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撫でた。蜜柑色を。
それはとても優しい感触がした。これが赫に染まるのを私は見たことがあった。隣街の学生とやり合ったとき。それから、黒い着物を着た、人ではないヒトたちと刀をかち合わせているとき。
嫌いだった。蜜柑色が赫に染まるのは。だって綺麗なんです。蜜柑色が。なのに暗い暗い赫に染まるのはいただけないでしょう。暗い赫も好きだよ。でも私はこの蜜柑色がいちばん、すきなんだよ。
ここは屋上で、一護は寝ていて起きない。ゆっくり、蜜柑色の髪を撫でる。こんなに、遅く時間が流れてるのは久しぶり。一護にとっても。私にとっても。授業はサボタージュ中。たまには私もやってみるんだ。だってさ、今しか、出来ない。
一護には云ってない。本当は視えてること。知ってること。織姫ちゃんや茶渡くんや石田くんのこと。朽木さんのこと。あのよくわからないモノを斬ってる、こと。
「……御免ねぇ、一護」
知ってるんだ。知ってるよ。
あのライオンみたいなぬいぐるみが動いてるのも知ってる。コン、だっけ。あのお守りみたいのがビービーけたたましい音が鳴るのも知ってる。それに合わせて授業抜け出すよね。あれ、やかましいね。耳に残るよ。どうにか出来ないのかな。無理?
「…………疲れるね、一護。躰、大丈夫?」
大丈夫なんかじゃないよねぇ。あの刀、何あれ。重たそうだよ。よく振り上げられるね。てかあのときの一護、かっこいいね。かっこいいよ。ドキドキする。かっこいいかっこよすぎて、涙出ちゃった。馬鹿め、こんなに惚れさせてどうするつもりなんですか。馬鹿ですか。馬鹿だよね。馬鹿。ばーか。馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿。
なんで、云ってくれないの。
鬼の居ぬ間に、暴露。
終。
巻き込みたくない一護さんと、
教えて欲しいヒロインさん。
お互いちゃんと想ってのこと。
矛盾。
(08.5.28)