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花と脚。




有賀さんは女子の脚が好きらしい。

ということに実は薄々気がついていたんだけど、明確になぐりてーなぁって思ったのは今日が初めてで、それがうっかり顔に出てたらしく視線を俺に戻した有賀さんは珍しくびくっと肩を揺らしていた。

一歩引きやがったなこのやろう。
どうせアンタほど甘い顔してねえよ。

「ど、うしたのサクラちゃん、え、あ、不味い? 甘い? そのなんとかフラペチーノ?」
「比較的想像してたよりも甘いけど飲めないわけじゃない飲み物は悪くない」
「え。じゃあ何が悪……寒い?」
「薄着してきた感はある。でも寒い程じゃない。このモールそもそも暖房キツイ」
「……ええと、僕何かしたかな……」

こういう時に有賀さんはきちんと対話しようとしてくれる。なんとなく謝るんじゃなくて、改善できるならしようと努力するし、きちんと理論立てて言い訳してくれる。
だから基本勘違いですれ違い、なんてことはあんまなくて、人生の中でもトップクラスの良好なお付き合いを続けていた。

うっかりそういうとこ好きだな、とやんわりした気分になりそうになったのに、また有賀さんの視線がナチュラルに外に向いてるのに気がついて、眉間の皺が深まった。

土日休みの筈の有賀デザイン事務所が、珍しくカレンダー通りにきっかり土日休みになったのは久しぶりで、きっかりきっちり全力でカレンダーを守る里倉工務店と見事休みが被ったのも久しぶりだ。

別に生活全部有賀さん中心なわけじゃない。
俺は結構同級生やら友人やらの飲み会にも呼ばれるし、一人でふらふらバイク走らせることもある。

有賀さんも有賀さんでそこそこ忙しくて、まあ大概仕事が終わらないって引きこもってるけど、まったり読書したりとか映画みたりとかしてるらしい。各々、良い歳してるわけだしそういうちょうどいい距離で付き合える人で、ありがたいと思う。

でもまあ、ほら、たまに休日被った時くらいはべったりしてもいいじゃん? って思うタイミングも同じだったみたいで、この二連休はちょっと恋人っぽいことしちゃおっかーなんて笑って、連れだって近所のショッピングモールに来ていた。

昨日は寒空の中動物園に行った。
実はそんなに興味なかったんだけど有賀さんが行ったこと無いって言うし、美術館改装中で閉まってたから仕方なく入園してみたんだけど、結果二人とも良い歳して超絶はしゃいでしまって帰って来てから泥のように眠った。
小学生かって思うけど。そういう時間が共有できるのも、また有賀さんのいいところだと思う。

思うけどアンタ道行くオンナノコの脚見過ぎじゃね?
って思うわけですよ。
俺の眉間に皺も寄るってもんだ。

俺の前でブレンドコーヒーを飲んでた有賀さんは、相変わらず首を傾げて不安そうにしている。可哀想だなカワイイなっていう気持ちと、くっそ殴りたい気持ちが相まってわけがわからなくなりそうだ。

「サクラちゃん、あのー。もし僕が何かしたんだったら、言ってほしいし気をつけられることがあればさ、気をつけるし、ええと、ほんと何かしたかな、」
「脚」
「……え。え? あし?」
「女子の脚見過ぎなんだよこのやろう。それ無意識でしょ。有賀さんって胸にも尻にも興味無い割に脚だけはやたらと見るよな。脚フェチなん?」

フラペチーノをずるずると飲みながら、さらりと言い放ったつもりだったのに。
当の有賀さんは絶句した後にゆるゆると赤くなって机に突っ伏してしまった。くそ。かわいい。そうやってすぐ照れんのやめろ。かわいいから。

「あー……あーうわぁ……恥ずかし……あーあー。え、僕そんなにアレだった……?」
「ガン見じゃねーけど視線がすうーって追っかけてますよお兄さん。それイケメンじゃなかったらヘンタイって言われちゃっても文句いえねーっすよ。セクハラ基準随分下がってきてっからね。つか昨日もそうだったじゃん。カップルとかオンナノコグループとかのさー冬タイツに包まれたおみ足がお隣を通る度にさー、ちらっちら見てたじゃないですかー知ってんだからな」
「無自覚……完全に無自覚ですどうしよう恥ずかしい消えたい……てかサクラちゃんよくそんなことに気がついたね……」
「そうっすね。アンタが女子の脚見てる間俺はアンタ見てましたからね」

ずるずる。ちょっと硬いクリームを無理矢理ストローで吸いこもうとして変な音が上がる。スプーンで食べるのは面倒だ。

なんてどうでもいい事を考えようと努めるのは目の前の有賀さんが完全に茹っている気配がしたからだ。

「え……これ僕怒られてるの……? それともたらし込まれてるの……? あれ、これ、嫉妬、の話?」
「どうっすかね。まあ別に有賀さん元々こっちじゃないし、浮気とかじゃないし、そら可愛い子ちらちらしたり、アイドル見てかわいいねーとか言う気持ちはわかるしさ。構わないっすよ別に他人見るなとかそこまで俺もアレじゃないし。って思ってる気持ちと同時に女子の脚見てる有賀さんすげえ殴りてえって思う」
「うわぁ。……うわぁ、僕、今すごく幸せな気分になっちゃったんだけど殴られるのは痛そうだからデコピンくらいで許してほしいなぁ……」
「本気でやるけどいいっすか」
「痛そう。ていうかサクラちゃんその、ちょっと硬い言葉ね、ええと、……あーもう、だめだ拗ねてるサクラちゃんすごいかわいい…………」

そんなこと言いやがった有賀さんはまたへなへなと机に沈んだ。
両手で顔を覆うその仕草がかわいい。イケメンなのにあんまり格好つけないところが好きで、ものすごくかわいいと思う。

ちらっと見やると、あーあー唸ってて、俺も唸りそうになった。
ここがショッピングモールのカフェで良かったと思う。こんなの家で問答してたら問答無用で即甘ったるい雰囲気になってしまう。いや今も甘っかゆいけど。

「脚の奇麗な女子じゃなくてスイマセンデシタネー」
「もうやめて、ほんとかわいいから、もうやめて、僕こっから動けなくなる……あー恥ずかしいもうほんと無自覚だった……そういわれてみれば脚好きだなって実感しちゃってより一層恥ずかしい……気をつけよ……ああ、でも、サクラちゃんだって腰好きでしょ?」
「え」
「……ちょっと腰の細いおにーさんとかが横通ると、目で追ってるよ」

赤さの残る顔で悪戯っぽく笑われて、本当に無自覚だった俺は生クリーム噴き出すところだった。
熱い。顔あっつい。え、うそ、まじで? って思って思い返してみたらそうかもしれない結構見てるかもしれない。ていうか腰好きかもしれない。有賀さんの身体の何処が好きって言われたら圧倒的に腕と手のラインなんだけど、ああそうかも、腰好きかも……って気がついてさっきの有賀さんみたいに顔を覆った。

「…………はず……なにこれ、なんで俺反撃うけた……恥ずかしいあーあーあー忘れて五分前の発言から無かったことにしてください……」
「え、やだよ。僕も恥ずかしかったけどサクラちゃん可愛かったから絶対に嫌。サクラちゃんって僕の部位も腰が好きなの?」
「部位って牛とか豚のお肉の話みたいっすね俺は有賀さんの手と腕と鎖骨が好きっすけどね、相殺……そうだ、ほら、相殺しよ。なかったことにしよ」
「別に僕、サクラちゃんが他の人の腰に見惚れてても殴りたいとか思わないけど」
「え。ああ、そう? 俺の愛重い?」
「重くないよ。殴りたいとは思わないけどこっち向かせてキスしたくなる」
「……有賀さんの愛かっゆ……」
「なんとでも。最初にたらし込んできたの、今日はサクラちゃんの方だからね」

殴りたいって言っただけなのに、なんか俺が甘痒い空気作ったみたいに言われて解せねーなって思った。

結局最終的には何があってもアンタのそういうとこ好きだよって話になっちゃって、きっとこの先もこういう感じなんだろうな俺たちって思うから、まあその、なんだ。

有賀さん好きだ。

のろけでもなんでもなく、素直にそれだけストレートに感じた。



End



お題:有賀サクラでたらしこみ話。