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「#幼馴染」のBL小説を読む
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花とか豆とか夏のこと。




「若いって素晴らしいっすよねー……」

耳から入って頭をガンガン揺さぶるような奇声にまみれ損ねたおれのつぶやきは、無事桜介さんに届いたらしい。

石のかまどに炭をぶち込んでいた桜介さんは、おれを見上げて爽やかに汗をぬぐった。鼻の下の汗をそんなに格好良く拭える人間を、残念ながらおれは知らない。
ティーシャツの袖を肩までまくり上げ、頭にタオルを巻いているその様は完全に的屋のにーちゃんだ。

「お前も十分若いだろーがー。俺も別に年寄だって思ってるわけじゃねーけどさぁ、流石に真夏真っ盛りに肉体労働ばりばりは体力の限界感じるわ。つか腰痛い」
「さっき思いっきりガキ連中にぶら下がられてたからじゃないっすかね……桜介さん毎年こんな苦行体験してんすか……」
「まーなー。うちのおやっさんが町内会の頼れるおっさんな立ち位置だから、こういう子供会の体力行事って大概俺に回ってくんのよ。祭りとか。運動会とか。普段はそれでもパパさんママさんの有志ががんばってくれんだけど、流石に夏休みの一泊キャンプはさー平日大人は休めないじゃん?」
「はぁ……まあ、そっすね……月曜っすもんね……」

照りつける日差しは眩しく、見上げた空はあほみたいに青い。晴天で何よりだが、普段ろくに外に出ない引きこもり人種にはなかなか辛い眩しさだ。
そこまで暑くはないけれど体感というか、視覚効果で溶けそうだと思ってしまう。ただでさえ悪い目つきが余計悪くなるような眩しさで、心なしか朝からおれの周りだけ人が寄り付かない、ような、気さえする。

まあ、冷静に考えたら町内会のキャンプに知らんピンクの長髪ヤンキーめいた男が混じっていたら、そら引くって話だ。ガキたちはわりとちらちらこっちに視線を送ってくるが、傍にいる母親連中が微妙に警戒している気配がする。
いやべつに、いいんだけどさ。おれの仕事は戯れることじゃないし、料理の手伝いでもないし、単に彼らの思い出をカメラに収めることだから。

「ごめんなぁ亮悟ー。有賀さんとこ忙しいのにさ」

もう火はついたのか、暫くかまどと格闘していた桜介さんは、よっこいしょーと年寄みたいな掛け声を洩らしながら立ち上がって腰を叩く。

「あ、いや別におれ個人は暇なんでいいっす。手伝ってんのは会計ってーか帳簿関係なんで、忙しいのは月末月初だし。つかやっぱ社長来ないんすね」
「あー……終わったらいけるかも、とか言ってたけどどうかなーくんのかなー有賀さん。あの人今何でテンパってんの? また無茶な仕事ぶち込んだの?」
「いや。外注してた部分がちょっとうまいこといかなくて。つか、あちらさんの担当さんがお盆の帰省ラッシュ中に事故ったとかで。まーそれはしゃーないんですけどこっちも仕事なんで椎葉さんと社長が慌てて色々やってる最中ですね。ちなみに雪ちゃん先輩は盆前進行結局終わらせられずに泣きながら盆中も仕事してたらしいので、今は強制休暇なうだそうっす」
「……ゆきみちゃん……」

桜介さんの憐れみの視線の先には、女児たちに囲まれながら人参の皮をむく雪ちゃん先輩がいる。
毎年恒例の田舎のキャンプ場への宿泊行事だそうだが、今年は特に大人の参加が少なく、もう誰でもいいから人手要因で若者連れてこい、と桜介さんは無茶ぶりされたらしい。昨今子供に対する犯罪が取り沙汰されている中、そんなふんわりした感じで大丈夫なのかと思わなくもないが、まあ、桜介さんが信頼されている証なのだろう。

その桜介さんから声がかかったということは、おれもそれなりに信頼されている筈であって、その認識はたぶん自意識過剰じゃないからちょっと嬉しいような痒いような気分になる。
キャンプだなんて面倒くさい。このくそ暑い最中外に行くとかアホか自虐趣味の馬鹿のやる事だ。と常日頃アウトドア特集を眺める度に遠い目をしていたおれが、カメラマン要員でアウトドアイベントに参加したのは勿論、桜介さんの頼みだからだ。

まあ、たまにはこういうのもアリだ。
おれの友人たちはわりとインドアというか、一人でやる趣味ばっかりのやつらで、あえて集まってなんかしよーぜというタイプでもない。最近は暇ができればトキチカさんを優先してしまうし。遠出もしないものだから、結局ふと空いた時間につるむのは、このところ飯を食ったり飲んだりしている桜介さんやら社長やら、とにかくその辺の仲間内だ。

何繋がりかと言われたらたぶん仕事繋がりなんだろうけど。結局ただの仲のいい人間みたいになっているので、おれとしてはだいぶ楽しくて面白い人脈だった。

アウトドアな友人は面白い。桜介さんはかなり外向きな趣味の人で、社長とよく出かけているのを知っている。というか社長がそれにわりと楽しく付き合っているのもなんか面白い。あの人は多分人混みが苦手なだけで、外に出る事自体は嫌いじゃないのだろう。

今日も来たかったんじゃないかなーと思う。
子供は苦手そうだけど、社長はとにかく余すことなくすべての桜介さんが好きな桜介さん馬鹿だから、きっと今ここにいたら料理そっちのけできらきら汗をぬぐいながら竈に火を起こすかっこいい桜介さんを延々と微笑ましい目で眺めていそうだ。
あの人はほんと、顔がよくなかったらただのストーカーか変態だと思う。

遠くの雪ちゃん先輩をズームでぱしゃぱしゃ撮りながら(勿論後で近くで撮るけど)、おれが漏らしたどうでもいいそんな話に、桜介さんはうははと笑った。

「変態っちゃ変態だけど、つーかレンアイ中の大人なんてみんな変態だろー。事実は小説より奇なり、って感じじゃん。うわーそんな恥ずかしい事マジで言うの? 馬鹿じゃん? ってこともさー盛り上がってたらなんかこう、問題なく恋愛イベントとしてこなしちゃうんだよなー。恋愛といえばトキくんは結局バイト?」
「バイトっすねー今海の家で短期バイト中っすわ。なんでもコンビニのオーナーの伝手で頼み込まれたらしくて」
「……うわぁ。焼けそう。つか倒れそう。大丈夫なのかよそれ」
「今のところ体力的には生きてるそうです。売店の手伝いが主だそうなんで。ただ客が水着のリア充とウェイ系ばっかりで精神的に死にそうらしいんで明日の午後おれは海の家に行きます」
「あー……うん……そうだなそうした方がいいと思う……それで亮悟別の車で来たのか……」
「あーいや、それもありますけど、やっぱ車は多い方がいいかなと思って。体力要員としては不安な感じっすけど、運転っつーか物運びくらいはやりますし。そのくらいしかできねーけど」
「とんでもないとんでもない。写真撮ってくれんのほんとありがたいんだからさ。いつもは倉橋写真のおっさんに頼んでんだけどさー急に入院しちゃってさー。プロの写真家に撮ってもらえるなんてーって、奥さん方わりとばっちり化粧してきてんだよアレ。後でなんかそれっぽく撮ってやって」

……それで若干おれに余所余所しいのか。いや、普通にビビられてるだけかもしれないけど。

プロっていうかアマチュアだし人物写真は撮らないし、思い出写真を撮る技術っていうのはおれが普段学んでいるスタジオ撮影とはまた別だろうからぶっちゃけマジでカメラの機能を知っている素人くらいの気持ちなんだけど、それでも重宝してもらえるのはありがたいので、言い訳は飲み込んでファインダーを覗いた。

明るい。眩しい。夏だ、と思う。

今年の夏は雨が多くてどうも陰鬱だったけど、他県まで来てみればそれなりにさっぱりと晴れている。暑いのは嫌だがじめっと湿っているのも嫌だと思うから、人間ってやつは我儘だ。

「っしゃー竈おっけーだ。っはー疲れた。もう来年から簡易ガスコンロでいいじゃんって思うわ。火加減もつまみ一つで調節できんじゃん」
「それキャンプの意味あります?」
「あるある。そんなさー火の元なんてなんでもいいんだって。結局外で肉焼いたりカレー作ったりしたいだけなんだし、あとでキャンプファイヤーかなんか囲めばそれで大満足しちゃうし。つか火は出来たけど野菜切り終わってんの? 俺どっから手伝ったらいいの?」
「見るからにピーラーすら使い慣れてない雪ちゃん先輩の人参調理からじゃないっすかね。お母さん連中はジャガイモ剥きレクチャーに付きっ切りっぽ――」
「シナ〜シナ〜!」
「………………」

キャーキャーと、野菜と格闘しながら笑うお子さんの声に混じって、水場の方から声がした。したが、本能が聞かなかったふりをする。

「ねぇちょっとシナシナ、ちょ、まじでーまじでちょっとたーすーけーてーよー!」
「…………呼んでるぞ亮悟」
「聞こえていますが聞こえないふりをしたいです。桜介さん暫くおれに成りすましません?」
「いやーむりだろ俺の髪の毛ピンクじゃねーしそんなに背高くねーし。ほら行ってやれよー仲良しだろー」
「不本意なんでその見解は止めていただきたいです」

往生際悪くうだうだと桜介さんと論戦しようとしていたところ、間が悪いのかいいのか、テントを張っていた数少ないおっさん連中から『サクラちゃーん』と声がかかる。
爽やか頼れるメンズの桜介さんは相変わらず各所からえらい人気だ。爽やかな声を張り上げて、夏真っ盛りなにーちゃんはそっちに走って行ってしまう。くそ。人気者め。

仕方ないのでおれは現実を受け入れることにして、とりあえずはため息を吐いた。

あまりにも世界が眩しくて夏らしくてうっかりすっかり忘れていた。おれと同じくらいインドアで夏が似合わない奴が一人、女子に混じって米を研いでいた事を。

「……なんだよひじき。おまえ米研いでたんじゃないのかよ」

カメラ掲げながら仕方なく水場を覗く。
小学校高学年らしき女子たちと共に水場にしゃがみ込んだゆるふわヘアーのおしゃれ男は、そうなんだけどーと語尾を伸ばすからウザい。しかしお前ほんとキャンプ場にあわねーなおれに言われたかないだろうが。

「研いでたんだけどーねー? びっくりー半分流してしまいましたー」
「……いやびっくりなのはこっちだよなんだよおまえ不器用かよ。そういう不器用アピールはいま流行ってないだろドジっ子は二次元以外じゃ持て囃されない時代だろ……つか飯盒のまま研いでるからじゃねーのかそれ。ザルとボウル使えよ」
「っあ! なるほどー!! シナシナあったまいーい。いやおれもね? このジェリービーンズみたいな形が最高に洗いにくいなーそのせいでお米減っちゃったんじゃないかなーって思ってはいたのよー。そうかザルか。ザル余ってるかなー」
「あたし見てくる?」
「うん? え、いいの? じゃありっちゃんちょっと見てきてお願いするね。これもっかい計ろうかーマジで随分流しちゃったし。ゆかりん、もっかい計ろー」

キャンプ場と夏のそらが最高に似合わない癖に、唯川は何故かおれよりも格段に小学生たちに馴染んでいた。そういえばこいつは客商売でそれなりに人気の美容師だった、という忘れがちな事実を思い出す。おれも客商売ではあれど、相手は大概企業のモデルだ。一般人というか素人というか、普通にそこらへんにいる人たちを毎日毎日相手している唯川の方が、コミュニケーション能力的には確かに上だろう。

ただし仕事時の、という枕詞が付く。

いててて、とこれまた桜介さんばりのおっさんくさい台詞を口走りながら立った唯川は、女子たちから少々距離を取ると笑顔のまま若干遠い目をした。

「いやー……若さがばしばし心に刺さるわぁ……子供だと思って接してちゃ駄目ねぇすごいよねぇシナシナ、おれさっきから根掘り葉掘り恋愛遍歴訊かれまくっててちょっと自分で適当に話した設定端から忘れていきそう〜」
「あー……正直に話したらドン引きされるだろうしな……おまえ完全にやばい人だもんな親御さんにバレたら」
「ちょ、幼女趣味みたいに言わないでくれます? ちょっと健康的な黒髪が性癖なだけですーぅ」
「いや充分やべーよこっちくんな変態」
「いやだよ休憩させてよおれのオアシスシナシナくらいしかいないんだから。サクラさんはずっとアイドルだから近寄れないし。もうまじ早く有賀さん来てくれないとーきらきらしたお子さんたちに囲まれておれのライフがゼロになるー。ついでにちらちらわか奥様方が窺ってくるのが怖いー自意識過剰かもしれないけど怖いー王子様はやくこの場の視線を総ざらいしてぇ……」
「え。社長結局来んの?」
「え。……一時間前くらいになんか目途立ったから向かってるって連絡きてたけど、あれ既読したのおれだけ?」

携帯、と思ってやっと気が付いたんだけれど、おれの携帯はバッグの中だ。そういえばどうせトキチカさんは夜まで仕事だし、特に連絡をとる相手もいないので放置していたのだ。だいたいおれの携帯をうるさく鳴らすのはトキチカさんか唯川だからだ。

桜介さんはさっきからまじでアイドル状態で、携帯チェックしてる暇なんかないだろう。

「あー……じゃあ、桜介さんに言った方がいいのか、一応。つか一時間前ってもう着くんじゃね?」
「ていうか着いたんじゃないの。あれそうじゃない?」

唯川が指し示す先には、確かにスピードを緩める車がある。つか社長何で来るんだろうと思っていたんだけど、まさか自分で運転してきたのだろうか。免許持ってたのか?
あの人ならタクシーでキャンプ場に乗りつけても不思議じゃないとは思っていただけに、見慣れない普通車に眉を寄せてしまう。

「あれ。有賀さん後部座席から降りてきたんじゃない?」
「……運転手誰だよ」
「えー見えない……さすがに見えない……もっと近づいたらいいんじゃないですかねー出迎えいこうよ、出迎え」
「社長好きすぎかよ……」
「好きだよだってあの人いい人じゃない。おれ、わりと人間怖いし嫌いな方のど屑だけど、有賀さんも桜介さんもすげー好きよ?」

もちろんシナシナもねーと付け加えられなくても知ってるし、一々照れるような関係でもないので知ってるとだけ吐き捨てて、結局野次馬よろしくおれと唯川は社長の降りた車に近寄った。

いち早く駆け寄った桜介さんと、車から降りた社長が運転席に向かって頭を下げている。あんまりよくない目を一生懸命こらしてみたが、知っている顔ではなかった。

「いやいやイインデスヨーちょうど暇だったもので、ドライブがてらですからぁ。真夏の自然堪能してふらっと回って帰りますんで。あ、高速代は有賀さんからいただいておりますのでどうぞ本当に気にしないでください。あとその箱全部生のスイカなんでよかったらみなさんで消費してくださいボクスイカ苦手なんですよね、あとうちのシャッチョさんも食べないもので。いやー最近のお中元はすごいですねぇ段ボール開けたらスイカとか流石にボクも笑っちゃいました。世の中便利になったもんです。いらないものの押し付けですんで気にしないでください本当に食べないので。本当に」
「どうしよう、いや、そんなもらってばっかり……あの、時間があったら夕飯一緒に……えーと、子供たちが作ったものになっちゃうけど、サクラちゃんメニューってバーベキュー?」
「うんにゃ。カレー」
「わぁいいですねー! ボクカレー大好きです! 大好きですがほんっとお邪魔するのもアレですしほんっとたまたまボクが有賀さんの事務所に伺ったタイミングが良かっただけですんでほんっと気にしないでくださいでも夕飯のお誘いは嬉しいです今度ぜひともボクからもお誘いいたしますー。というわけでスイカ食べてください。ボク達はあれです、温泉でも入って帰りますからー」

漏れ聞こえる声はやたらと、なんというか、あー……ハイテンションというか。その割に声が高いわけでもなく、不思議な感じだった。
運転席には黒髪のちょっと大陸風な男が座り、助手席には今風というかちょっと俳優のような面差しの男性がちょこんと座っている。

でっかい箱を持った桜介さんが何度も会釈を返している間に、車はUターンしてたらたらと来た道を戻り始めた。
ゆるゆると手を振っている社長に歩み寄り、お疲れ様ですと声をかけると、これまた夏の青空があほみたいに似合わない金髪美男子は眉を下げてふわりと息を吐いた。

「あーうん、お疲れ様です。二人ともありがとうね、キャンプ手伝ってくれて。僕は去年も参加したけど、わりと大変でしょ」
「いやそれは全然……たまには外に出ないとおれのコミュ障っぷりが加速するだけなんで……つか車の人誰っすか」
「え。ああ。たまにうちの事務所来てるけど、あーそうか陣くんが来る時って、わりと午前中か……えーと、顧客っていうよりはただの知り合いなんだけど。たまたま、陣くんがスイカを事務所に届けてくれた時に、僕がここまでの経路を検索してたものだから……最初は駅まで乗っけましょうかって話だったんだけど、結局なんだかんだで車でいっちゃいましょうかってことになっちゃって……いや、お連れさんもいるしって断ったんだけど」
「はぁ。結局拉致されてきたってわけですね。スイカと共に」
「うん。スイカと共に遅れて参上しました」

スイカと共に参上した王子さまは、いやに少ない荷物を担ぎなおして力なく笑う。社長の人脈ってやつは本当に不思議で、けれどなんでか妙に愛されてるから面白い人だと思う。

「後で陣くんのとこにお返しに何か選ばないとなぁ……まあ、帰ってからでいいや。ところで夕飯、もう作っちゃった?」
「まだでーす。お米すらたけてませーん。なんなら研げてませーん」
「それはお前が半分流したからだろ……火は桜介さんが付けてくれましたけど、あとは野菜を雪ちゃん先輩が――」
「しゃちょう〜……! あー! しゃちょうが来てくれたぁ……! しゃちょうー!! にんじん……っ、にんじんが、なくなります……っ! たすけ……っ」
「あーはいはい。いきますいきます。あー、なんか……うん、たまには、こういうのもいいよねって、まあ、思うよ」

家の中ばっかりじゃ、夏って感じしないもんね、と笑う金髪王子は、インドア代表みたいな事をさらっと呟いて野菜を切りに行った。

「…………おら、おめーも米研げよ」
「えー……有賀さんが全部やってくれるんじゃないの? 料理王子様がすべて解決してくれんじゃないの?」
「甘えんなひじき。米くらい研げ。普段米も研がねーのかお前は」
「あー……最近はそういえば壱さんが研いでくれるなぁ……うっ……壱さん元気かな……」
「仕事中だろ。企業戦士には後で電話でもしとけよ。ところでお前明日暇?」
「え。何? 明日? 暇っちゃ暇だけど」
「海行こう」
「え、嫌」
「…………即答かよ……」
「だってあんなうぇーいな人たちが溢れる空間しんどいにきまってんじゃーん無理無理。オンナノコさんたちとかおしゃれなおにーさんたちとかと触れ合うのはさぁ、仕事だけで十分おなか一杯ヨーつかどうしたのシナシナ、急に海だなんて頭おかしくなった?」
「ちげーよ正気だようちの連れが海の家でバイトしてんだよこっからだと国道一本で出れるからちょっと顔見に行こうかなって思ったけど嫌ならおれ一人で行、」
「行きましょう」
「…………お前のそういうとこ嫌いじゃないわ」

うわーいシナシナの彼氏さんにあいたーい、と無駄にはしゃぐ男の頭を掴んで彼氏って言うなせめて恋人っていえお子さんたちにきかれたらどうすんだとと手のひらに力を込め、痛いからやめてと騒ぐ唯川をひっぱって桜介さんのスイカ運びを手伝う。

でっかいスイカが四つもある。……あのチャイナっぽいおにーさんは一体何をやってる人なんだ、と思ったが、あんまり関わっちゃいけない感じの雰囲気を感じ取ったので、首は突っ込まない事にした。

「おっも……スイカおっも」
「いやーでも、スイカ食うと夏だなって思うよなー」
「わかります。花火とスイカはマジ夏感すごい」
「あー花火もってきてっかなぁ。あとでおやっさんにきいとこ。持ってきてるきがするなー俺あれ、あのすげーばちばちするやつが好き。ポッキーみたいな感じの花火」
「あー。ありますね。でっけー線香花火みたいなやつ。わりと持つのが怖いやつ」
「おれはねー線香花火がすきー」
「おまえほんっとぶれねえなひじき……」

社長が消えた方から、雪ちゃん先輩の悲壮な声が聞こえ、おれ達は全員が微妙に笑ってスイカの箱を抱え上げた。


絵日記なんて文化、最高に嫌いだったけど、こんな夏を子供時代に過ごせていたら、多分この日の絵日記だけは最高に楽しく書くんだろうなんて妄想をした。



End