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「#幼馴染」のBL小説を読む
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各々零す想う色。




『シナくん今日暇?』

というLINEがバイト先のデザイン事務所社長から入ったのは、珍しく本職も休みでトキチカさんも仕事で、だらりと一人で映画チャンネル流していた夕刻の事だった。

年末とかクリスマスとか色々近くて世の中本当に忙しそうだ。
おれはと言えば本業のスタジオはそうでもないけど年末進行のデザイン事務所バイトの方がガチで鬼のような忙しさだった。

なんかこう、皆さんちゃんと休んでます? って不安になる感じだった。シイバさんとか消しゴムが無いって言って結局自分で握ってたし、ユキちゃん先輩は書類裏にメモ取っちゃって慌ててたし、社長はもうお察しだ。
そんな事務所の仕事もどうにか区切りが見え、『明日は各自絶対に仕事をせずに休むこと』と昨日の夜に事務所を封印し、今日は全員休みになっていた。

年末の休日だって言っても、一人暮らしの男がやることなんて特別ない。大掃除とか必要あんのかなって思うし、まー最近はトキチカさん来るからそれなりに奇麗めに保ってるし、正月休みに向けておせち作るわけでもないし。

つまるところとても暇だった。

暇ですけどどうかしましたかという旨を返信し、あれよあれよと予定が決まり、そしておれはトキチカさんが仕事上がる深夜までの間でよろしければ、ということで居酒屋に駆り出されていた。

「……どうも。なんか、面白い絵面っすね」

半個室のチェーン店に男三人って中々面白い。女子会かよって話だ。あんま、少人数の男が個室居酒屋に入る事ってないんじゃないかな。
しかもその顔ぶれがピンク髪のおれと、オレンジアシメヘアーと蛍光色の不思議な服着た唯川サンと、金髪イケメンの有賀社長っていう、もうなんか、大丈夫かなこの集まり絶対怪しい。

カラフルすぎるだろ。しかも社長はともかく先日紹介されたこの唯川サンっていうちょっと笑顔が怪しいオニーサンも中々のイケメンで本当になんかこう、非常に居心地が悪い。

近場の席のグループが座敷戸開く度にちらっちら伺ってくる気配がする。
わからんでもない。おれだってこの二人がバーとかに座ってたら『なんだよあの席ホモかアイドルかどっちだ』って思う。
すげー気まずい。ずげー気まずいけどやっぱり帰りますとも言い難く、それにおれ有賀社長かなり好きだしお呼び出しは正直嬉しかったし、素直に席に座って腹くくった。
何があっても人生経験だ。そう思う事にする。

掘り炬燵みたいな座敷席はテーブルも円形で、なんとなく均等な距離を保って座った。

「あー……うん、なんかこう、改めて集まって見るとすごくこう……カラフルだねぇキミたち」
「いや社長に言われたくないっす……自分だって十分カラフル要員っすよ。輝く金髪お忘れじゃないっすかね」
「え。僕はそうでもないでしょ。ほら、だって唯くんのコート見てごらんよ赤だよ? 垢って言うかワインレッド。マフラー紫だし。あとシナくんのマフラーそれ何色なの。それに比べたら僕の地味さったらないよ。ね?」
「顔が一番派手なの有賀さんですけどね〜トイレに行ったら女子に絡まれて帰って来れない確率ダントツですよー絶対に一人にならないでくださいよーこんなとこで有賀さんキズモノにしたら呼びだしたおれがサクラさんに殺されちゃう……」

この発言で、どうやらこのよくわかんないカラフル会は唯川サン主催の元召集されたということが分かった。
おれ、一回髪の毛切ってもらっただけなんだけど何なんだろう……。いや、確かにすげーイメージ通りのうっすいピンクにしてもらえて、それだけでかなりこの人の美容師的な腕は良いって思ってるけど、人間的には結構胡散臭いと思ってた。

悪い人じゃないってのはわかる。
でもなんかこう、あー、こういう言い方どうかって思うけどちょっとトキチカさんに近い感じがする。笑って誤魔化してるコミュ障っていうか。

とりあえずビール頼んで乾杯してそんな事をぽろりと洩らすと、右隣の有賀社長が珍しく苦笑した。あんま笑わない人なのに珍しい。

「シナくんって人間観察うまいよね。すごく、『あー』ってなるなぁ……唯くんって、確かに笑って誤魔化す系だよね。笑顔が武器」
「そうそう。おれの知り合いにも一人そういうのがいるんでめっちゃわかります。笑顔っていうか言葉でだらだらはぐらかす系っていうか喋って無いと死んじゃうみたいな人」
「え、悪口? いきなり悪口? みんな今日ホントは忙しかった? おれ今怒られてる?」
「いや別に、おれ唯川サンの笑顔嫌いじゃないんで悪口じゃないっすすげー暇でした。っていうかこれ何の会なんです? カラフル忘年会?」
「僕は別にそれでもいいけどね。最近本当仕事して帰って寝てまた仕事しての繰り返しだったし、いい加減息抜きしたいなって思ってたから。でも唯くんは何かお話があるんでしょ?」
「お話、というか、御相談? と、いうかー」

サワーを舐めていた唯川サンは、急に歯切れが悪くなる。
半目になって視線がふわふわと泳ぐ。

「あーあーあのーですねーもうねーばれてると思うんですけどおれほんっと友達がいなくてですねーもうこういうの訊けるの人生の先輩の有賀さんか若人倉科くんしか居ないと思ってーでーすねーていうかぶっちゃけるとコイバナというか」
「……なんだこれ女子会か。女子会で正解だったのか」
「えへ。倉科くん巻き込んじゃったメンゴ☆」
「いやかわいくねーっすからちょっとイラっとしましたマジで。イケメンじゃなかったらグーで殴ってました」
「有賀さん、倉科くんが辛辣なんですけど……っ!?」
「え、僕はシナくんの正直なところすごく好きだなって思ったけど」
「おれも社長好きっす」
「ちょっと待ってよ置いてか無いでよ何勝手にいちゃついてんの有賀さんサクラさんに言いつけますよ浮気だ浮気……!」
「サクラちゃんはこんなことで怒ったりしないよ。で、いっちゃんと何かあったの?」

さらりと流した社長は、女子のように頬杖をつく唯川さんに向かって首を傾げる。どうやらオレンジイケメンのお相手は『いっちゃん』と言うらしい。
ただ社長はこう見えて結構不思議なあだ名を量産する人なので、あんまり名前の印象があてにならない。
『しーばちゃん』と聞いた時に想像したふわふわした人相とかけ離れたしゃっきり眼鏡スーツ男子が現れた時にそれを実感した。

「ええと、夏前にお付き合い始めたんだっけ……? じゃあ半年くらいかな。喧嘩でもした?」
「してないですーちょう良好に毎日楽しいですー壱さん最近お仕事量減ったみたいで残業もあんまないし。まーおれが遅番多くなったんで結局夜はそんなに長々一緒に居れないんですけど、でも先日ついに布団を購入したんでーってそんな話はどうでもいいんですけどっ」
「うん? うん。いや別にのろけたいなら存分にしたらいいと思うけどね。僕は別に他人の恋人の話嫌いじゃないけど。愚痴を聞くより楽しいよ」

そんな事をさらりと言ってのける社長はやっぱり性格イケメンだ。おれが社長にほれなおしていると、唯川サンは『半年』と呟く。

「半年たったんですよねぇ……半年……あのー、すんごくアレな話で申し訳ないんですけどね? ……キスから先ってどういう流れで持って行くもんなんです?」
「…………」
「…………………」
「…………え、唯くんまさか童、」
「ちっがいます! 断じてちっがいますけど人間に恋したのは初めてなんですッ」
「にんげ、え? 二次元向きの人? え? おれに理解できる話っすかそれ?」
「違う違う三次元! いや三次元? ていうかあの、わかりやすく言うと人間に本当に興味無かったの……! でもほらそれなりにやっぱり性とかそういうもの自体には興味あったわけで、あと結構お付き合いしてくださいって言う子も居て、だからなんていうか好きになれるかなって思ってお付き合いしてその延長でそういう行為になることもあったわけででも自分から好きになった人とそういうことしたことないわけで……!」
「……社長、この人結構最低な事言ってません?」
「あー……いや、唯くんには唯くんの事情があって、まあ、うん、でもまあ、僕もあんまり褒められた交際履歴でもないし。シナくんは告白されて付き合って、ってこと、なかった?」

そう言われれば、確かに向こうから告白してきて付き合った女子とはあんまりうまいこといかなかった。それなりにかわいいなーとか情が沸くこともあったけど、結局仕事の方が楽しくておざなりになった。
突きつめて言葉にしたら、『お付き合いの延長線でなんとなくセックスもしたけど好きだったかって言われたらわかんない』って事になるのかもしれない。

「言われてみりゃおれもあんまり大きな声で正々堂々言えた交際履歴じゃないですわ。いやでも、いっちゃんさん? その人の事は好きでお付き合い始めたっていうニュアンスじゃないですか。お付き合い良好ならこう、するっと押し倒して、」
「だめ……あんな天使にそんな不埒なことできない……!」
「お、おう。なんか、いろいろ重症っすね……そんなにかわいいんですか?」

机に突っ伏した唯川サンはとりあえず放っておいて、ぐびぐびビールを飲んでおかわりしまくっている社長に問いかける。
どうやらその人を直接知っているらしい社長は、うーんと思い出すように首を傾げて、目を細めてふわりと笑った。

「かわいい、かな。素直で気持ちがいい子だよ。あとね、唯くんの事が好きなんだなーってわかるような……大和撫子的というか。すごくかわいい」
「へぇ……唯川サンの彼女さんなのに大和撫子……」
「ちょっと倉科くんどういうことなのおれの恋人がやまとなでしこだと何か御不満なの!?」
「いやにあわねーなって一回思ったんすけど想像したら案外しっくりきたし手を出しにくいっていうのもなんか納得しました。初々しいカップルでいいじゃないっすか」
「シナくんもかわいい彼女いるでしょ? たまににやにやしながら携帯みてるじゃない」

突然の社長からの攻撃に、思わず真顔で固まる。

「…………おれそんなにわかりやすい顔してました……?」
「え、自覚なかったの? すっごいにやけてるよ。あーあれ彼女だねってみんな微笑ましく見守っていたけど」
「……しにたい」

本当に無自覚だったおれは結構本気でしにたいと思って煙草持ったまま顔を覆った。
やだ、しにたい。はずかしい。つらい。でもだってトキチカさんのLINEめっちゃかわいいんだもんあんなん真顔で見ろって方が無理、だからおれ悪くないトキチカさんがかわいいのが悪い。
そんな社長だってサクラさんと思しき人と電話してる時すんげーデレっデレなくせにと思ったけど、それ言ってもしれっとした顔で『うん。だってサクラちゃんかわいいし、すごく好きだから』とか言われそうだったから口をつぐんだ。

ストレート系タラシは怖い。なんの気兼ねもなくさらっとのろけてくるから嫌だ。
もうこれ以上掘り下げられないように元の話に戻ろう! と思って唯川サンに向き合った。

「……ていうか、ほら、これからクリスマスじゃないっすか。なんか適当にデートしてその流れでどうにかなんないんすか。家だとそういう感じになんないんなら、ちょっと良いホテル取るとか……」
「若人のアドバイスがリアルでイヤだ……でもそれが一番ストレートっていうか近道だよねー……うーんホテルかぁ。壱さん嫌がんないかなぁ……つーかお二人ともぶっちゃけ今の恋人とのお初はどこぞでって聞いても怒らない? ねえ怒らない?」
「別に、怒らないけど」
「どこぞで」
「……ビジネスホテル」
「あー。おれグランドホテル」
「ホテル最強だな……!!」

なんか個人的には社長のビジネスホテルでの話すんげー興味あったけど、あんまり下世話な事言うのもアレかなって思って、ぐっと我慢した。

ビジネスホテルってあんま男女一緒に泊まらなくないかな……いやでも旅行とかだと泊まるか。サクラさん、聞く話だとバリバリキャリアウーマンっぽいし、旅館とか温泉とかよりビジネスホテルっていうのもなんとなくおれの中のイメージとは一致する。

いつか社長がぐでんぐでんに酔っぱらった機会があればぜひともそこんとこ詳しく伺いたいけど。この人が酒に酔うことなんかあんのかな。ビールはいつの間にか日本酒に変わってて、相変わらず水みたいに酒を飲むなーと呆れつつ、おれもワインを頼んだ。

唯川サンは最初のサワーをだらだら飲みつつ、ホテルホテルと唸っている。
まあ、真剣に恋人のこと考えて好いてるんだろうなってわかるから、くだらない話だなぁとは思いつつも悪い気はしない。おれだってトキチカさんがおれに恋してくれてなかったら、どうやって押し倒したらいいのかわかんなかったかもしれない。

恋ってやつは案外勢いで出来ている。

「うーん。別にキミたちがそのままでいいならゆっくりなんとなく近づいてけばいいと思うけど。唯くんはどうしてもしたいんだ?」
「……そこまで必死でもないんですけどねー……いやでも触りたいかなー。触りたいなーって思うけど、なんか、嫌だったらどうしようとか怖いとかそういう初歩的な感情がぶりかえしちゃって、ホント人間恋愛初心者しんどい……」
「悩むのも恋だよ、なんて言うのは簡単なんだけどねぇ。まー僕もたまに拒まれるとちょっとへこむかなぁ」
「え。サクラさん拒否ったりするんです!?」
「え、うん。たまに。眠いからヤダって言われる。僕も眠い時はヤダって言うけど。だからお互い様だね。お互い様だけど、その時はちょっと恥ずかしいような、しょんぼりしたような気分になっちゃうよねぇ。僕達はそんな感じだけど、まあ、世界の全カップルが同じ関係性なわけないし、唯くんは唯くんの距離感でいいんじゃないかなって思うけど」
「……バカップルがなんか奇麗にまとめてきやがった……おれこれのろけられた気分なんですけどどうよ倉科くん」
「大人の恋愛ってこええなって思いました」
「小並感……。ううう参考になったようなならないような……」
「もーいいじゃないっすか、クリスマスとか正月とかバレンタインとかあるんだからなんかそういう雰囲気になったらなったですよ! とりあえずゴム常備しときゃなんとかなる」
「リアル! 若者のアドバイス妙にリアルで嫌! 先駆者のアドバイスが少女漫画に見える!」
「ってわけで面倒な悩み事はさておき本気だして飲んでいいっすか? おれ、カノジョがバイト終わるまでマジで寂しいんで結構楽しんで社長を満喫したいです」
「待って待って唯川さんも居ますからね? 忘れないでね? キミの左側のオレンジの人忘れないでね? 一緒に飲もう? おれ酒強くないけど、ねえちょっと倉科くんっ」
「サクラさんっておいくつなんです?」
「んー……三十、ええと二歳になるのかな?」
「倉科くん無視しちゃ嫌……!」

そんなこんなで唯川サンを弄りつつ、有賀社長の私生活に迫りつつ、師走の夜は過ぎて行った。

結局よくわかんないけど女子会だったみたいだ。
おれは社長好きだし、別に唯川サンのことも嫌いじゃないから結構楽しくて、珍しくふわふわするくらいまで飲んで、そんで途中で休憩中のトキチカさんからメール来てちょっとだけからかわれた。

なんか、いろいろどうでもいい話ばっかりだったけど。
総括すると、恋は盲目、みたいな話に収まりそうなカラフル女子会(ただし参加者全員男子)だった。


End


お題:有賀唯川シナで嫁自慢。
嫁自慢っていうか迷惑な唯川の話。