据え膳喰わぬは




レポートを終え、ふと携帯を確認すると、待宮からのメッセージが入っていた。どうかしたのかと思いながら画面をタップして開く。内容は実に簡単、「酔っぱらいを連れに来い」という一言に、テーブルに突っ伏して眠りこけている荒北の写真が添付されていた。

「いやあ、悪いのぉ金城」

指定された居酒屋へ向かうと、未だ眠ったままの荒北と、その横で苦笑いする待宮の姿があった。ゼミの飲み会だと聞いていたのに、二人以外の姿は見当たらない。それを不思議に思っていると、自分に荒北を預けて先に二次会先へ向かったのだと少々不満げに待宮が教えてくれた。

「こちらこそすまないな。…潰れきったところは俺も初めて見た」

余程の量を呑んだのか、それとも寝不足か何かで疲れていたのだろうか。

「先輩たちと随分盛り上がっとったぞ。ワシは違うテーブルにおったけぇ、詳しいことは知らん」
「そうか。…おい、荒北」

起こそうと肩を軽く叩く。
うう、と小さな呻き声と共に荒北はゆっくりと目を開けた。

「…アレェ、きんじょぉ…?」
「そうだ。帰るぞ、立てるか?」
「…ンー」
「お、い…荒北…」

寝ぼけているのか、もぞもぞと動いたかと思えば、ピタリと俺の腰に抱き着く。そしてまたすやすやと規則的な寝息を立てはじめてしまった。いくらなんでも酔い過ぎだろう、これは。溜め息をつく俺を見て、ニヤニヤと待宮が笑う。

「こりゃあ確実に明日には忘れとるの」
「その方が荒北にはいいだろう」
「…写メ撮ってええか?」
「次会った時に死にたくなければやめておくんだな」

とはいえこのままでは埒があかない。
一先ずタクシーを呼び、荷物を運ぶのを手伝ってもらって何とか自分のアパートまで荒北を連れて帰った。





玄関先で靴とコートを脱がせ、取り敢えずソファへ運ぶ。寝苦しそうだったからシャツのボタンも数個外してやる。ズボンもジャージに替えてやるか、と思い手をかけると、そこで漸く目を覚ました。

「起きたのか」
「…ンン…なに、どこここ…」
「俺の部屋だ」
「…なんでェ…?」
「酔いつぶれて、待宮から迎えに来いと連絡が来たんだ」

理解しているのかいないのか、荒北は「へぇ」と気の抜けた声を出す。

「で…何で真護チャンはァ、俺の服脱がせよーとしてンのォ…?」
「着替えさせようと思っただけだ」
「……そんだけェ?」

こてん、と首を傾げ薄い唇を赤い舌がチロリと舐める。アルコールのおかげでほんのりと赤く色づいた肌を見せびらかすように、荒北はシャツの襟ぐりを開いて見せた。

「もっとヤらしーこと考えてンのかと思ったヨ」
「考えてないとは言わないが、酔っぱらいを無理に襲うような趣味はないさ」
「ふぅん。…俺ェ、別に真護チャンなら襲われてもいーケドォ」

…この男は、一体どこまで本気で言っているのだろうか。
酔いのせいか潤んだ瞳が、挑発的にこちらを臨む。ゆっくりとしなるように弧を描き、ニヤリと笑った。

「キスしようぜ」

伸びてくる腕を拒めるほど、俺も大人じゃない。
多少の酒臭さは気にしないことにして、その手を引き唇を重ねた。普段の荒北なら、こんなことは言わないし、自分からキスをねだって、ましてや舌を入れてくるなんてことはしない。

「ん、っふ、ぁ」

荒北の舌を押し戻すように、自分のそれを荒北の口内へ侵入させる。ざり、と上顎を舐めれば、甘い息を吐いた。逃げようとする後頭部を抑え、より深く貪ってやる。

「……レモンサワーの味がする」
「っせ、バァカ」

しなやかな指先がフレームへ伸び、そっと抜き取られた。荒北はいたずらっぽく笑うと、テーブルの上へ眼鏡を押しやる。

「…全く。明日に響いても知らないからな」

薄い唇へ噛み付きながら、部屋の照明をひとつ落とした。






*ゆー様/素直な酔っぱらい北さんと金城




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