我が帝光バスケ部は一言で言えば絶対王政下にある。それは主将の彼が否応なしにそうさせているのだけれど。ていうか彼を取り巻く全ての関係性がそれに違いないのだけれど。青峰が暴君だと言うのなら彼はきっと帝王に違いない。
ていうか、良くも悪くもうちの部の面子は(レギュラーを中心に)クセのある人たちばかりだ。そんな彼らを束ねるだなんていくら帝王でも至難の技だろう、と思う。けれど、彼はそんな素振りは少しも見せずに、何事もさらりと切り抜けてしまう。
だから放課後、偶々通った空き教室に見知った赤髪を見付けたとき、一瞬幻覚なのではと疑ってしまった。もしくは、私のよく知る彼とは別人なのではと思った。何故なら彼は教室の机に突っ伏したまま無防備な姿を晒していたからだ。珍しい所の騒ぎではない。恐る恐る近付けばその人物はやはり私のよく知る彼だった。
「やっぱり寝て、るの?」
彼がこんな所で居眠りだなんて、余程疲れているのだろうか、という懸念が過る。そしてあの彼が、居眠りだなんて可愛い所もあるなとかそんなことを考えてしまったり。
でもやっぱり、私にも弱さのようなものを見せてくれない人だから、少しだけ寂しいなと思う。
彼女に対して安寧を求めるようなタイプではないのかもしれないし、私では力不足なのかもしれないけど。
真っ赤な髪に触れれば意外にも柔らかくて、そのままゆっくりと撫でてみる。こんなこと今しか無理だろうけど。
心がほっかりと温かくなって愛しさが込み上げる。
「好きだなあ……」
漏れた独り言は余りにも自然に口からこぼれた。
「知ってるけどね」
「へ?」
やわらかな空間を打ち破るはっきりとした声に素頓狂な声が漏れた。意地悪そうな瞳が私をしっかり捉えた瞬間、一気に熱が顔に集中した。
逃げを打つ私の腕を即座に彼の手が掴んだ。反射神経良いにも程がある。
「お、起きてたの?」
「まあね」
「いつから」
「君が入ってきたときから」
目眩がした。最初っから起きていただなんて、ていうか私が起こしたのだろうか。いやそれは申し訳なく思うけど、じゃあ起きてるって言えばいいのに!
「ふ、真っ赤」
「うるさいよ」
「キスくらいしてくるかなと思って待ってたんだけど」
「しないし!」
「でもまさか頭を撫でてもらえるとは思わなかったよ」
「う……」
私このまま蒸発するんじゃないのって位には恥ずかしい。顔所か全身が熱い。もう半泣きだ。
「つ、疲れてるのかと思ったの!」
「僕が?」
「だって、珍しいじゃん」
「まあ、そうなのかもね」
「……起こしてごめん」
「いいよ、いいこと聞けたし」
「そ、れは!」
もう本当に泣きたい。既に泣いてるけど。
「でも、もう少し寝るよ」
「え? あ、うん。おやすみ」
つまり私邪魔ってこと?私は離れようとして――掴まれたままの腕と訝しげに細められた瞳に阻まれた。
「どこ行くの」
「え、だって赤司寝るんでしょ? 私邪魔かと思って」
「君はここにいるんだ」
「え、あ、はい」
言われるがままに赤司の座る前の席に腰掛けると腕を離された。彼の温もりが離れるとなんとなく、寂しく思ってしまう。本当にどれだけべた惚れなの。
すると、ゆるりと伸びてきた手に指が絡められる。彼は所謂恋人繋ぎというものを器用にしてみせた。
「君が考えてることは大体想像つくけど」
「エスパーですか」
そうかもね、と今度は緩く細められた瞳が矢鱈と妖麗で、本当に全てを見透かされていそうで洒落にならない。
「君が側にいるだけで癒される程度には、僕も君にべた惚れだよ」
ちょっとどこまで知ってるの!?どれだけ私の心読めるの!?とは思ったけれど、私はもう可哀想なレベルで真っ赤になるしかなす術がなかった。
infinity様よりお題拝借
甘い帝光時代赤司様とのリクエストで
帝光時代設定活かせてない気が……すみません。
僭越ながら相互記念にオーバーフローの茉崎様に捧げます