「久保田さん」
「ん、なーに?」
「それ、美味いですか?」
「コレ?んーそれなりに」
「ほう、じゃあ今度買ってみます」


コンビニの新商品に関しては彼に訊くと良い。前に鵠さんが教えてくれた。私はその彼・久保田さんの家のソファに横向きに座って、脚は膝を折って横に流した。そのとき左脚はソファに乗りきらずに結局下に下ろすカタチになってしまったけど。私の目線の先にはちゃんとソファに座ってる久保田さん。眼鏡は黒縁。彼は甘そうなお菓子を食べている。何だか今はあまりお腹は空いていないのに、彼が持っているお菓子は美味しそうに見えて。

「ねぇ久保田さん」
「なーに?」
「それ、やっぱりひとくちください」
「……これ?」
「そです、それ。」
「食べかけだけど」
「構いません」
「そう?じゃー、はい。」


わぁ、やった!そう心で喜んで身を乗り出した。ずい、と。そして手をそのお菓子に伸ばしたその時。

ひょい。


「……久保田さん?」
「なーに?」
「……さっきから同じトーンで良く云えますね、それ」
「凄いデショ?」
「凄い、ですけど、も。じゃなくて、」
「欲しいんでしょ?これ」


欲しいから今変に前のめりな体勢で固まってるのです。なのに、なんでそのお菓子私から少し遠ざけたのですか。ひょい、とか。私は久保田さんの眼を見た。


「あの、全部くれとは云わないです」
「うん知ってる」
「…………」
「ほら、はい。」


久保田さんはお菓子を持った右手を私に伸ばす。私は空の左手を彼の右手に伸ばす。
そしたらまた、少し遠ざけられた。
……私は久保田さんを睨んだ。


「…………」
「…………」
「下さらないなら結構です」
「あげないなんて云ってないよ?」
「くれる気ないじゃないですか!」
「簡単にあげるのもなんかアレかなーって」
「(私はペットか何かなのか?)」
「なんかペットて感じだねぇ。」
「!」
「良いね、なんか。」
「!!!!」


彼はゆっくり笑った。
そして前のめりのまま固まってる私の左頬にお菓子を持っていない手を伸ばして、包むように触れた。


「いい子にしてたら、あげるよ、これ」


そう云って右手に持ってるお菓子を揺らす久保田さんは、何処か楽しそうだった。

要するに、御褒美ってことですか?





Kの戯れ。


(いい子にしてたらね)

((彼がこれから私にしようとしていることは、なんとなくすぐにその御褒美は食べられそうもないことなんだろうなぁ、と))
((思ったりした))



終。
(08.11.19)
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