荒北靖友は、福富寿一に飼い慣らされている。

そんな言葉を聞くようになって久しい。誰が言い出したものか定かではないが、随分と浸透しているらしいその噂は、無論、彼ら自身の耳にも届いていた。
だが、福富も荒北も、それを否定しようとはしなかった。寧ろそう言われることが“当然”だとでもいうように振る舞っていた。

事実、荒れていた荒北が更生するきっかけを作ったのは福富だ。
あの荒北が髪を切り、部活に、そして勉学に真面目に取り組むようになったのは、正しく福富寿一という男に出会い、ロードに出会い、ただ持て余すだけだった情熱を打ち込む先を新たに見つけたからに他ならない。
だから荒北は、福富には逆らわない。
そう結論付けられた結果こそ、荒北が福富の飼い犬と言われる所以である。
エースである福富。そして、そのアシストにまで、自力で登り詰めた荒北。
二人のこの絶対的関係は、そういった信頼の上に成り立つものだと、固い友情で結ばれたものなのだと、誰しも信じて疑わなかった。
だが、彼らの関係は、それだけではない。
福富と荒北は、月並みな言葉で言えば、付き合っている。
そして福富もまた、荒北靖友という存在に依存しているのだ。


 ◇◇◇


消灯時間を過ぎ、静まり返った寮の廊下を福富は歩いていた。理由はただ一つ、荒北の部屋へ向かうためだ。
たった数歩の距離を、極力音を立てないように歩く。普段なら気にも留めないようなスリッパが床を蹴る音さえ、今の福富にとっては随分大きく響いた。
誰も見咎める者などいないのに、どうしても慎重になってしまうのは、日ごろから真面目に生活を送ることに慣れているせいだろう。

「荒北」

一つ部屋を間に挟んだ先、目当てであった荒北の部屋の前に着くと、福富は周囲を気遣い、なるべく小さな声でその部屋の主の名を呼んだ。ややあって、カチリと鍵が開く音が聞こえた。

「ヨォ、福ちゃん」

数センチほど開かれたドアから、荒北がひょっこりと顔を覗かせる。「来たんだねェ」といたずらっぽく笑い、どうぞ、と福富を部屋へ招き入れた。

「…勉強、していたのか」
「ん?あぁ、まぁネ」

部屋へ入り真っ先に福富の目についたのは、びっしりと計算式の書き込まれたノートと、意外に使い込まれた参考書だった。ところどころにマーカーが引いてあったり、ポストイットが貼られていたり、充分に活用されているのがよく分かる。
この夏までロードレースに充てられていた荒北の時間と情熱は、今は受験勉強に向けられているらしい。そういえば荒北は洋南大志望だったな、と福富はひとり納得したように頷いた。



<<中略>>


二人縺れるように、ベッドへなだれ込んだ。その拍子に荒北の足が机に当たり、派手な音をたてて筆箱の中身が床に散らばった。
反射的に身体を起こしかけたその肩を、福富はやんわりと抑え込む。荒北は一瞬驚いた顔をして、けれどすぐに「しょうがねェナ」と笑って福富に身体を委ねた。

「……ん、っ」

トレーナーの裾から手を差し入れ、男とは思えないほど滑らかな素肌を楽しむ。探し当てた胸の先を軽く弾くと、荒北は僅かに声をあげた。

「ん、…っふ、ぁ」

捲り上げ、今度は舌で転がす。吸い上げ、時折甘噛みしてやれば、荒北は小さく身体を震わせた。
赤く色づいたそこを満足げに眺めながら、福富は器用にも荒北のジャージを脱がせていく。そして空いた手で、下着越しに荒北の自身を握りこんだ。乳首に吸い付き愛撫してやると、自分の手のひらの中でじわじわと硬度を増すそれを弄び、福富は楽しげに喉を鳴らした。
普段から福富に対しては従順な姿勢を見せる荒北だが、ことセックスにおいては、それがより顕著になる。恥ずかしがりながらも、言われるままに身体を開き、福富のことを受け入れるのだ。ただひたすら献身的な姿勢を見せる荒北を見ると、愛おしくて仕方ない。

「ん、あ……っ」

身体のラインに沿って唇を下へ下へと滑らせる。布越しに荒北のペニスを食むと、荒北はひときわ甘い声をあげ腰を跳ねさせた。

「あ、ダメ…、それ、やめろって…!」
「…そんな風には見えないが」
「ッ、おい、ふくちゃ…!」

下着をずり下ろし、直接先を咥える。吸い上げながら舌を這わせば、面白いように荒北の口から嬌声があがった。

「も、ヤだ、やめ…ふくちゃ、っ」


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