a little man with a big wife


テーブルの上に二つ、黄色いかたまりを並べる。傍らに適当に作ったソースも並べてやると、東堂は今にも涎を垂らしそうな顔をして、料理と俺を何度も見比べた。

明日も休みだから泊まって行くという東堂に夕飯のリクエストを聞くと、「ふわふわトロトロのオムライスが食べたいぞ!」と満面の笑みで言われたのが一時間ほど前だ。本人は近所の洋食屋辺りに行くつもりだったらしく、おもむろに冷蔵庫を漁り始めた俺の姿に面食らっていたのがかなり面白かった。

「…正直なところ、ここまで再現率の高いオムライスが出てくるとは思っていなかった」
「アー、オムライスは妹にせがまれてよく作ってたからなァ」
「他にもなにか作れるのか?」
「まあ、独り暮らし始めてからそれなりにレパートリーは増えたかもしんねェ」
「和食はどうだ?」

そういえばコイツ、基本的には和食派だったっけ。
学校や寮での食事風景を思い出してみると、八割ぐらいは和食を食っていた気がする。

「あー…」

最初は自炊なんて面倒だとコンビニで済ましていたものの、どうしても飽きがくる。その後暫くは元々作れたオムライス、シチュー、カレーのローテーション。けど結局それも飽きちまって、ネットで検索したり母親に電話したりして、和食も少しずつ覚えているところだ。まだ安定して作れるってレベルじゃねェけど、と前置きした上で「肉じゃがとみそ汁」と答えてやる。

「そうか!では次は肉じゃがを頼むとしよう」
「…お前小姑みたいなことすンなヨォ?」
「小姑?」
「ダシが薄いとか言って文句つけたりとか」
「ふ、何を言うんだ荒北。お前が作ったものなら何でも美味いに決まっているではないか!」

…今ちょっとだけコイツのことイケメンだと思ったかもしれねェ。認めたくねーけど。

「とりあえず冷める前にさっさと食っちまえバァカ」
「そうだな。折角の手料理だ、楽しませてもらうよ」

東堂は律儀に「いただきます」と手を合わせ、スプーンを手に取った。
東堂のメシの食い方は、なんというかこう、綺麗だ。躾がちゃんとされてる、というより、それだけで画になる、と言った方がいい気がする。正直ムカツクけど、見惚れちまう。

「うん、美味いな」

家族以外の誰かに、しかも恋人に、自分の料理を振る舞ったのはこれが初めてだ。美味い、なんて言われると、なんとなくむずむずする。そんな気持ちを悟られないように、くだらない芸を続けるバラエティ番組に意識を集中させた。





「作ってもらったから洗い物ぐらいは」

そう言われ、それは任せることにして。
かと言ってじっとテレビを見ているのも落ち着かず、布巾片手に東堂の元へ向かう。

「なんだ、手伝ってくれるのか?」
「二人でやった方がはえーかンな」

隣に並んで、洗い終わった食器を拭いていく。普段ならこっちが辟易するぐらいうるさい東堂が珍しく何も言わないから、俺も自然と口数が減る。そうなると聞こえるのは水音だけで、でもそれを不快に思わないから不思議だ。

「…東堂」
「なんだ?」
「お前今何考えてる?」
「…お前はなんだと思う?」
「……」

キュ、と蛇口を閉める音が、妙に響いて聞こえた。
半歩分空いていた距離が詰まって、東堂の手が頬に触れる。

「新婚みたいだな、と思っている。二人で生活したら、毎日こうだといいなとも思ってる。お前の作った料理を食べて、こんな風に過ごせればいいと」
「…バカじゃねェ?」
「それでも構わんさ。俺は今とても幸せだからな」
「…っ、オイ」

トレーナーの下から潜り込んできた冷たい指先がわき腹を撫でる。ぞわぞわとした感覚に拭いていたグラスを落としそうになり、慌ててカウンターへ戻す。

「ベッドに行こうか」
「……ふざけんな、このバカ」

数センチ下から覗きこむ東堂は明らかにオスの顔をしていて。
寄せられる唇に、俺はそっと目を閉じるしかなかった。








*麻耶様/ほのぼの家デートからの…



- ナノ -