※轟くん 視点
※連載夢主イメージ
昼休憩。いつものように食堂に向かい、定食を頼む。いつもの席に腰掛けて独りで食べる。時折、クラスの奴らと食べる時もあるが基本ここで独りで食べていることが多い。だから、今日もいつも通りの昼食になる、筈だった。
『隣、いい?』
不意に俺の横に現れた一つの影が急に声をかけてきたものだから驚きながらそちらに視線を移すと、少し困り顔の苗字がそこに立っていた。
「ああ」
俺が返事を返すや否や「よかった〜」なんて言いながら俺の横の席に腰を下ろす苗字。別に食堂が混んでいるわけでも無いし、いつもクラスの女子とか緑谷と食べている筈なのにどうして今日は俺と2人…で食べることになったのだろうか。
「珍しいな。苗字が1人なんて」
『皆なんか用事あるとか先生に呼び出し喰らったとかでいなくなっちゃって』
「そうか」
『あ、仕方なく轟くんと食べてるとかそういう意味じゃないよ?私一人だし、轟くんも一人ぽかったし、たまには一緒に食べながらお話ししようかなぁって』
「分かったから落着けって」
勘違いしないでね!と慌てる苗字に思わず早く食べろと落ち着かせる。お前が誰かと仕方なく昼飯を食べるような奴じゃない事ぐらい知ってる。苗字はどちらかというと隠し事が苦手な方だろうし、本当に他意はないのだろう。
『いただきます』
「弁当か」
『そうだよ。出来る限り節約しないと』
「自分で作ってんのか」
『え、だって独り暮らしだし』
「…ああ、そうだったな」
定食の皿が並んでいる俺の隣で可愛らしい柄がプリントされたその包みを広げ、おしゃれな弁当箱を開けると手を合わせてから食べ始める苗字。そういやコイツ独り暮らしだってこの前誰かに聞いたな。となれば家事を自分自身で行っているのは当たり前。ちらりと覗いた弁当箱に詰まったおかずはこれまた綺麗で美味しそうだ。そうか、苗字は料理得意なのか。
『自慢じゃないけど、簡単な料理なら大体のものは作れると思うよ』
「何が得意なんだ?」
『え?んー良く作るのはカレーかな。楽だし、ご飯でもうどんでもパンでもいけるし、アレンジいっぱい出来るし』
「…そうか」
『はは、平凡でしょ?』
野菜切って炒めて煮るだけの料理だよ?なんて笑いながら言う苗字。定番と言えば定番だが、何故だか苗字が作ったカレーライスを想像すると普通に美味しそうな気がした。
「他には?」
『…ん?』
「他には何か作るのか?…例えば和食とか」
否、此処は普通お菓子とか作るのか?だろう轟焦凍。言ってから後悔する。何だ和食って。明らか家庭的な味を求めてるのがバレバレだ。幾ら話題を続けようと思ったからって…目の前で和食の定食を喰いながら聞く話題じゃないだろうが。
『え、あ、うん。焼き魚とかお味噌汁とか煮物とかもメジャーなモノなら大体出来るよ?』
「…そうか」
聞いたことに対して色々と反省している俺を余所に、コイツどこまで正直者なんだと思うほど素直に答えるものだからさっきまで考えていた悩み事が一瞬にして消えていく。
代わりに浮かぶのはエプロン姿で台所に立つ苗字。テキパキと料理を作る彼女の背中が何故だか思い浮かんだ。もぐもぐと美味しそうに自分の弁当を頬張る苗字を余所に俺の頭の中は全くの別のモノに切り替わっていたのだ。
『ねェ、轟くん?』
「ん?どうした?」
『なんでそんな嬉しそうなの?』
「…え?」
その言葉に思わず固まる。え、今、なんて言った?
「…俺、そんな顔してたか?」
『うん。笑ってたよ』
「…そうか、いや、何でもない」
『?変な轟くん』
あはは。なんて笑う苗字がまた弁当のおかずを頬張る横で、何を考えてるんだ俺は…。と徐々に自分の顔に熱が籠るのが分かって恥ずかしさのあまり柄になくコップの水を一気に飲み干した。
Thank you 1st anniversary.2017(第1位)