12時サンタ。
クリスマスなんか爆発しろ。
って、毎年なんとなく言ってたけど実はそこまで恨んでなんかなくて、まー良い歳した鬱なゲイなんて世界に蔑まれてしかるべきだしそんなオレに爆発しろなんて言われたくなんてないよねっていうトンデモネガティブさんがひょっこり顔を出してしまうわけで結局は他人に構っていられるほど毎年健全な精神状態じゃないのよほっといて、というのが本音だったわけですけれど。
今年は結構本気で爆発しろって思ってた。
クリスマス爆発しろ。
クリスマスにバイト休む大学生諸君も、そいつと今頃ケーキ食ってエッチしてるであろう恋人諸君も、コンビニ予約のケーキとチキン受け取ってくカップルも、全部諸々含めて一気にひと思いに逝ってほしい。
すんげー鬱々とした顔してレジ打ってたら会社帰りっぽい眼鏡のキモメン(客)に『ひとり身は今日地獄っすよねーwww』って同情の声を掛けられた。
うるさいオレの恋人は今絶賛家で寝てるよばーかばーか!! って言い返せるわけもなく『ソウッスネ』と笑うだけだ。
オレだって休みたかった。
別に特別クリスマスに夢とかないけど、休めるものなら休みたかった。
そんで倉科クンと大してうまくもないチキンとか食べて、甘いだけのケーキとか食べて、そんなに度数の高くない安いシャンパンとか飲んで恋人っぽいことしたかった。
外にご飯食べに行きたいとか、そんな恐れ多いことは言わないけどさ。家の中くらいクリスマス理由にいちゃいちゃきゃっきゃしたっていいじゃない、って思ってたのに。
「…………あと、よじかん……」
本来は十時に上がり予定だったのに急に大学生バイトがドタキャンして、結局深夜番も兼ねる事となった。最悪だ。
正直腹痛を訴えて帰りたい。帰りたいけどオレが帰ったら昨日から寝てない雰囲気の店長一人置いてくことになるし店長だって娘さんいるしそれは流石に申し訳ないと思うからどうしようもない。
店長は悪くない。悪いのは休んだバイトとクリスマスだからって浮ついてる街の空気だ。
本部の命令で頭にのっけた赤と白のサンタ帽がより一層の哀愁を誘う。
何が悲しくてサンタの帽子被ってコンビニでレジしなきゃなんないわけよ。
ジングルベルのおっさんはレジには立たないし、オレがこんな帽子かぶってたからって売上上がるわけじゃないだろうし、クリスマス雰囲気なんか帽子で演出しなくても街の中に嫌と言う程溢れている。
一人身の方がもうちょっと笑い事にできた。
はいはいソウデスネー彼氏いないゲイはお仕事しますよーなんて自嘲して案外元気にネサフとかできたんじゃないかと思う。実際毎年そんな感じだった気がする。言う程、クリスマスなんか気にしてなかった証拠だ。
でもでもだって、倉科クン折角夜空けてくれてたのに。
忘年会にも同窓会にも行かず残業も断ってサクッと帰って待ってるからって言ってくれてたのに。
ちょっと本気で鬱入って泣きそうになりつつ世の中を恨みつつカップルをにらみつつレジをこなし、へろへろになった店長がちょっと休憩してくる、とバックに下がったのは十二時ごろの事だった。
一時を過ぎると、風俗店の一部営業を終えたおにーちゃんやおねーちゃんが街に溢れだす。そしたらまた混みだすから、それまではぜひオレ的にも休んでほしい。
ちょっと客が落ち着いた時間には商品の前だしとか補充をするんだけど、もうそれも嫌で面倒でレジでぼけーっとしてた。
何度見ても時計は一向に進まない。
あと二時間このまま突っ立ってるだけでも辛い。
バイト伸びちゃったから寝てていいよってメールしたけど、返信を見てる時間は無かった。
今頃倉科クンは何してんのかな。寝てるかな。最近飲み会続きで流石にしんどいって言ってたしな。そんな中ゲイの我儘に付き合ってクリスマスウフフなんかするより良い夜が過ごせてるかもしれないヨネ、なんて、あーもうこういう思考回路がよろしくないんだよって知ってるのについうっかり鬱突入しちゃって溜息ひとつついたとろこで。
「いらっさいま、……せ?」
がーって開いた自動ドアに反射的に声をあげて、ついでにちらっとそっちを見たらすごく見なれたピンクが見えた気がして、奇麗に二度見してしまった。
え。
え。
……え? いやいや、うん?
「……寝て、なよ、倉科クン……っ」
二度見してもやっぱりそこに居たのはやっぱり倉科クンだった。
妄想じゃない。幻覚じゃない。本物だ。カラフルなマフラーを巻きつけて、寒そうに刷り合わせた手を軽くあげてドーモと笑う。
本当にびっくりして口が開いたままになってしまう。
倉科クンは、基本的にオレの働いてるコンビニには来ない。迎えに来る事があっても最寄りの駅とかちょっと離れたコーヒーショップまでだ。
多分オレに気を使ってくれてるんだなってわかるから、それはそれで嬉しかったし、うわー優しいなー愛されちゃってるなーえへへっていう気持ち悪い感想しかないんだけど、だから本当にびっくりしたし、正直今店長休憩中で良かったと思った。
だって倉科クン見た瞬間すんげー顔熱くなったし一瞬でテンション上がった。
本当にオレってばこのわかりやすい性格どうにかしたい。
「いや、煙草切れて。買いに行くついでに、あー頼まれてた年賀状出し忘れたやべーと思って駅まで来たんで、なんかそのまま乗っちゃったんすよね。ていうかホラ、トキチカさん今サンタさん帽子着用って言ってたし。写メ撮ってきてくれないし。じゃあもう直接見るしかねーかって、思って」
「え。や、うん? 倉科クン酔ってる……?」
「缶ビール一本で酔うかって話ですよ。まー、素面じゃ電車に乗る前に引き返してたかもしんないけど。でも来てよかったですわ。なにそれめっちゃかわいいあほか」
「あほなのは倉科クンだとおもう、うわぁ恥ずかし……あー。あー」
「うん、あの、迷惑かなーってちらっと思ったのは思ったんですけどね。でもなんか、たまにはいいかなっていうかクリスマスだしいいかなっていうか、あーええと、うん、すいませんおれ浮かれてんのかも」
恋人とクリスマスっていうの、実はあんま経験ないんすよね。なんて照れたように視線をずらされて、オレはもうなんか、レジの中でどうしろっていうの馬鹿! って顔を覆うしかなかった。
「すいません頭冷やしつつその辺ぶらぶらしつつまた二時間後に戻ってきますわ」
「え。本当に他に用事ないの? 迎えに来ただけ?」
「うん。あとトキチカさんのサンタ帽見に来ただけ。ちょうかわいいので満足しました」
「まじで……倉科クンほんと予想外のキャラ突き進んでるよねオレ死ぬかもしれない……」
「自分でも中々ビビってるんでそこんとこは申し訳ないですけど、まー迷惑じゃないかなっていう線は一応わきまえてるつもりなんで、まあ、今日はお祭り気分で許してもらう方向で、ええと……おれなんで来ちゃったのかな。あー……最初のコンビニが、カップルだらけでムカついたのかも。んだよおれだってかんわいー恋人いんだよくそ、って思ったらって、あーすいませんこの話後にします?」
「……ソウシテクダサイ……腰が抜けちゃう……」
「相変わらずチョロいとことかも好きです。じゃああと二時間、ここらへんで時間つぶしてるんで頑張って」
照れ臭そうに笑って、それが格好つけた感じじゃなくて結構素っぽくて、あーもう倉科クンのそういうところが好きなんだよ馬鹿かっこいい辛いイケメン抱いて、って一通りメロメロしつつ頬を叩いて熱気を収めようとした。
さっきまで爆発しろとか思ってたけど、もうクリスマス万歳って思ってる。
倉科クンが褒めてくれた帽子も悪くないんじゃないのって思ってる。
オレってば本当にふわっふわした精神で生きてる。でも、そんなふわっふわなオレをうまいこと扱ってくれて、うまいこと落とさないように大切に好きだよ好きだよって言葉供給してくれる倉科クンはやっぱり偉大だ。
サンタさんって午前零時に来るわけじゃないっけ? それはシンデレラだっけ? なんかもうどうでもいいけど。
「あ。そうだ、メリークリスマス。酔っぱらいとかヘンな客とかに言われる前に言っときます」
「……ありがとうメリークリスマス一番乗りです……」
ふへへと笑った倉科クンがかわいくてサンタさんありがとうございます最高のプレゼントですってまたレジにへたり込んだ。
あーもうあーもうかわいいかわいいどうしよう。
いつもだったらこんなにかわいい倉科クンに遭遇した後は、明日世界は滅ぶのかもしれないってうだうだしちゃうところだけど、今日はホラ奇跡が起こるとか良いことあるとかそういう日でしょ? いやオレあんまりキリスト教に詳しくないけどさ。知らんけどさ。
だからなんか、クリスマスだから良いかって、よくわかんない納得の仕方をした。
カップルにも負けないと思いました。
クリスマスの話っていうか、オレってば本当にチョロいよねっていう話。
End
お題:シナトキクリスマス話