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※まさかの匪口さん高校生。
高校生パロディ?
放課後のことでありました。
「ねえ、ゆーちゃん」
「…………」
「ねーえ、ゆーちゃーん」
「…………」
「ひぐっちゃーん、ゆーちゃ、」
「ああああああうるっさい!るっさい!ていうかやめてよ本当その呼び方怒るよいい加減」
「だってこっち見ないからー」
ガッタン、と椅子を倒す勢いで立ち上がった匪口結也は心底うんざりした。立ち上がったことにより倒した椅子をこのあと起こし直さなければいけないことも、目の前の女子が制服のブラウスのボタンを3つも開けて、尚且つ自分の机に両手をついて前屈み体勢なことも。はあ、ため息が口から零れた。右手で頭をガーッと掻く。
「あ、なに。なに苛々してんの」
「……してない。」
「なんだよー反抗期かよー。あ、わかった。ゆーちゃん私のおっぱい見たな。だからだ」
「…………見てない。」
「正直に云ってみ?」
「じゃあ見た。もうどっか行って」
ガッタン。匪口はしゃがんで、けだるそうに自らが倒した椅子を起こす。その時握った椅子の脚は少し錆び付いていて、掌には剥がれた鉄錆の欠片がパラパラと付いていた。払ったら鉄っぽい匂いが鼻についた。少し眉間にシワが寄る。立ち上がると、まだ机に手をついた女子は同じ格好でその場に居た。表情は真顔。それを見ながら、匪口は再び起こしたばかりの椅子に腰掛ける。制服の尻のポケットに入れっぱなしの財布が悲鳴をあげた。
「……なに。何か用あるの」
「…………用、っていうか、」
「あと俺あんたの胸なんか見ても何も感じないから」
「へえ、ゆーちゃんの場合は人間の女の人自体興味あるの?」
「……何云ってんのさ」
「ゆーちゃんはPCがコイビトなんしょ」
「…………」
匪口は、目の前の彼女の言葉に思わず口を閉じた。事実だからではない。「なんでそうなったんだ」と疑問が脳内に湧いたからである。匪口の表情は渋くなった。
「なにそれ、何処情報?」
「私情報。ここ2週間のゆーちゃんを観察してみ、」
「あっそ。信憑性は0に等しいね」
「本当?ちょっと本当にそうなんじゃないかって思ってた。心配しちゃっ、」
「あーそう。別にそう思ってても良いよ。じゃあ俺忙しいから。」
帰ってくれても構わないんだけど。と眼で訴えたら、先程からずっと同じ体勢だった彼女は、ゆっくりと身を起こす。カーディガンとブラウスの間から見えていた柔らかそうな谷間は見えなくなる。かわりに先程からずっと真顔の彼女の表情が少し揺れた。柔らかそうな肌色から、暗めの影色になる。
匪口は栞を挟んでいた文庫本を手に取る。彼女の表情は見ていない、と文庫本を開いてパラパラとページを繰る。栞がカタンと小さな小さな音を立てて机に滑り落ちて着地した。そのまままだパラパラと本はページを進み続けて、最後には背表紙。中途半端に挟まったままの栞は、持ち主の掌に表紙を下にして横になったことで本の下から少し飛び出てしまっていた。格好悪い。栞に意思があったなら、そう思っていたかもしれない。
「……ねえ」
匪口は前を見ない。視界は、夕陽色した机と同じ色の本の背表紙と、自分の男にしては白い手。
「……なに」
その視界に細い肌色と、灰色が追加される。視線はそちらに移って、そのまま肌色から灰色、灰色を辿って白、肌色。だけどもう例の柔らかそうなものは見えなかった。彼女は指先を机に付けただけで、前屈みにはなっていなかったから。
匪口はふい、と一気に視線を上げて、彼女の顔を見た。相変わらずの真顔、ではなく柔らかそうな表情。影色ではなく肌色。多分、微笑。
彼は瞬間、顎を震わせた。
「匪口くんはなんで関わらないの。なんでひとりで居るの。周りはもっとずっとねぇ、匪口くんが思っているより面白い。別に女の子のおっぱいやおしりを見たって悪くない。むかつく先生について愚痴ったって大丈夫。それを共有したら楽しい。誰でも良いよ。例えば、」
微笑から進んだ表情をした彼女の顔は、肌色から夕陽色になった。
「私、とか。」
云って、前屈みになった彼女に匪口はぽかんとしてから、ふっと吹き出し笑って、格好悪い状態だった本の栞を抜き取って、彼女の胸の谷間に差し込んだ。
そのまま彼は、つり目がちの丸い眼を細めて云った。
「じゃあまず、俺ちゃんと人間の女の子好きだから。変な噂立てないでよね、苗字」
だるまさんがころんだ。
(はじめのいーっぽ!)
終。
(2011.1.10)
箸が転がっても面白い時期に、高校生・匪口くんが友達?をつくったお話。いや、友達のぱいおつの谷間に栞差し込まないので「友達?」。
書いてる途中に沖田さんに変えようか迷いました。匪口さん、興味ない女の子のぱいおつどうでもよさそう。ていうかあっちの嗜好は、ぱいおつより……また別の何かぽい気がしますが、まぁいいや。