。(そうだけどさ、なんかさ)(腑に落ちないような)(てかなんで私のパンツの色わかったのスパッツは黒だよ)
沖田くんはそんなことを云ったのにも関わらず「ほらよ」と手をさしのべてくれた。そうやって彼は、たまに優しい。有難う立てました、と云うと何故か彼は手をパンパンとはたいた。


「私の手そんな汚れてないから!」
「そういえばお前さぁ」
「話訊けよ!」
「アイツがお前を心配してやした」


風がより一層痛みを増した。気がした。私は彼の眼が見られない。もう見られない。


「苗字が今、きっと、泣いてるから、」
「……へぇ」
「行ってやって欲しいとさ」
「そう」
「……なに、あった。」
「…………」


沖田くんは、優しい。そしてあの彼も、やっぱり優しい。優し、過ぎる。そんな、こと、しなくていい、のに。馬鹿、じゃない、の。そしてやっぱり、コイツ。


「沖田くんさぁ、なんでそれ私に云っちゃうかな」
「はい?」
「あの人がそれ君に云ったことを、わざわざ何故に私に」
「…………だって」
「…………」
「だって、アイツ、名前泣かした。」


だからそうやって相手に気付かれない優しさとか持ってるなんて許さない。最後まで苗字名前が気付かずに優しくされるのを俺ひとりが知ってるなんて嫌だ、と。それは私自身が知ったことによって無効になるのだと。私にはよくわからない男の子のプライドなのかなんなのか、眼の前の彼は至極不愉快だという気持ちを顔をしかめるということで表した。その顔がなんだか可愛くなって、私は少しわらう。


「そっかぁ」
「おう」
「なんだいなんだいみんなしてさぁ」
「…………」
「みんなして、優しくって、さ」


沖田はお人好しだ。
これじゃ私はあの彼を憎めない。はなっから憎む気なんて毛頭無かったけど。なんか、さ。あぁ、優しさってずるい。こういう、いちばん弱い状態にした人が与える優しさってなんかずるい。ずるい、よ。


「ずるいよ、あの人も、君も」
「そうかィ」
「そうだよ」
「…………」
「君もさぁ、お人好しだね」
「……あぁ」
「彼の為に、ね」
「……ああ、まったくだねィ」





お人好しの定義。


((まったく、本当に。))
((“いい人”になった俺は本当に))
((本当に、お人好し))




終。
(08.1.10)

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