※爆豪視点
※連載夢主イメージ




いつからだろうか。アイツが泣かなくなったのは。


常に泣いている印象しかなかったアイツも、いつの間にか一緒に卒園して一緒に小学校に入学して、一緒に学生時代を過ごしていった。これと言って仲が良かったわけでも、話をするわけでもない。ただ、家がそれなりに近くってそれなりに親同士の付き合いもあって…そうだ、認めたくはねぇがデクのいう幼馴染ってやつだ。


初めて会った時も、デクにちょっかい出した時も、いつもいつもアイツは泣いていた。


なんでそんなに泣くんだってぐれぇアイツは泣いて、泣いて、泣いて。泣いている印象しかない奴だったのに。


「≪本日正午過ぎ、〇〇町の△×駅前にて凶悪なヴィランが次々と一般市民を巻き込み、駆け付けたヒーロー数名も死傷したとのことです。繰り返します―≫」


とんでもねぇ事件だ、とテレビの向こうで慌てているアナウンサーを眺めながら思った。当時俺は小学生で、今は無理だろうがいつか俺がヒーローになってこういうふざけた連中をぶっ殺してやるんだとか思ってたのを鮮明に覚えてる。
あ?なんで事件のこと覚えてんのか、だと?……ニュースの映像の中に地面に横たわったまま動かない大人の脇で大泣きしながら助けを求めているアイツの姿が映ったんだ。衝撃的過ぎて忘れられるわけねぇだろ。
ポカンと口を開けたまま自然と画面に見入っていた俺と一緒にニュース見てた親も気づいたらしく急に慌てだしてアイツのトコに連絡してたみてぇだが、どうやら結局繋がらなかったらしい。
結局その日はデクんトコだか、学校にだか連絡がついて親は夜遅くまで色々事情を聴きまわっていたみてぇだが、俺は夜遅いから寝ろだとか心配しなくていいとかなんとか言われてその日は何だかスッキリしねぇまま眠った。

しばらく、アイツは学校に来なかった。

担任からは親御さんが事故に合われて〜とかなんとかでしばらく休みますと説明されてた気がする。まぁ、当たり前っちゃぁ当たり前だが。当然のようにいつもそこにいたアイツの席が空っぽで。いつも何かの話の真ん中に立っていたアイツが居ないのに、周りの連中もこれといって話題にすることなく普通に時間が過ぎていくのが不思議で。ただ、アイツに関する安否も何も情報が入ってこないことに俺は一番の不審を抱いていた。それはデクも同じで、いつだったか一度だけ「なまえちゃんのことなんだけど…」と恐る恐る聞いてきたこともあった。…結局俺たちは何も分からないまま、しばらくの時間が過ぎて―。


「もう、大丈夫だよ」


何事もなかったかのようにアイツは教室に現れた。なんの前触れもなく。クラスの女子たちが一斉にアイツを取り囲んで「大丈夫だった?」とか「寂しかったよ〜」とかなんとか騒いでいるのを俺はただ眺めているしかできなかった。いや、本当に何事もなかったかのように突如教室に顔を出したアイツはなんとも穏やかな顔で、普段通りだったのだ。


今、思えばそれからだったのかもしれねぇな。アイツが泣かなくなったのは。


結局それからそのことは話題に上がることなく俺たちも何となく違和感を感じながら以前と同じような日常を過ごしながらいつの間にか卒業式を迎えていた。まぁ、結局卒業といってもほとんどの連中が同じ中学に行くわけだからこれと言って別れを惜しむわけでもなく、ただ卒業式という行事、ということで記念撮影やらなんやらで騒いでいる連中ばっかりだった。
式が終わり、すっかり日も傾き始めた頃。俺は騒いでいる連中の輪から抜け出してさっさと帰ろうと教室に置いていた荷物を取りに立ち寄った。


「………」


卒業おめでとうとかなんとか大きく書かれた黒板を残して誰も居ねえはずの教室。だが、そこにいたのは紛れもねぇ、アイツだ。ふわりと風が入り込みなびくカーテンとそのカーテンの向こうで紅く色づき始めている空を背景にアイツは教室の扉を開けたまま固まっている俺の顔を見て少し驚いたような顔をしたがすぐにふわりと笑った。そう、笑ったんだ。


「……何してんだ、てめえ」

「…別に?卒業するってことをしみじみと感じてただけ」

「……そうかよ」


そういや、いつも仲良くしていたグループの中にもデクの傍にもいなかったな。と先ほどまで騒いでいたクラスメイト達の輪の中に目の前にいるコイツが居なかったことを思い出しながら、バックを手に取って教室を後にしようと歩き出す。


「ねぇ、勝己くん」


その背に向かって投げられた自分の名に思わず足を止め「あ?」と声を零しながら振り返る。するとアイツはニコリとほほ笑んだまま緩く靡いているカーテンの窓枠に寄りかかるように手を置きながら静かに続けた。


「出久と出来るだけでいいから仲良くしてやって」

「あぁ゛??!なぁんで俺があんなデクなんかと―…?!!!」

「それから、すぐにそうやってキレる癖。直しなよ?」

「っせえな!!!余計なお世話だっ!!!」


目を細めながら優しく言ってくるソイツに思わず声を荒げれば、ビシッと指さされてそれも直してと指摘される。短い会話だが、久々のやり取りのような気がした。あの事件から更に関わりあうことが減っちまっていたから。まぁ、別にこんな泣き虫と慣れあう気なんて更々なかったんだが。


「ふふ、そう言うと思った」


すべてを見透かしていたかのようなその笑みはとても柔らかくて。今まで俺に向けられたことのないソイツの表情に俺はどういう顔をしてやればいいのか分からなかった。どこか儚げというか、脆く壊れそうというか…今までに見たことのない表情(カオ)だった。だから、妙に胸のあたりがモヤモヤして、自棄にイラっときて、思わずいつも通りに


「んだよ、ったく…意味分かんねぇ…」


そう吐き捨てて、荷物を担ぎながら教室を出た。アイツは何も言ってこなかったし、追いかけてくる素振りも見せなかった。そういえばアイツの親御さん、2人とも卒業式来てなかったみてぇだったな…。まぁ、デクんちとでも一緒に帰るんだろう…俺の知ったことか。どうしてアイツのことを気にかけなきゃならねぇんだ。馬鹿らしい。そんなことを脳裏で吐き捨てながら帰路についた。



― そしてアイツは忽然と俺たちの前から姿を消した。



中学校入学式、アイツの姿が見当たらずアイツの親御さんの姿も見えない。急に体調でも崩したんだろうかと思っていたが入学式が終わり、自然と知り合いの親御さん同士で集まり話している最中俺とデクもその輪の中に強制参加させられる。そして、デクの親御さんからアイツが引っ越したことを聞いた。それを聞いたデクも驚いた顔をして「それいつのこと?!」と親御さんを問い詰めてた。本当にデクの野郎も知らなかったみてぇだ。
かと思えば、俺の親も知っていたらしく「え、あんたたち聞いてなかったの?」と逆に驚かれた。どうやらアイツ自身から聞かされていたと思っていたらしい。

そして止めに聞いた、衝撃的な事実。

アイツの母親はアイツの目の前で凶悪なヴィランに殺されていたこと。そして、小学校を卒業したら転勤の多いアイツの父親が今住んでいる家へと引っ越することはもう決まっていたということ。

何が「もう大丈夫」だ。
何が「デクと仲良く」だ。
何か「癖を直せ」だ。

何が、何が、何が。

それが大丈夫ってツラかよ。って素直に吐き出せなかった俺。あの違和感に気づいておきながら何も察してやれなかった俺。突然ぽっかりと大きな穴が開いたみてぇで、デクとの距離が更に深まって。何もかもに苛々して。

全部、全部、アイツのせいなんだ。
泣かなくなった、アイツのせいなんだ。

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