※不規則バイオリズム連載夢主イメージ




ただいま、と短く疲れ切った声がして玄関が閉まる。ゆっくりとこちらに近づいてくる音に合わせて視線を上げれば、ネクタイを緩めながら上着に手をかけている独歩さんと目が合った。
今日もお邪魔してます。というより強制連行されました、と会釈すれば独歩さんははあと短く息を吐いていつもすまないなと言った。いいえ、決して独歩さんのせいではないので。


「おー…毎年恒例とは言え、今年も凄いな」


自分が料理の乗った皿を置いて行くテーブルの椅子に脱いだ上着を置きながら、独歩さんがリビングの端に置かれたプレゼントの山を見て息を吐くようにサラリと呟く。
綺麗な包み紙に包まれたものから、あからさま見て分かるようにシャンパンのボトルに可愛らしいリボンをあしらったものやら、花束やらで出来た山は一年に一度の本日のイベントの成果を物語っている。


「お!独歩お帰り〜!」


そのイベントを制し、山を作り上げた張本人。そしてその山を持ち帰るのを手伝って欲しいとLINEで助けを求めてきた挙句、今日の夕飯を作ってくれと懇願してきた張本人の一二三さんが部屋の奥から顔を出す。お前な、なまえに迷惑かけるなとあれほど―…と呆れ顔の独歩さんに対し、一二三さんのテンションは相変わらずだ。


「んでんで?独歩は?チョコ何個?」

「…大体10個ぐらいだ。多分同じ部署の女性たちから…義理ばっかだけど」

「凄いじゃないですか」


ガサリといつもの通勤カバンとは別に持っていた紙袋がテーブルの傍に置かれる。チラリと中を覗くと可愛らしいパッケージのモノから、手頃な価格でよくスーパーとかに置いてある簡単なチョコ菓子まで色々なものが詰まっていた。たとえそれが義理だったとしても、貰えた事に変わりはない。独歩さんカッコいいからもっと貰えると思ってたけど、とは口に出さずに夕飯の準備を進めていく。


「そういや、なまえは?今日バイトだったっしょ?」

「まぁ…貰いましたよ」


今日はチョコやお菓子もあるしさっぱりした夕飯が食べたいと言う一二三さんのリクエストで胃に優しいさっぱり料理をチョイスした。我ながら料理のレパートリーがあって助かる。コトリコトリとそれぞれのグラスを定位置に置きながら一二三さんの問いに答える。


「今日たまたま同じシフトだった女子2人から義理チョコ2つと、店長からお疲れ様って市販のチョコ1つ。計3つですけど」


お二人とは程遠い記録に我ながら笑みが零れてしまう。まぁ、職場環境の違いが一番の要因だろうが歴然の差という言葉がぴったりという現状に自然と笑みが零れていた。ふーん、と自分で聞いてきた癖に少し興味のなさそうな声を発しながら一二三さんが料理を並べ終えた自分に近づいてくると徐に肩に手を置いてきた。


「んじゃ、俺っちと独歩からの分合わせて5個な!」

「…え、」


スッと差し出された可愛らしい袋に入った明らかに手作り感満載のお洒落なクッキーと、少し歪になってしまった色々な形のチョコレートに目が点になる。
差し出されたそれを素直に受け取り一二三さんを振り返ればすっごい笑顔でコクコクと頷いているし、視線を独歩さんに向ければ少し恥ずかしそうに視線を外された。恐らく、クッキーが一二三さんでチョコは独歩さんからと言う事らしい。


「…いつの間に」

「昨日独歩と一緒にチャチャっと作った!」

「おお…独歩さんまで…」


如何にも美味しそうなクッキーに、形は少し歪んでしまったがどこか可愛げのあるチョコに先ほどとは別の自然な笑みが零れる。今日という日に貰ったプレゼントの数が増えた事も嬉しいが、何より彼から手作りのチョコを頂けるとは思ってもみなかった。


「一二三さんはともかく、独歩さんからも頂けるとは」

「ちょっ!なまえひどくね?!」

「いや、一二三さんこういうの好きじゃないですか。だから独歩さんも作ってくれたってのが俺的にビックリで」

「一二三に比べれば、俺のなんて歪できっと味も悪いからやめようって言ったんだが…」

「いえ、嬉しいです」


難しい顔してチョコの形を整えようと奮闘しながら作っている独歩さんの姿を想像しながら手中に収まったそれにフフっと声を出して笑う。形なんてどうでもいい。味なんてどうでもいい。兎に角2人にこうした記念日に何かを貰えたことが単純に嬉しかった。
ありがとうございますと軽く会釈すると、いつも世話になってるしな。と少し力の抜けたように微笑んだ独歩さん。すると傍でニヤニヤしながら一二三さんが囁く。


「独歩な、今年はなまえと先生にしか渡してないんだって!」

「ひっ!一二三!!」


ニシシと笑う一二三さんにどこか顔が赤くなっているように見える独歩さんが慌てたように声を上げる。それを聞いて思わずキョトンとしてしまったが、すぐにへにゃりと口の端を緩ませてそのチョコを持ち上げながら口を開く。


「じゃあ、レアチョコですね」


その発言に今度は一二三さんと独歩さんが固まっていた。

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