今日も、届いてる。
ガラリと窓を開けてベランダに出れば手すりに箱がひとつ。掌より少し大きな長方形の薄い箱。淡い青の箱に濃い青のリボン。これは君へのプレゼント、と云われているような感覚だ。が、ここは7階のマンションの一室。どうやって此処にプレゼントを音もなく置いたのか。……そんなの、犯人はわかっている。

初めてプレゼントされたのは3ヶ月前だった。今日のように音もなくベランダのてすりにその日は何にも包まれることなくシンプルなネックレスが置かれていた。はじめは上の階の人の物が落ちたのかと思って確かめてみたが違うと云われた。その両隣の人にも確かめてみたが結果は同じ。では何処から?またその上の階の人にも確かめてみたがやはり結果は同じ。では自らの隣人は………………結果はやはり同じだった。なんなんだろうこのネックレスは。もしかしたらカラスかもしれない。カラスは光り物を取っていく習性があると訊いたことがある。そうかカラスの恩返しか!いやしかし自分はカラスに恩を売った覚えはない。むしろカラスが怖くて近づけない。いやしかし今のところカラス以外にこのネックレスの贈り主は予想出来なかった。

3日後、朝起きてベランダに出たら消しゴムが置かれていた。しかも使いかけ。なんだこの苛めは。ちょっと苛立ちを覚えたが使いかけのわりに丸みを帯びた角は真っ白で綺麗で。なんだかわざわざ白くしてくれたのかとちょっとほんのり優しい気持ちになった。その日はその消しゴムを意味もなく持ち歩いた。だが決してその消しゴムは使用しなかった。なんだかその白を汚したくなかったのだ。

そのまた3日後、今度は黒い箱が置かれていた。なんの装飾もない真っ黒の箱。ところどころなにか擦ったような後が付いているが箱自体へこんだりはしていない。おもむろに開けてみると、また箱が入っていた。しかしその箱には見覚えがあった。いわゆる、指輪が入っていそうな。ちょっとドキリとしてゆっくりその箱に指をかけた。そしてゆっくり開けてみると、やはり指輪だった。これまたシンプルなシルバーの。装飾はない。ただの丸い丸い指輪。しかし内側になにかが彫られている。覗いてみると「For you....」とあった。これはなんだか婚約指輪かなにかかそうなのか。自分はプロポーズされたのか。いやいやそんなまさかあっはっは!独り言を云って素早く箱を閉じた。パチン!と音がした。

あれからあれから度々プレゼントはベランダに届いた。定期的、とまではいかないが、必ずベランダの手すりにプレゼントは音もなく届いた。値打ちのあるものからゴミ同然のものまで。多種多様、様々なものが。



その日は、何故かベランダの傍で寝ていた。
月見酒をしていたのだ。少し寒い風に当たりたくて窓は開けっぱなしのまま、ベランダには出ずに窓のこっち側で。ふ、と起きたら霞んだ視界に肌色が見えた。私の肌色かと思ったが、違う。違う。では誰の?しかし酔った頭は回らず揺れるだけ。使えない脳みそに若干苛立ちを覚えたがそんなことも視界と同じく霞んでしまった。なんだか気持ち良い。まぁ、いいや。

「だぁれ?もしかしてプレゼントの贈り主さん?」

私はたぶん微笑んでいたと思う。声が妙に高かった。すると問われた相手は私の髪に触れて指を絡めた。そんなに近かったのか、相手との距離は。ほんの少し驚いて肩が揺れた。けれど悪い気はしない。なんでだか。私に危機感はないのだろうか。私はこの702号室に一人暮らしの高校生だ。両親は共働きの単身赴任。仲は悪くはないが仕事人間。そんな間の私は大分冷めた人間に成ったと思う。そんなことゆるりと考えていたら今度は頬を撫でられた。あぁ、冷たくて気持ち良い掌だ。私は薄く開いていた眼をもう閉じて、泣いた。なんで私は泣いているのだろう泣きたくなんかないのに。泣きたくなんかないのに泣きたくなんかないのに泣きたくなんかないのになんでなんで泣いているのだろう。泣きたくなんかないのです泣きたくなんかないの泣きたくなんか泣きたくなんか泣きたくなんか泣きたくなんか泣きたくなんかなんかなんかなんかなんか泣きたくないのになんで?私は静かにでもとめどなく涙は流れた。なんて、あぁなんてやさしいてのひら。冷たいのに、やさしい。心がとても落ち着いていくのを霞の消えた頭で感じた。


「有難う、怪盗さ、ん。」









時期外れサンタクロース。


(とんでもないよ、こちらこそ。)



終。
(08.1.5)
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