リプレイモードからの脱却

※公式学パロとは設定が異なる箇所満載です。
※捏造設定満載です。



 4限が終わったら、購買に走る人がいる。何をそんなに焦る必要があるのだろうと思っていたら、その答えはふたつ年下のコニーが教えてくれた。彼は浅く椅子に座ってダラーンという効果音が似合う格好で私を見上げる。

「幻のかにクリームコロッケパンがあるんだよ」
「……かに?」
「かに。先着5名様までの狭き門だとよ。だから幻。」
「へぇ、みんな頑張るね」
「俺はヤダね!あんな満員電車乗車率120パーセントをまるごと持ってきたような購買行きたくねー」
「前に行った事あるんだね」
「おう。でももう行かないな。俺にはソレがある」
「……あぁ。コレね」

 はい、とコニーの机の上にコトンと乗せたのは青い巾着に入ったお弁当箱。私は財布を脇に挟んで腕を組み、コニーを見下ろす。

「お弁当忘れといて、アゴで出せとは良いご身分だね」
「出せとは云ってねーし!てか母ちゃんに頼まれたんだろ。悪かったよ」
「別に。何度目だと思ってんの。それにあんたのお母様好きだから問題無し」
「そうかよ……」
「お母様に感謝だね。お弁当って、朝早いんだよ。作るの」
「どーせ昨日の残りもんだ。まぁでも、わざわざ食堂行かなくて良いのは、そうだな。……感謝だな」

 流し目して窓の外に視線を流すコニーに微笑んで、「じゃあね!残すなよー」と手を振った。コニーのそういう素直じゃないのに小さく素直になるところが可愛いと思っている。
 さて。私はお弁当が無いので食堂に“わざわざ”向かっている。でも嫌ではないのだ。食堂のカレーライスや親子丼は結構美味しいし、作り手であるおばさま達との会話も好き。だから3年の教室から食堂が遠いと言えども苦ではない。今回は、コニーの居た1年の教室から階段無しで渡り廊下を通って食堂へと向かう。何を食べようかな、と入口に立てかけてある日替わりメニューの黒板を確認したら「スタミナ丼」だった。これにしよう、と午後の口臭を無視して食欲に素直に従った。歯磨きと飴でどうにかなるでしょう。食堂に入り、注文口で「こんにちは。スタミナ丼ひとつ」と声をかけると「女の子でスタミナ丼頼んだの今日初めてよ」と笑われた。少しだけ自分の女子力ってやつに首をかしげて赤いプラスチックの番号札を受け取ってから食堂内を見回す。ピーク時を過ぎたのだろう、テーブルに座って食べてる人はいるけど注文に並んでるのは自分だけだった。影っていて人が少ない席を探していたら無かったので、少々陽は当たっているけど木洩れ陽程度の場所を見つけたので、パイプ椅子が滑らない床に少し苦戦しながらもそこに腰を下ろす。テーブルに財布を置いて一息ついて手を組んで、組んだ箇所にアゴを乗せたら食堂の入口にひとり男の子がキョロキョロしているのに気がついた。食堂初心者のようだ。見た事がない顔なので、おそらく後輩くんだろう。私1年生の頃、先輩が怖くて食堂来れなかったなぁ。なんて少し昔を思い出したところで、受取口から自分の番号を呼ばれたので「はぁーい」と大きめの声で返事をしたら、入口付近の男の子がコチラを向いた。目が、合った、気がする。うっかり目を合わせてしまった手前、何だかこのまま違う方を向いたら後輩くん萎縮するかな、と思った頃には微笑んでいた。ちゃんと笑顔作れてるかな。……絶対作れてない、と胸が痛くなったところで顔を受取口に向けて、席を離れる。私はこの現状から結局逃げたのだ。冷や汗を垂らしながらスタミナ丼を受け取り、プラスチックの番号札を返して先程の席に戻った。やっちまった感に苛まれつつ、兎に角減った腹を満たしたいので「いただきます」と両の掌をくっつけて、その親指の付け根に割り箸を挟んだ。そうしてから割り箸を割り、丼のいちばん上に横たわるツヤツヤとした玉葱を挟む。そのまま口に持って行き、ぱくり。もぐもぐ。気付いたらニンマリとしていた。それからはもう誰も止めてくれるなと云わんばかりの速さでスタミナ丼を食べ進める。だってお腹空いてたんだもん。ぱくもぐぱくもぐと大きな口を開けては食べを繰り返していると、目の前に男の子が立っていた。この時点で、視界には人の腰から下・そして向かいの席しか見えていない。だから男の子なのは一目瞭然なのだけど、まぁ、なんとなく先程の男の子がコチラに用があるのはわかっていた。彼が注文口で注文して注文した品を待っているあいだから、コチラをガン見されていたら気付かざるを得ないというか、彼の目ヂカラが強すぎる。彼の視線が矢印として立体化されていたとしたら、確実に私は刺さっていた。死んでる。私はもう死んでいる。……現実逃避してる場合じゃない。スタミナ丼の器と割り箸を持っている手をトレーに下ろして目線を上げたら、口を真一文字にして凄い目ヂカラでコチラを見下ろしている先程の男の子がいた。やっぱりね、と心で呟いてから口の中のスタミナ丼を咀嚼してから飲み込む。うっかりゴックンと音を鳴らしてしまった。

「……こんにちは。」
「こっ、コンニチハ!」

 この男の子は何でこんな全体的に力強いのか。気のせいかな。私今日疲れてるのかな。だんだん考えるのが面倒になって来ているけどその考えを振り切って、丼の器をトレーに置いてその手で前の席を示す。

「座ったら?」

 だってこの子、このままだとずっと立ちっぱなしな気がして。すれば「しっ、失礼します」とパイプ椅子をガタガタ云わせて着席しようとした。けど少年、此処は床がパイプ椅子と相性悪いんだよ。先にトレーをテーブルに置いた方が懸命だよ。云いたかったけど、彼が大慌て過ぎて声をかけても訊いて貰えなそうだったので、彼のトレーをサッと奪ってしまった。

「えっ」
「いーふぁふぁ、ふあっふぁふぁ?」
「……え、え?あの、」
「……おすわり!」
「はい!!!!」

 良いから、座ったら?と云ったつもりが、割り箸をくわえたまま云ったのが悪かった。勿論理解して貰える訳もなく戸惑わせた挙句、割り箸を口から外して出た言葉が「おすわり」で男の子は良い返事と共に着席を終えた。うっかり見届けた後見つめてしまい、目の前で緊張を露わにする彼にハッとした。持っていたトレーをそっと彼の前に置く。

「……御免ね、私、御免」
「いえ、すみません俺、緊張してて」
「いや、私、なんか混乱してて」
「いや、俺食堂初めてでよくわからなくて」
「うん。初めてって緊張するよね。食べなよ。お昼休みあっという間だよ」

 はい、と真剣に答えた彼は真面目なんだろう。真剣にフォークでハンバーグを一口サイズに切って真剣に食べ始めた。見ててコチラまで緊張して来る真剣さ。彼の何がそうさせているのか。私は残り半分程のスタミナ丼を何だか緊張しながら食べ始める。沈黙が走る。そこでハタと気付く。この子、誰だ。声をかけるのもはばかられそうな雰囲気だったけど、そっと口を開く。そこで気付いた事。彼の昼食はチーズハンバーグ定食だった。(もぐもぐしてる姿は可愛い。コニーを思い出す)

「……あの」
「ふぁい」
「あ、御免。食べてるの飲み込んでからで良いよ。君、名前は?」
「……エレンです。エレン・イェーガー」
「そっか。イェーガーくん。あの……何かご用?」

 物凄いハッとした彼の背景に落雷が見えた気がしてならない。この子早死にしないか心配になってきた。なんか感情で生きてる気がして……。途端あたふたして、急に止まって、フォークを置いて手を下ろす。多分、腿の上で拳握ってる。彼は目を伏せた。……何が起こると云うの。私も食の手を休めないといけない雰囲気に箸を器の上に揃えて置く。重々しく少年は口を開いた。

「……まず、名前伺って良いですか」
「……名前です」
「名前さん、あの、俺……」
「…………」

 そんな顔真っ赤にされるとなんとなく予想出来る事はいくつかあって。だけど流石に数分前に逢ったばかりだからいくつかのうちのひとつはどうなのだろうと思えて。違うだろう。それに違ってたら恥ずかしい。そういえばイェーガーくんの名前、コニーから訊いた事あった気がする。ということは、もしかしたら前に逢ってるのかな。ふ、と思ったらもう気になる事を訊いていた。

「前に、逢った事あった?」
「え、あ、あります!」
「あー……そうだったんだ。御免ね、記憶、無くて……」
「いえ!会話はしてないんです。ただちょっと、同じ空間に居ただけで……。その後も何度か、すれ違っただけです」
「何度かすれ違ってるのも覚えて無くて御免なさい」

 自分が失礼過ぎて背中が重たくなって来ると、イェーガーくんは笑った。「俺が覚えてるだけです」と云う。良い子だなぁ……と感動していると、食堂の入口がガラァッと颯爽と開く音がして目を遣った。そこには赤いマフラーを巻いた遠くから見てもわかる美少女が威厳いっぱいに立っている。顔の作りに対し神様に質問を投げかけそうになった時、その美少女がコチラを向いた。そのまま視線を固定してズンズンとコチラに歩み寄って来る。歪み無く。大きな歩幅で。歩み寄って来る。何故!?と私が身動き取れなくなって固まっているとそれを不思議に思ったイェーガーくんが「名前さん?」と声をかけた瞬間、美少女はイェーガーくんの背後まで来て歩みをピタリと止めた。……成る程。なんとなくわかった。これは、巻き込まれたくない。そう思って愛想笑いを顔に浮かべると、イェーガーくんは私の目線の先を見る為に振り返った。

「!!、ミカサ!何してんだよ!」
「エレン、何処かに行くなら一言云って。心配するでしょう」
「お前便所行ってたんだろ!俺は腹減ってたんだよ。それに何で行動する時お前に云わなきゃなんねーんだよ」
「イェーガーくん、女の子に対してトイレの事おっきな声で云っちゃあ駄目だよ」
「え、あ、すみません……」
「貴女、誰?」
「ミカサ!この人先輩だぞ!」
「……貴女、誰ですか?」

 あんまり変わってないよ、ミカサちゃん。と思いながら、名前を名乗れば「そう……私はミカサ。」と光無い目で見下ろされる。美少女に見下ろされるって圧巻だ。「ミカサちゃんかぁ。よろしくね」と云った後、私はスタミナ丼をかっこんだ。そして乱暴に咀嚼してゴックンと飲み込む。口の周りに付いているであろう醤油っ気のあるタレを舐め取り、スカートのポケットから携帯ティッシュを取り出して更に口元を拭いた。よし、もう行こう。すごく喉も渇いた。自販機で飲み物買おう。床と相性の悪いパイプ椅子を勢い良く引き立ち上がる。すればミカサちゃんと話していたイェーガーくんがコチラに向いて、見上げた。驚いているようだった。「あっ」と小さく声をあげたね。……御免ね。何か云おうとしていたものね。でもね、それ今云うと私、美少女に目で殺されそうなの。たぶんいくつか予想した中のどれを云っても危険なの。いや既に瀕死なの。あと何回かでアウトなの。だから私はこれを振り切らなきゃいけないの。椅子をテーブルにしまって、トレーを持つ。愛想笑いは顔に貼り付けたままだ。

「私、そろそろ行くね。次、移動教室なんだ、たぶん」
「あ、あの、名前さ、」
「ミカサちゃん。またね」
「…………また。」
「名前さん!!!!」

 びっくりした。食堂内に響いた声は食堂内全ての人間を振り向かせた。キッチンのおばさま達すら顔を覗かせている。イェーガーくんはゆっくり立ち上がり、コチラに歩み寄る。お互い立ったまま向き合うのは、私の記憶では初めてで、目の前に来られると見上げる高さだった。そして、やっぱり目ヂカラが強い。目に目が行ってしまう。前髪が真ん中らへんでわけられているとか、瞳の色が向日葵の色だとか、注意しないと忘れてしまいそう。そこで私は責任転嫁する。私が彼を忘れていたのは、この目ヂカラのせいであると。だから、また忘れるのだ。イェーガーくんの目ヂカラのせいで。でなきゃ、こんな公開処刑まがい、恥ずかしくてこれから学校で生きていけないのだ。

「ずっと!!話したかったです!!俺……名前訊けたのも知って貰ったのも今日だけど、これから!!もっと!知って欲しい!!だから、あの、えっと、……つ、ッ付き合ってください!!!!」



 返せた言葉は「ちょっと、考えさせて……ください」という小さな小さな・本当に小さな言葉で、何故か握手をして、会釈をして、トレーをぎこちなく戻して、私は脱兎の如く走り去った。頭がパニックだったのだ。なんとなくわかっていたくせに、いざとなったらこれである。というかまさかこんな大声で云われるなんて思いもよらなかった。というかまさか本当に予想の範疇にあったいくつかの事柄の中のコレが現実になるなんて。だから、財布をテーブルの上に忘れて来た事は放課後になって気付いた。あの後、トイレで歯茎から血が出る程の力強さで歯を磨いても、午後の体育でバスケットボールが顔面に激突して鼻血を出しても思い出さなかったのは、イェーガーくんのせいで。イェーガーくんの目ヂカラの、せいで。……目ヂカラ、ではない。わかってる。それに、このままじゃ、私。彼の前髪も瞳の色も、あの事も。

「忘れてしまえるわけがない」

 財布を捜す為に職員室の落し物箱を捜しても財布なんて貴重品あるはず無く、先生に訊いても「届いてないけど、大丈夫!?」と心配され、とりあえず食堂に向かっている。廊下を歩いていると、もう噂は広まっていたのかヒソヒソ話が耳に入る。訊きたくなくてもきこえてくる。

「エレン・イェーガーに公開告白をされた女」
「ミカサ・アッカーマンに喧嘩を売った女」
「ミカサ・アッカーマンがいながらエレン・イェーガーに色目使った女」
「玉の輿狙ってる女」

 いちばんはじめのは間違ってない。にばんめも、百歩譲ってしぶしぶ頷こう。残りふたつのは何なんだ。色目って何。スタミナ丼食べてただけだよ。あと玉の輿って何。イェーガーくんの家なんなの。大富豪なの。どうでも良いわ、このやろう。大体、目の前にいるのにヒソヒソするなら体当たりして訊いて来いっつーの。なんなの。
 だんだん苛々して来て目が座って来た頃、食堂への渡り廊下に差し掛かった瞬間、急に目の前に人が現れた。通せんぼするように立ちふさがった人影にびっくりして肩が大袈裟に揺れる。見上げると、そこにはあの赤いマフラーが見えた。これは、私が喧嘩を売ったとされる、ミカサ・アッカーマンのものだ。

「……ミカサちゃん。」

 意味もなく名前を呼べば、会釈をされた。でも目には光は無い。正直思うのは、喧嘩を売られてるのはこっちの方で。でも、彼女からしたら、私から売ってるようなものかもしれない。何だかもう、面倒になって来ていた。小さくため息をついてしまい、後輩を目の前にして失礼な事をしてしまった、と思い返す。でも彼女は、萎縮したりしない。

「……あの、何かな。私、ひ、昼に財布忘れたみたいで。もう手遅れだと思うけど、食堂にね、捜しに、」
「食堂には、貴女の財布は無い。それに、食堂の鍵は……放課後は閉まっている。扉はもう開かない、明日の朝まで」
「そ、っか。でも、あのね、一応窓から中覗けるから、捜したくて、」
「窓から中を見ても無駄。貴女の財布は無い」
「なっ、何でわかるのさ。私の財布があそこに無いって。」

 あまりに確信を持って云うものだから、ムキになってそう返すと、彼女は鞄からひとつ、物を出した。それはよく、私が見る物で。というか、私の捜していた物で。

「私は……わかる。貴女の財布を持っているのは、私だから」

 彼女の手におさまっているのは、私の財布だった。驚いていると、スッとそれをコチラに差し出している。「え?」と素っ頓狂な声を零して目の前の美少女を見上げても、特に何も云わずに私の財布を差し出す体勢を変えることはなく。財布と彼女を何度か交互に見て、恐る恐るコチラも手を出して財布を掴んだ瞬間、彼女は財布を手離して私の手首を掴んだ。驚いて身を硬くした私をそのまま引き寄せ、顔を近付ける。目を大きく見開いた私の視界に、目に光を宿した美少女が映る。彼女の生きた声が、耳に届いて脳に響く。

「私は、エレンが大事。エレンは私の“家族”。それは、ずっと変わる事は無い。貴女がエレンをどう思っていても、それは変えない。……変わらない。」

 彼女の、手首を掴むチカラが強い。それは、言葉を紡ぐ度に強まる。彼女の気持ちの強さのようで、体現されているようで。

「私は、エレンを守る。エレンに危険が迫れば、私は立ち向かう。例えそれが、目上の人であっても……」
「…………」

 本当に身に危険を感じて、一歩足を引いたときだった。

「貴女は、私に喧嘩を売っていない。エレンに色目を使っていない。……それから、玉の輿を狙っていない。」
「、え?」
「それは、わかっている。」

 再び驚いた私の手首を離して、ミカサちゃんは少し目を伏せる。渡り廊下は外に面しているから風が吹けば吹き抜ける。風に彼女の黒髪が流されて遊ばれた。それすら絵になっていて。

「昼休みから、噂が立った。エレンは、怒ってる。貴女が、私に喧嘩を売って、エレンに色目を使って、玉の輿を狙ってる。そう……噂が立った事。笑ったジャンを、エレンは殴った。」
「ジャンって……誰……?というか、イェーガーくん人を殴ったの!?」
「私が止めた。大丈夫。」
「そっか……良かった……、の?」
「私は今日これから、噂を抹消していく。エレンも……そうすると思う。だから、安心して」

 安心して。そう云われて、安心するかと云われれば、しない。でも、目の前で、吹く風のせいで髪が弄ばれても手で押さえもせずにコチラを真っ直ぐ見つめる彼女を見れば、答えは自ずと決まっているのだ。私は引いていた足を元に戻して、ミカサちゃんのあちこち飛んでいる髪に手を伸ばし、撫で付ける。

「ありがとう。でも、大丈夫だよ。噂の抹消は、やらなくて良いの。なんか物騒だし」
「……でも、このままでは貴女は、噂の的のまま……」
「人の噂も七十五日。時期に忘れるよ、みんな。あ、でも、ミカサちゃん達も噂の的だ。君達が抹消を望んでいるなら、行動してね」

 私は少し微笑んだのかもしれない。ミカサちゃんの目の雰囲気が変わった。私は彼女の髪から手を離し、それから一歩・二歩と下がる。これは先程の恐怖からではない。だって私はもう愛想笑いではなく、ちゃんと自然に笑えていたのだ。

「財布、ありがとう!それから、……いろいろありがとう!」

 手を挙げて、そのまま振り返って来た道を走って行った。職員室に寄って、先程の先生に財布が見つかった事を話す。それから教室に戻って鞄を持ち、学校を後にしようと校門を抜けようとした。後ろから「おい!」と声をかけられる。振り返ると、コニーが慌てた様子で駆け寄って来る。

「名前、なんであんな噂立ってんだ!否定しとけよ!てかエレンに告られたってマジ??」
「あんたのそういうところ嫌いじゃないなぁ」

 コニーの頭を撫でたら「うわ!なんだよやめろよ!」と喚いて手をはたかれた。笑って「じゃあまた明日」と云えば「エレンの公開なんとかは本当なのかよー!!」と彼は余計に噂を広めるような事をしている。もし抹消を実行するとしたら、イェーガーくんとミカサちゃんに何かしら制裁を加えられるかな。まぁ、いっか。
 イェーガーくんのあの件は、おそらく前向きに考えるけれど、もう少し冷静になってからゆっくり考えたい。だからもう少し、待っててくださいね。



リプレイモードからの脱却
(2013.8.18)
title:haihai
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