■おわりとはじまりの物語A
このままじゃいけない。
このままじゃいられない。
だから俺は凛に会う。
ーリン…今から会えないか…?ー
携帯電話越しに凛にそう告げた。
顔は見えなくても声から凛の驚く様子が伝わってきた。凛は呟く様な声で言った。
ー…俺も…ー
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小高い山の山頂付近にある展望台で待ち合わせをした。遠くで風力発電のプロペラが回るのが見える。
「リン…」
凛の赤い髪が風になびく。
展望台にある街灯の薄暗い光が凛の整った顔をほのかに照らす。
目の前に会いたくて焦がれていた凛がいる。
言葉はいらなかった。
どちらからともなくお互いに腕を差し出して手を重ね、指先をぎゅっと絡めた。
凛の瞳を見つめる。
冷たそうに見えて、本当は誰よりも情熱を秘めていて、裏腹にやさしく、本当は誰よりも寂しがりやで泣き虫な 、ウサギと同じ赤色の瞳。
体を寄せ合って、それから唇を重ねた。
ーリンとのキスー
…初めてではなかった。
小学校時代、凛がいきなりキスをしてきたことがあったっけ。
その時は、ふざけるなと怒っていたけど。
「リン……会いたかった……」
「…俺も…俺も……ハル…」
凛が俺の名前を呼ぶ。
ただそれだけのことが、俺の鼓動を早くしていく。
「ハル…ハル……っ」
凛は何度も俺の名前を呼んだ。
凛の瞳から涙が溢れるのが見える。
「…ハルが…好きだ……!
ずっと…小学生のときから…
ずっと…」
…泣こうなんてこれっぽちも思ってないのに、勝手に涙が溢れて止まらない。
凛の存在を確かめるように、がっしりと筋肉のついた広い背中に腕を回して強く抱きしめる。凛も応じる様に 、息苦しくなるほど俺を強く抱きしめてくれた…。
触れ合った全ての部分から凛を感じて、気が遠くなりそうだ。
「リン…好きだ…」
そう告げて、涙で視界がぼやける瞳で凛を見つめる。
凛のスラリと長い指が俺の頬に触れて、流れる涙を拭ってから、ゆっくりと包む。
凛の唇がそっと降ってくる。
凛の薄い弾力のある唇についばむ様に吸われ、薄く開けた口から暖かく柔らかな舌が入ってくる。
「…んっ…ん」
凛をもっと感じたくて、唇を深く重ねた。
「…っ…ん っ…は…ん」
息継ぎの合間に漏れる吐息が熱い。凛を感じて胸が高鳴って胸が痛い。
…今唇を重ねているのは凛…
…あれだけ恋焦がれていた凛…
どれ位唇を重ねていただろう。
舌先で凛の鮫歯をなぞってから、そっと唇を離した。
ーギザギザ…だな…ー
ふっと笑いが込み上げてきた。
「ハル…何笑ってんだよ…」
「…歯が…ギザギザなんだよ、お前」
凛はちょっとムッとした様子で言った。
「…仕方ないだろ。オーストラリアに行ってから成長するにつれてこーなっちまったんだから…。たぶん……食生活の違いだ…」
「別に…。
ただリンだな…って思ってただけだ…」
どんな些細なことからでも、凛を感じれることが嬉しかった。
ー俺は凛に恋してるー
凛をもう一度見つめる。
わずかに風になびく凛の長めの髪に手をやって、頭を撫でた。
凛の柔らかい髪が指先に絡みつく。
こうやってただやさしく触れたいって…ずっと思ってた。
「…ハル…」
凛が顔を赤らめるのがわかって、こっちまで恥ずかしくなった。
凛のこういう一面が…
たまらなくかわいいと思った。
俺たちはもう一度キスをした。
夜風が服の合間をすり抜けて、俺はブルっと震えた。
ふと、真琴のことが頭に浮かんだ。
…真琴…
こうやって凛の隣で他の誰か ー真琴ー のことを考えることが罪だと、今ならはっきりわかる。
こんな風に、長い間真琴を傷付けていた自分…
同じことを凛に繰り返したくない。
けれど、今はまだ俺の中から消すことも忘れることもできない…
「リン…ごめん…」
小さく呟いた俺を、凛は抱き寄せた。
「…わかってるから…
今は…それでいいから…」
見透かされてた俺の心…
「…リン…ありがとう…」
「おわり」と「はじまり」はいつだって隣り合わせだ。
正しいか間違いかは今はまだわからない。
けど、これが終わりじゃなくて始まりだと思いたいし信じたい。
我儘で傲慢な考えだってわかってるけど…
どうか…
どうかこの時が始まりでありますように…
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おわり(一旦)
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