■まこはる日和:手袋

ガタンゴトンガタン…
俺たちは電車に揺られていた。


今日は久しぶりにハルと二人で街へ出かけることになった。
つまりこれはデート…って思ってる。

朝から電車に乗って市内へ出かけた。
きんと冷えた空気が心地よかった。

街で洋服屋さんを見て回ってから、雑貨を見たり、本屋も行った。

お昼はモスに行った。
ハルが期間限定メニューのサバ味噌バーガーを食べてみたいって言って。
こんなところまできても、いつもと同じように鯖って言ってるハル…
こーゆうとこ、ハルらしなって思った。

そんなこんなしながら、楽しい時間はあっという間に過ぎていって、
そして、今家に帰るべく俺たちは電車に揺られている。
中途半端な時間だったからか電車は人もまばらでガラガラで、
先頭車両いるのはハルと俺の2人だけだった。

一番端の座席に肩を並べて座る。

ハルが隣にいる。
ただそれだけ。
何でもない、この時間が大切に思える。

と、窓の外に白いものがちらつくのが見えた。


「ハル見てみて」

「ん…?」

「ほら、外すごい雪になってる」

「ほんとだ…」

「また降ってきたね…」

雪が珍しいわけではない。
俺たちの住む岩鳶町は海が近くて、案外と雪が降るし積もったりもするから。

窓の外を見つめた。
二人ただ無言で…
夕暮れ近い光の中、雪がキラキラと舞う中、電車は駆け抜ける。

途端に車内が冷えてきた様に感じて、ゾクッと身震いをする。
車両は暖房が入っているはずだったけど、雪が降る程冷えてくると、
そんなものはほとんど役に立たなくなるものだ。

隣に座るハルを見る。
熱さにも寒さに強いはずのハルもさすがに寒いと感じているのか、
体を少しだけきゅっと縮こませている様に見えた。

「ハル…寒いよね…?」

「…寒いのはお前だろ?」

「…はは。あたり。
俺はハルと違って熱さにも寒さにも弱いから…ね」

そう言いながら首元にぐるぐる巻きにしていた赤いマフラーを口元まで持ち上げて、
ハルに体を寄せる様に座りなおした。

「…お前、近づきすぎだって…」

「だって寒いんだもん。
他に誰もいないんだし…いいでしょ?」

「…よくない…ばか…」

ハルは俺を上目使いにぎっと睨んで言ってから、ふいっと前を向いてしまった…
そんなハルの表情さえかわいいと思ってしまって、頬が緩む。

ーちょっとぐらい…いいよね…?−

ハルの膝に置いてあった右手にそっと触れた。
その手は凍える様に冷たくひんやりとしていた。

「ハル…手…冷たいよ…?」

「お前があったかすぎるんだろ…」

「え〜…そうかな…?」

「…そうだ…」

相変わらずハルは目線を合わさず、そっぽを向いたままだった。

「あ!思い出した!」

「?」

俺の言葉に反応して
ハルがやっとこちらを向いてくれる。

「ちょっと待ってね…」

そう言いながら着ていたモッズコートのポケットをゴソゴソと探った。

「はい。これ手袋。」

取り出したのは茶色の皮の手袋。
目の前に差し出すと、ハルは目を丸くしてこう言った。

「…俺はいいから…。
真琴…お前がしとけよ…寒いんだろ?」

ハルってなんだかんだ言っててもやさしい…そう思いながらも言葉を返す。

「まぁそうなんだけど…。でも俺、ハルに着けてほしいんだよ。
ハルの手が寒そうでかわいそう…って思ったから…」

「…でも…」

「んー…と、じゃぁこうしよう!
手袋半分こにしようよ。アイス分けるみたいにさ。1つづつ使おうよ?」

「…う…ん…」

「ね?いい考えでしょ??」

俺は有無言わせずハルに手袋の片方を渡した。

ハルはちらっと俺を見てから、何も言わずに手袋を受け取って、
もそもそと手袋に左手を滑り込ませた。
俺も右手に手袋を着けた。

「…うん。確かにあったかいな…」

ハルが左手を見つめながらぼそっと言った。
俺はそれが嬉しくて、ふっと笑った。
けれどまだもう片方の、手袋のない手は相変わらず冷ややかな外気にさらされたままだ。


「…ね、ハル…右手出して」

「ん?」

おずおずと差し出されたハルの右手の上に、俺の左手を重ねた。
指と指を絡ませてぎゅっと握る。
それから、着ているモッズコートのポケットに、手を握ったまま押し込んだ。

ポケットは二人分の手がなんとか入るぐらいで、
狭くてぎゅうぎゅうだった。

怒られるかなと思って覚悟していたけど、
ハルはちょっと驚いた顔をしてこちらを一度見つめただけで、手を振りほどかれることはなかった。
何事もなかったかのようにハルは遠い眼差しで、向かい側の窓の外に目をやった。

重ねた右手は最初は氷の様に冷たかったけど、
次第に俺の体温とまじりあって暖かくなっていくのを感じていた。
ちらっと見たハルの横顔が、少しだけ赤くなっている様に見えた。


ガタンゴトンガタン…

もうすぐ岩鳶駅に着いてしまう。

ずっとハルとこうしていたい。
この手を離すのが名残惜しくて…

そう思いながら、ハルの感触を確かめる様に、
重ねた手をぎゅうぎゅうと何度も握った。


これからも、ずっと、
ハルの隣にいるのが俺だったらいいな。

来年も、再来年も、
これから毎年訪れるだろう冬の寒い日に
いつだって君の隣にいれるといいな。


そう願っていた。


ー次は岩鳶駅ー
車内アナウンスがそう告げた。


俺たちは電車に揺られる。
ガタンゴトンガタン…




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モスのサバ味噌ライスバーガー
予想以上にサバ味噌定食っ!!!
こんなの(←クリックで画像ジャンプ☆)
うまうまもぐ…
(回し者ではありません)







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