温もりに名前をつけるなら

 出来るだけきつく瞼を閉じて、両耳を手で塞いで、無意味にベッドの壁際の角に体育座りで小さくなった。

 まだ昼間だというのにきっちりと閉められたカーテンの隙間から、眩い光が入り込む。いち、に、さん、よん……二桁程まで数えたところで、けたたましい音が部屋に響いた。我ながら大袈裟だと思うほどに肩が揺れる。

 これは只の静電気だ。大丈夫よ、大丈夫……。頭の中で言い訳のように繰り返す。

 つまり何が言いたいのかというと、私は雷が苦手なのだ。怖いとかではなくて少し、あの音だとかがにが――びくり、また肩が揺れる羽目になった。
 すいません今の嘘。雷がめっちゃ怖いです。それはもうごっさ怖いです。涙出ちゃいそうな程度には怖いです。チビりはしないけど――はい、嘘です。チビりそうです。ていうかもう泣いてます。ガチ泣きです。誰か助けてください。
 しかし今、家にいるのは私だけだったのでしたとかなんという不幸なのでしょう。もう私が何したって言うんですか。しかも今日はお家に誰一人帰ってきません。雷が夜まで続いたらどうするんだよ。雷まじ空気読めよ。ていうか誰か、私のこと心配じゃないの?雷が鳴り響く中で私を置いていくだなんて鬼畜にも程があるだろ。

「おー、泣いてる泣いてる」

 聞き慣れたというか既に聞き飽きた声に、固く瞑っていた瞼を開く。やはり、見知った顔に自分でも情けないと思う程に安心した。

「な、んで、いるの」
「隣の家の子が雷ごときで今日も今日とて泣いてるんだろーなあと思って心優しい幼馴染みが態々来てやったんだよ」
「お前おこがましいにも程があるだろ」
「じゃあ帰ろっかな」
「すいません帰らないで下さいここにいて下さいお願いします」
「……いいな、今の」

 そう言ってにやつきながら和成は私のベッドに腰掛けた。

「ねぇ、ちょっと、近くに来てよ」
「本当にお前って……」
「何よ」
「普段からそんなならなー」

 言いつつ私にぴったりとくっ付いて座る和成によし、と言えば軽く小突かれた。

 和成は少しだけ濡れてて、肩に掛けたタオルで髪をごしごしと拭いていた。ちょ、おま、それうちのタオルではないか。ていうか、私のお気に入りのタオルじゃあないか。しかし今は文句を言える立場と気力がない。くそう、今度こっそり仕返ししてやる。

「ねぇ」
「ん?」
「こないだ医療ドラマを見てやってたんだけど」
「いきなりどうした」
「気持ちが不安定な人に対して自分の体で圧迫することで精神を安定させることができるってことが医学的にも認められてるらしくて」
「素直に抱き締めてとは言えんのか」
「抱き締めてとかなんかやだ。ぎゅーってして」
「まあ、うん。可愛いからもういいわ」

 ほら、おいで。そう言って両手を広げる和成にずるずると近付くとすっぽりと腕に収まった。顔を胸に押し付けると和成の匂いで包まれるみたいでひどく安心した。腕は背中に回して隙間が無いくらいに密着する。右手は頭に、左手は背中をぽん、ぽん、とゆっくり撫でてくれる。

「ねぇ」
「んー?」
「今日泊まってくよね?」
「今度はえらいストレートだな」
「言っとくけどご期待には添えないから無理だから」
「目隠しと耳詮とかどうよ」
「死ねばいいと思う」


infinity様よりお題拝借


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