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※パロディ?
別段“固執”だとか“執着”だとか、そういう女々しい感情を持ったことは生まれてこの方一切ない。幼い頃、河原で拾った宝物の表面がつるりとした丸い石を無くした時も、所謂お気に入りになっていた不思議な形の木の枝が折れた時も、母親から一生で一度の贈り物を貰ってはしゃいでその後本人にそれを壊された時も、別段哀しいとは思わなかった。嘘をつくなよ、と云われたとしても、否定はしない。俺は、生まれてこの方嘘つきなものでね。
だからと云っては何ですが、この職業に就いた時は天職だと心から思った。仕事を貰う時は信頼性が必要だけど、それは仕事自体の達成率の結果論から来るものが殆どだ。俺に固定の客は無い。取らない、というより無い。でも収入は悪くない。自分で云うのも何だが、俺の腕は悪くないから。噂もあるのだろう。
「鉢屋三郎は腕は確かだがほら吹きである」
「一度限りの仕事関係が最良」
だいたいそんなところだろう。構わない。仕事に支障が生まれないなら何だって結構だ。
来週は満月という日のことだった。急な仕事が入ったのは。
立ち食い蕎麦屋の端の席で、背中を丸めて温かい蕎麦をすすっている時、背後に妙な気配をまとった男が客として現れた。口に含んだ蕎麦と葱を咀嚼しながら、気づかれないように少しだけ振り返る。
「(……同業者かよ)」
箸を持っている手を見てわかる。あとはこの空気。隠す気ねーのかよ。本当に同業者かよ。もしくは、
「……依頼がねぇ、あるんだよ狐くん」
あぁ、やっぱりそうですよね。
笠を目深に被った男は、今の今まで使っていた箸でくすんだ小銭大に折り畳まれた紙切れをはさんでこちらに寄越した。蕎麦の汁がくすんだ紙切れをさらにくすませる。紙切れの中央には走り書きの文字。コイツは読ませる気がないのか。箸渡しが何となく嫌だったので仕方無しに左手でそれを受け取る。ああ、やっぱり文字が滲んでやがる。
「ある城のお嬢さんをね、……頼みたいのだよ狐くん」
男が云った言葉と、紙切れの内容はほぼ一致した。紙切れの内容はこう。
『城の姫を始末せよ』
ハッ、と鼻で笑った。そのまま再び紙切れを折り畳む。今度は小さく小さく。限界まで折り畳んで、隣で夢中蕎麦をすすってる見知らぬ男の湯呑みにそれを放った。静かにそれは入水。いや、入茶?
「いつが良いんですか。」
「おや、引き受けてくれるのかい狐くん」
「引き受けるも何も、それがお望みなんでしょ」
「話が早いな狐くん。それがねぇ、来週の今日が良いんだよ」
「構いませんよ。来週の今日っすね」
「流石だね、狐くん」
「……その『狐くん』ってのは……」
あまりに連呼するから気になって訊いてみれば、何でもない答えが返ってきた。ニヤリと笑った依頼主は少しだけこちらを向いた。
「君の通り名だよ。ほら吹き狐の鉢屋くん」
あ、そうすか。そう云ったのと、隣の見知らぬ男が湯呑みの茶を一気飲みしたのは一緒だった。
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(2011.12.16現在)