「は、うかれちゃって、まぁ」

そう吐き捨てるように呟いて鼻でわらった。日頃の私なら考えられないような口ぶりに何故か前の授業が終わってすぐから目の前にいた先生が驚いたように云う。

「なァ名前、先生びっくりだよ。」
「……本当に驚いてますか先生」

抑揚のない声色だから本当は驚いてなんかないような気がしてならない。まぁ、どうでもいいんだけどね。今はこのなんか甘ったるい、匂いか雰囲気か知らないし知りたくもない、空気から逃げだしたい。でももう2分もしたら授業始まる。次はなんだっけ、国語か。(あ、だから先生こんな早く居るのか?)私は机の中にある国語の教科書とノートを探しだした。
すると先生が先ほどの私の返事の要らない質問に答えてくれようとしてるのかなんなのか口を開いた。

「そうそう俺びっくりだよ信じらんねーよ」
「……私ほんとうは冷めてるんで性格」
「いや知ってたよ先生は。お前大人びてるもんなァ」
「……ふーん、?(え、さっきの私の発言にびっくりしてたんじゃないの?いやいや私上手く隠してたつもりなんだけど、)(あれ、)」
「だからバレンタインとか、どうにもアレだろ?チョコレート会社の陰謀とかにしか感じられねーしそれに乗っちゃってカップルが出来んのがなんかこうアレだろ?腑に落ちねーんだろ?」
「……そうですね。(お見事、)」

なんか、なんでいろいろバレてるんだろ。この人はこんなに『わかる』人だったのか。(ここ先生のクラスじゃないのに、)なんも考えてないフリをして。……そうじゃなくても、ちゃんとクラスを見渡してるんだ。ほぅ、覚えておこう。しかしさっきの「びっくり」とか「信じらんねーよ」は何に対してなんですか。


「先生、さっきの「信じらんねーよ」は何に対してなんですか」
「あぁ、それ?それは、これ。」


先生の白衣のポケットから、赤い紙に包まれた掌サイズの長方形の箱が出てきて、そして私の机に置かれた。

…………なに、どういう、こと、?


「…………、」
「いや、オイオイ沈黙はないだろ」
「…………いや、あの、あ、誰かに渡して欲しいんでしたらどうぞご自分で、」
「いや違うから!俺そんな意気地無しじゃないから!……じゃなくてこれは、名前に。」
「!!」
「な?信じられねーだろ?」
「いやあの、あー……の、」
「……云っとくけど、お遊びじゃねェよ」
「……は、」


それは所謂、本気というやつですか。








さぁ遊びの時間は終わりだよ。



「オラァ、席付け今席座ってねー奴今日まるまる欠席にすんぞォ」
「何その理不尽な出欠確認!!」


教室の誰かがツッコミを入れても私は卓上の赤い紙に包まれた箱を見つめっぱなし。それから目を離して先生を見てみれば、彼は私を見て少しだけ、わらった。
((私は少し、ときめいた。))


終。
(08.2.23)
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